第28話 騎士科編:学院2年生秋②リンデンバルクの神話 後編
「まだまだ、たくさん言い伝えがあるのよ。神々の恋愛や争い、神々と人間の恋愛の話もあってね、面白くてね。私のおすすめはね......(以下略)」
キャスは時間が許す限り、口伝の域を超えてる量の神話を話し続ける。
軽く本一冊になるくらいである。
「これは、聖典を作った方がいいと思う。」と、進言したい。
記憶するのは無理だ。
覚え切れないほどの神の名とエピソードをまだまだ延々とキャスは話す。
すでにお茶は、ポット2杯飲んでいる。
お腹タプタプである...。トイレにも行きたい。
結局、キャスの話には、他にも色々な眷属の話が出てきた。
雷の神ザルツグンター、愛の神ベーゼリューナ、運命の神シックスザーレ、調和の神アンタール、夜の女神ターゲスアンブリューナ、花の女神ブルーメブリューヘンなど、覚え切れないほどの神々の名前がポンポン出てきた。
とりあえず、いろんな神がいるんだなぁと話を遮ろうとしたところに、命の神の話が出てきた。
最後に生まれた神の名は、命を司る神エルネスタという。
昔むかし、人間と神々が些細なことで争いになりとてつもなく永い戦争が起きた。
大地が揺れ、火山が噴火し、洪水が起き、
ありとあらゆる天変地異が起きた。
多くの人も神も死んだ。
沢山の悲しみの上に、さらなる憤怒が生まれ続け、戦争が収束する兆しもなかった。
ある時、ひとりの若者が「神の過剰な力は、人間には要らないものだ!この世に神なんていらない。」と叫び群衆を引き連れて、始まりの木エルストにやってきた。
「この木があるから神は生まれ続けるのだ!燃やせ!」と火をつけた。
そして、エルストは燃やされた。
眷属の神々は、悲しみに暮れた。
母なる木を失って、ようやく憤怒がおさまった。
眷属の神々は、燃え尽きた灰に各々の魔力を奉納してエルストの死を悼んだ。
すると、その灰が、羽が生えた人の形になった。
人と神の中間のようであり、男でも女でもない、人間でもなく神でもないのに加え、動物でもない完全な種族が全く感じられない卓越された存在であった。
そのものは、エルネスタと名乗った。
エルネスタは、「神々と人は共存することは出来ない。人には、神の力は過ぎたものである。
神にとって人とは、脆弱な存在である。別の領域で生きることが平和の第一歩である。
神は、人が暮らすのに最低限の力を与えるべきだ。
人は、神の力を当てにせず自らの力で生きようとするべきだ。
そして、力を貸してくれる神々にほんの少しの感謝の気持ちを持つべきだ。」と諭した。
人も神も、エルネスタの言葉に不思議と納得させられた。
人間と神々は、互いに世界をわけ生きていくことにした。
冥界、人間界、神界、天界という4つの領域にシュッテガルトは分けられた。
エルネスタは人間界と神界の狭間で生きていくことを宣言した。
そして、神々の生死と人間の生死を調整していく存在になった。
神々と人間は、エルネスタのことを命の神だと敬った。
「うちの国には、このエルネスタ様を祀っているんじゃないかっていう神殿っぽいものがあるのよ。」
と最後にキャスが言って神話が終わった。
「なぜ、疑問系?そしてなぜ神殿っぽい?」
「このくらいの大きさの神殿みたいな形が彫ってある崖があるのよ。」
キャスは、両手で小さな箱のような形を作って説明してくれた。
「なんでエルネスタだと思うの?」
「神殿の中に羽が生えた人間も彫られているからよ。」
なるほど、それは『っぽい』だな。
アリスンは納得した。
「キャス、今度さ。そこに連れていってよ!」
アリスンは、呪いを解く神に会えそうな気がして気分が高揚した。
「うーん、崖の途中に彫られているから私は無理ねぇ。ヤックでも登れないほどの絶壁なのよ。
落ちたら死ぬのは確実ね。底が見えないから。」
「えっ、でもエルネスタ様が一緒に掘られているってなんでわかったの?そこに行った人がいるんでしょう?」
「死にかけの人が助かったって、話したでしょ?その人たちが崖から落ちるときにもれなくハッキリと見たそうよ。」
なんだそれ〜!!
神秘的さが本当に神を祀っていそうだけど、そこにいくのは無理ゲーじゃない??
どっから飛び降りたらいいのかもわからないし...。
底が見えないということは、範囲も膨大.....。
飛行魔法で探せる範囲じゃなさそう.....。
テンションが上がって、急降下したよ。凹む....。
本気でへこんでいたら、キャスが慌てて慰めてくれた。
「ア、アアっアリスン!?大丈夫??
そんなに神様に会いたかったの?
その場所は、わかんないけどみんなが落ちた崖には連れていくわ!ほら!
なんか徳でも積んでおいたら崖の上にも神様来てくれるかもしれないし?
諦めちゃダメよ!
それに、帝国のジャノアスター教の神様ジャンドレーク様っ?に会えるかもしれないわよ!こっちの教会で祈ってみましょう!
ほら、うちの国の光の神ドレーナと闇の神ジャンアスターって、なんとなく名前似てるし!?
光と闇の合作って事で、全ての神々を祀ってるかも!
ああああああああ、そんなこの世の終わりみたいな顔しないでくださいませ!
笑ってくださらないと、アリスンの個性が死んでしまいますわよ!」
うん、そうだね。私の平凡な顔じゃ、「笑ってくれないと可愛いお顔が台無しよ。」ってセリフは言えないよね。
個性ね。うん、言い得て妙だね。
「....卒業したら、連れてってねえ。」
アリスンは、机に突っ伏しながらしょんぼりした。
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