第27話 騎士科編:学院2年生秋①リンデンバルクの神話 前編

慌ただしい夏が終わり、陽射しも落ち着き過ごしやすい気候になった。

学院前の並木道も、きらきらと煌めく金色や燃え盛るような赤色の葉っぱで彩られ視界が賑やかに変化した。

空には薄く伸びた雲が所々に点在し、その間を秋の渡鳥が集団で飛び去って行く。

どこか浮き立つ気持ちともの寂しい気持ちが入り混じった秋になった。


学院では、芸術祭の準備期間になり、忙しなくそれぞれが動き回っている。

エリザやコンラッドは、文官コースで模擬社交会の準備、模擬店の準備をしていて、騎士科よりも忙しくてなかなか会えない。

騎士科の面々は、修練に明け暮れていた。

脳筋集団は、頭を使わない季節ということでのびのびと剣を振るう。

アリスンも最初は参加していた。

しかし、アリスンはむさ苦しい男どもが汗を飛ばしながら、ふぅーふぅーと肩で呼吸して修練する姿が目に優しくなくて逃亡した。

結果、現在キャスと二人で優雅にお茶会中である。


「ねえ、アリスン?こないだの大捕物は、結局どうなったの?」

キャスは、カップを机に置いてアリスンに問いかけた。


「あー、あれね。

赤・青・白・緑の騎士隊の中に関わってた人がいたみたい。

数は20弱で少なかったみたいだよ。二重契約書に関わっていたのは3人だけど。

他は情報操作をしたり、巡回ルートの横流しに協力してたみたい。」

アリスンもカップを置き、キャスに向き合った。


「そうなの。黒と無色にはいなかったのね。」


「無色は、元々誰が所属してるか分からないからね。

いるかもしれないけど、犯人たちの尋問では名前が出なかったみたい。

まぁ無色に所属している人が証拠を残すようなことしないよねぇ。

黒は、首長が怖くてそんなこと出来ないって感じの雰囲気が隊全体に流れてるらしくて、危ない橋を渡る物好きはいないらしいよ。

とりあえず、取りこぼしは無さそうだよ。

ファラウトが、騎士たちをめちゃくちゃ脅して自然にベラベラ喋るように誘導したみたいだし?

所詮は、脳筋だから自分を擁護することも出来なかった小物だって言ってた。」


キャスは、眉根を寄せてボソリと「悪魔ね。」と言った。


「それで行政の方は、どうだったの?」


「あー、そっちは大量みたい。まだ取り調べに時間がかかってるみたいだよ。

地方行政官もごっそり処罰されて、地方行政官不足になってるみたい。

中央行政官は、今の所下位行政官だけの関与しかわかってないんだって。中央の上層部が関与してた証拠が見つけられないんだってさ。

尻尾をなかなか出さないところが、文官っぽいよねぇ。」


「ふーん。腹黒いやつらの温床ね、グーテンバルクの中央行政府は。

こわいこわい...。」

キャスは汚いものでも見たかのような侮蔑の目で中央行政官を貶した。


「ところで、その件に関わったファラウトやアリスンには、褒賞は出ないの?」


「名誉という褒賞よ....。

多分ファラウトとかジェフリーは、昇級があると思うけど。私は所詮11歳児よ。」


キャスは、つまらなそうに興味をなくしてお菓子を食べ始めた。


「そういえば、キャスに聞きたいことがあった!ねぇ、山の神について聞きたいんだけど。」

アリスンは、監禁中に考えてたことを思い出した。


「山の神?何、そんなものに興味があるの??」

キャスは、キョトンとしてアリスンを見る。


アリスンが信心深い素振りをしたことがないので、キャスは疑問に思ったようだ。


だって、この国の宗教の神って微妙だからね。

なんでも叶えてくれる万能の神って言う定義だから、抽象的すぎて胡散臭すぎる。

だから、アリスンは教会にも行かないので、キャスも不思議なんだろう。


「うーん、神様に会ってみたくて?

とりあえず、キャスの国の人の中には会ったっていう人がいるんでしょ?」

どんな神なの?命の神かな?と目を輝かせながらアリスンは聞いた。


「前も話した通り、死にそうになった時に現れるのよ。

光が目の前に現れて、光に包まれるのよ。

すると、安全な場所に移動していて、体も回復してるって感じかな。」

ふーん、転移と回復魔法があれば私でもできるね。本当に神かな?


「そっか、じゃあリンデンバルクの神話教えて。

うちの国のジャノアスター教の神様ジャンドレーク様って、なんでも神様だから嘘くさい話しかないんだよ。実際にありそうな神話があったらいいなって思ってるんだ。」


呪いを解いてくれる神様の情報が欲しいのに、うちの国のジャノアスターは絶望的な嘘臭さだ。

だから、他国に注目した。

だがこの国には、他国の経済情勢等を記した書物や新聞はあるが、神特化の情報はない。そこで留学生のキャスが適任だ。


「そうねぇ。うちの国は遊牧民族から成り立った国だから、神話は各家での口伝なのよ。だから、ズレが各家で多少あるけど。

うちの王家のものでもいいかしら?

教会もないし、神官もいないし、ちゃんとした宗教はない国だから書物も聖典もないのよ。だから、正確じゃないし曖昧だけどいい?」

キャスは、王家の神話を話し出してくれた。



はるか昔、創造神によってこの世界シュッテガルトができた。

創造神は、まず光と闇を創った。

次に光の神ドレーナと闇の神ジャンアスターを生み出して、二人に世界の細部を創らせることにした。

ドレーナとジャンアスターは、夫婦になり契った。

その時太陽と月が生まれた。

その後二人の神は子供を5人創った。

その5人はやがて、異能を発揮した。

長男クレーフェルトは、大地を作る力を。

長女ヴァッサナは、水を作る力を。

次男エアブロンは、風を作る力を。

3男ファルデスは、火を作る力を。

末っ子次女ドルトナは、時を作る力を。


クレーフェルトは、シュッテガルトに大地を作り地面で満たした。

ヴァッサナは、その上に水を作り海を作った。

エアブロンは、風を吹いて大地を削り山や谷を作り、水を閉じ込める地形を作り、海と大陸を分けた。

ファルデスは、火を焚いて世界を温めた。

ドルトナは、太陽と月の満ち欠けを操り、朝と夜を作った。


やがて、大地に1本の木が生えた。

植物が生える環境が整ったのだ。

この木は、『始まりの木エルスト』と呼ばれた。

エルストは、沢山の実をつけた。

その実の中から、眷属の神々が生まれた。

その眷属たちと共に5神は、人や動物を創造し見守り今となる。


まず、エルストから生まれた眷属は、オーディナ。

オーディナは、一番最初に生まれたため他の眷属が入った実を全て食べてしまいます。

そのため、オーディナは知識と異能を貪欲に吸収した。

結果、オーディナは全知の神になりました。

しかし、全ての実を食べたことを5神に怒られ、光と闇の夫婦神の元で性根を据えられた。

その後も新たな実を食べることを懸念して、夫婦神と天界で過ごすことを強いられます。


エルストは、その後何千年もの間、実を新たにつけませんでした。

5神は、他にも仲間が欲しくなりエルストに己の魔力を込めました。

すると、2つの実が実りました。

出てきたのは、最初の人間です。

名を、アダウェルとイブリナと言い、仲睦まじい夫婦となりました。

彼らには、知性と感情と感覚と言葉と性欲と食欲がありました。

食欲を満たすためには、植物を生やす必要がありました。クレーフェルトとオーディナは、彼らのために植物を与えました。

すると、エルストはようやく一つの実を生み出しました。

その実から植物の神ケレナデスが誕生し、大地を緑豊かなものに変えました。


アダウェルとイブリナは、沢山の子供達を作りました。やがて、植物だけでは食料が足りなくなってきました。

オーディナは、食欲が満たされない人間たちを不憫に思い、エルストに魔力を込めました。

すると、エルストは爆発的に実をつけ動物、魚、虫、爬虫類ありとあらゆる生物を生み出しました。


その後、人間たちが沢山増えるにつれて支配欲・強欲が生まれ、戦が始まった。

その戦を抑えるためにエルストは、戦の神ヴァルキュリアを生んだ。

結果、戦は収束したが沢山の人が死んだ。

今度は、死者の魂が彷徨い始め、空が暗くなり闇の時間が増えた。

そこで、闇の神ジャンアスターがエルストに魔力を込めると、実から死の神ハーデスが生まれた。

ハーデスは、大地の下に冥界を創って、魂を管理するようになった。

エルストは、人間の欲が増えるたびに実をつけ管理する神を生み出した。



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