第18話 五 転生

 戦国の世、亜の国と呼ばれた弱小国の、城というにはおこがましい、せいぜい砦程度の城の領主の住む屋敷内に、突然赤子の泣き声が未明の空に響き渡った。


 領主、宮下義明には子供がいなかった。そのため突然降って湧いて出た赤子を、我が子として育てることにした。


 名前を舞、舞姫と名付けたのだった。


 赤子の胸には『まい』と書かれた布が縫いつけてあったからだ。


 宮下は舞姫を溺愛したが、舞姫自身はそれに溺れること無くサムライの子として類まれなる素質の片鱗をみせながら順調に育った。


 舞姫には転生前の記憶はもちろんなく、武術家としての身体的能力だけは、なぜかそのまま引き継がれていたため、生まれながらの天才との巷のもっぱらの評判だった。


 (天が遣わしたかもしれない)捨て子というその出生の秘密を知る数名の家臣や領主の正室が、舞姫の登場後まもなく皆次々と他界したため、真実を知る者は領主宮下義明のみとなる。


 家臣のみならず領民の全てが、領主の実子と疑わなかったのである。


 幼いながらもその美貌と性根のやさしさ、そして武将としての器量のよさが多くの家臣、領民に圧倒的指示を受け始めた推定七、八歳の頃、彼女は武器を使わず、素手で相手を倒す見知らぬ初老の男と出会った。


「お主、名はなんという?」


「・・・・・・わかりませぬ・・・・・・」


「忘れたのか、記憶にないのか・・・・・・ まあよかろう。お主のことはしばらく『爺』と呼んでやる。そのうち名前も与えよう。私と一緒に登城せい」


 舞姫と爺の物語の幕開けの瞬間だった。 

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