第6話 学院編:学院1年生秋-お茶会と刺青
「アルベルトさん、ここです。とってもおいしいショートケーキのお店!お茶もおいしいんですよ。」
私は、ロン様と手をつなぎながらお店のドアをくぐった。
「いらっしゃいませ〜、あらアリスンお嬢様こんにちは。ふふ、今日は可愛いナイトさんと一緒なのね?ごゆっくり。」
可愛いオーナーのジェシカさんだ。
いつもエリザと学院帰りに利用させてもらってるので常連になって覚えてもらったのだ。
今日も、ものくそ可愛い!
フリフリの白のエプロンに腰が締まったビスチェ、フワッとしたミニ過ぎないスカート、絶対領域があるニーハイソックスに、エナメルのアンクルパンプス。
この制服には、男のロマンが詰まってる!
男だった時もある自分にはグッとくる姿だ。眼福だ!
「あ、ジェシカさーん。個室って空いてるかな?私以外みんな男だから注目集めそうで。」
「あら、そう言えばそうね。小さめな部屋でよければ個室空いてるわよ。はい、これ鍵。開けて座って待っててね。」
王族を連れているのだ。なまじ、注目を集めてはいけない。
別に紅一点で注目を集めるのは構わないが建前が必要だった。
廊下を進んだ右手奥の扉を開ける。
かちゃり。
部屋の真ん中に丸テーブルが置いてあり、ゆったりとした1人掛けのソファが6つ。内装は、女の子らしい赤と白を基調としたこじんまりとした部屋だった。
ロン様は、珍しいのか目をキラキラさせて
「うわぁ、食べるためだけの小さいお部屋だねぇ!」と歓喜した。
そりゃ、王族にはこんな部屋ないだろう、あってトイレか。
この発言を聞いて、コンラッドは違和感を感じたようだがハスウェルは気にしてない。
やはり馬鹿だ。
アルベルトさんは、口の端がピクッと動いてた。小さいから仕方ないよ〜、諦めようアルベルトさん!
「ロン君は、一番奥に座ろうか?アルベルトさんは扉近くに座りますか?それとも隣?」
「では、ロンの隣の扉側にしましょう。」
うんうん、ちゃんと護衛してるね!
通常護衛は扉側を守る。それでいて、護衛対象をすぐに守れるようにそばにもいないといけない。
アルベルトさんは有能ね。
「じゃあ、扉に一番近い場所はハスウェル座って。あんなことがあった後だから念には念を入れて皆を守ってね。」
「では改めて。私の名前はアリスンよ。帝国学院の1年生なの。他の2人も一緒。」
「僕はコンラッドだよ。」
「俺は、ハスウェルだ。」
2人も家名を言わずに自己紹介した。
「僕は、ロンです。6歳です。」
「私の名前は、アルべルトです。この子の兄です。両親が商業を営んでいて今日は買い付けのついでに観光してたところの事でした…。本当にありがとうございました。」
「気にしないでください。たまたま犯人が近くでバランスを崩したところに居合わせただけです。ハスウェル、お手柄よ!」
ハスウェルの背中をバシッと叩いた。
「体が勝手に動いたんだ。うまくいってよかったぜ。」
背中をさすりながらニヤッと得意げにロンに笑顔をむけた。
コンラッドもニコニコしながら
「拐われなくてよかったですね。」とうんうん頷いた。
みんなでケーキを食べてると、アルベルトは少し思案顔を浮かべて話し出した。
「帝国学院の生徒さんというと、もしかして貴族の方でしょうか?失礼ながら、雰囲気が我々商家とは違うように思えまして。食べ方も綺麗ですし。ああ、隠しておきたい事でしたら、聞きません。実は後日学院の芸術祭にも伺う予定がありまして、その際改めてお礼をしたいのです。家名があるならば教えていただきたくて窺いました。」
私とコンラッドは、目を合わせて軽くうなずきあった。
ハスウェルにはアイコンタクトは無理だからもちろん除外だ!
「隠して置いたわけではないのです。せっかくの帝都観光なのに、堅苦しいとロン君がつまらないのではと思いまして。(いやいや、これ以上王族と関わりたくないのだよ。成り行きでお茶してるけど、すたこらさっさとドロンしたいから家名名乗らなかったんだよ。コンラッドは、私とロン様の態度でなんとなく気付いて合わせてくれたけど。)」
「お気づきのように私たちは貴族です。私は、ベラルフォン家の長子でございます。(あー、言いたくなかった!拒絶したら、今後ロン様が身分を明かした時、不敬になっちゃうじゃんよぉぉ。)」
「僕は、コンラッド・カルティフォンです。芸術祭に来てくれたら、学院を案内しますよ。これも何かの縁です。」
「俺は、ハスウェル・チータゲルクだ。以後、お見知り置きを。」
3人とも正式にお辞儀をした。
その後は和やかにお茶会を楽しんで、お店の前で別れた。
「では、皆さま、芸術祭で再度お礼に伺いますので、どうぞよしなに。」
アルベルトとロン様は、手を繋いで街の雑踏に消えていった。
「ねぇ、アリスン?あの子商人じゃないよね。貴族だよね。お兄さんは従者だよね。
でも、僕たちが貴族って言っても身分を明かさなかったってことは、バレないって事でしょ?他国の貴族かな。アリスンは、どう思う?」
やっぱりコンラッドは気付いてた。
どうしようかな、真実を言っといたほうがこれから面倒に巻き込まれないかな。
「コンラッド、正解...。私あの子の手当てしたでしょ。その時、右上腕に王印があった....。隣国モンテバルクの第二王子だと思う。あまり関わってもまずいと思ったから、やんわり壁をつくってたんだけどねぇ。やっぱり、わかっちゃったかぁ。(永く生きてても、一歩引いた駆け引きは苦手なんだよねぇ。ガンガンいこうぜっ系の駆け引きならどんとこいなんだけど。)」
コンラッドは意外にも落ち着いて
「...そんなに大物だったんだ...砕けて喋ってしまったけど、大丈夫かなぁ...。うん、確かに手に余る身分の方だね。」と頬をかいた。
ハスウェルは、全然疑っていなかったから、ものすごく驚いた。
「まじか?俺、ロンの頭ぐしゃぐしゃ撫でちまった。不敬になるか?まずいじゃんか!やっちまったぁ...。 ところで、王印ってなんだ?」と脳筋ハスウェル様が降臨した。
やはり馬鹿だね、その辺のちっちゃいお子様でも知ってるよ!
「王印ってのはね、この世界の王族はみんな右上腕にこのくらいの大きさの刺青を彫るんだ。」
親指と人差し指で小さな丸を作ってコンラッドが説明した。
「個人で刺青の模様も決まってるのよ。うちの国は、国花の百合を模してあって、皇帝はヤマユリで皇后はカサブランカ、第一皇子はテッポウユリ、第二皇子はササユリ、第一皇女はイザベラ、第二皇女はコンカドールね。隣国は、狩猟民族の名残で弓が入れてあってね。一緒に個人を表す動物が彫ってあるの。ロン様は、ウサギだったわ。流石になんの動物が誰を指してるのかは覚えてないけど、年が6歳なら第二王子よ。」
「へえ、それは偽造して身分を語る奴が出てくるんじゃないのか?」
「偽造が出来ないのよ。王族だけが使える特殊なインクを使って彫ってるの。なんでも専用の試液を垂らすと、光るんだか絵が変わるんだかわからないけど、変化するみたい。」
「「へえ〜。」」
あれ?コンラッドも知らなかったんだ。
あまり知られてなかった情報だったか。今後は、気をつけなきゃね。
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