第4話 学院編:学院1年生秋-じゃがいも棒と間接キスの三角関係

秋も深まり、紅葉がはらはらと地面に降り積もる頃。

先輩たちは、芸術祭の準備の佳境である。

騎士科は怪我をする人が増えてきて救護所に詰めかけ、慌ただしい。

文官科は街の人や国の役人たちと最後の調整で学院から出たり入ったりして、人の往来が激しくなった。

なんとなく1年生は肩身が狭い気持ちになってきたので、仲がいい友人たちと気晴らしに街に出かけることにした。


屋台でお気に入りの一品を購入して街をふらふらする。


(このじゃがいも棒最高っ。

ほくほくしてカリカリして甘ジョッぱい。やっぱり秋は芋よね。

来年は模擬店経営で、ぽていと専門店で爆稼ぎしてもいいかも♪)


『あ〜きがき〜た あ〜きがき〜た どーこにきた〜 やーまにき〜た かーわにき〜た ここにーきた〜♪』


「ご機嫌だな、アリスン。その芋、そんなにうまいの?一口くれ。」


「ん、美味しいよ。いいよ〜、私のお気に入りなんだ。」


普段、下町の娘に変装して食べ歩いたり、酒場で情報収集しているので、大衆グルメは網羅している。

変装してる時は、髪をまとめて帽子に入れている。金髪がセットされた帽子だから私の最大の特徴を隠せるのだ。

なんてたって、顔が普通だからねっ!!埋没しちゃうのよ〜、うふふん。

今日は、変装せず普通に私服だけどね。制服のマントが目立つしさ。



「お、うまい。」


「ちょっと、ハスウェル!ひと口がでか.....」


「なな、なっ、ふたりとも破廉恥ですよぉぉ!!」


「「はぁ?」」


コンラッドが、真っ赤な顔で騒ぎ出した。


「間接キスなんんて、こっ恋人だったんですか?!」


なんてお決まりな展開なんだ...。

貴族の10歳なんてこんな感じだったかな。あまりに生きすぎて、普通の感覚がわからん。

ハスウェルは気にしてないから、コンラッドがおかしいんだよな...


「あー、うん。じゃあそれでいいよ。」

アリスンはどうでもよかったので否定せずに受け流した。


「よくねぇよっ!顔がタイプじゃねぇ!」

すると間髪入れず、ハスウェルが拒絶した。


なんだとぉ。むかぁ!くらえ馬鹿っ!


姿勢を落として右下方から思いっきり回し蹴る。


しゅんっ!


ドシャッ。


ハスウェルは思いっきり尻餅をついた。


「いってぇ〜、アリスン。体が一瞬浮いたぞ!だがしかし、その蹴りの威力は騎士科にふさわしいっ!騎士科にしよう!アリスン。」

蹴られたハスウェルは大興奮だ。

痛みに強い変態がいる....


(えーと、今全然見えなかった。

気づいたらアリスンが目の前から消えて右足を伸ばしてしゃがんでいた!

足払いをしたってこと?なんかすごい!

うん、アリスンの顔のことは言ってはいけないんだね!覚えたよ。 )

たらら らったら〜♪

コンラッドはアリスン経験値が、1上がった。 



ふと遠くの方から声が聞こえて、不穏な叫び声がだんだん近づいてきた。


「だれか〜!その男を捕まえてくれ〜!!子供がさらわれた〜!!!」


ハンチング帽を目深にかぶった中年男が幼児を脇に抱えて猛然とこっちにかけてくる。


「退けぇ〜、この子供を助けたければ道を開けろ!」


アリスンは、タガーの刃を子供に向けながら、邪魔する大人たちを跳ね飛ばして逃げる男に目を向けた。

汚い浮浪者の格好をしているが、体は引き締まっていて玄人だと分かった。


...あれは、まずいな。捕まれば子供もろとも死ぬ覚悟があるね。

子供も街の子供に擬態してるが、良いとこの坊ちゃんだ。

子供と男を離せられれば、その辺の巡回騎士でも男を捕縛できるはずだ。

ん〜、どうするか。

目立ちたくないからこっそり魔法を行使しよう。

まずは、おチビちゃんに薄ーく薄ーく防御結界をコーティングしてぇ、男には土魔法で足を挫くように角度調整。θ=arcsin(0.75/2.0)、√a...

うん、このくらい道路を盛り上げてぇ、最後に風魔法で右足にだけ突風があたるようにして....それと、落ちたタガーが人に当たらないように軌道修正して....


パチンっ! とね。


そっと、左手で静かに指を鳴らした。


「うおっ、い、痛っ」

中年男が体制を崩して、子供からタガーが外れた。

その瞬間、私の右側からハスウェルが駆け抜けて男を捕縛する。


やるじゃん、ハスウェル〜。ひゅ〜♪


じゃあ私はチビちゃんを救護しましょう。


「きみ大丈夫?怪我してない?あー、ちょっと腕が擦りむいちゃったね。手当てしてあげるよ。待ってて。」

「あの店主さん、お店に消毒液と包帯ありますか?お代は出すので頂けますか。」


おチビちゃんの腕をまくって傷の確認。

あっ、ヤバいやつだこれ...

ばっと袖を戻して、ニコり。


何も見てないよ〜、上腕に刺青なんて見てないよ〜、その刺青は帝国グーテンバルクの真西にある小国モンテバルクの王族がするやつって知ってるけど知らないフリするよ〜全力でアピールするよ〜


おばちゃんから、包帯を受け取り刺青が見られないようにグルグル巻いて終了。

戦略的即撤退するよ!

ハスウェル、巡回騎士に犯人突き出し終わった?っと振り返ってみたら、男が喚いていた。


「クソッタレ!離せっ。俺は、平和のためにそいつを攫ったんだ!俺は正義だ!!

そいつはなぁ、モンテ....もがっ」


ずぼっ!!


男の口に、じゃがいも棒を突っ込んで口封じ。

いかんよ、王族なんてバレたら阿鼻叫喚だよ...

それにしても、なんて有能なじゃがいも棒!あ〜、おっちゃんとも間接キスしちまったよ。


「コンラッド〜三角関係になっちゃた、えへっ」

場を和ますための捨身の冗談をアリスンは放った。


「不潔だぁぁ!」

本気でワタワタするコンラッドが可愛い。


しばらくすると、チビちゃんの兄に擬態した護衛とみられる男が現れた。


「ロン!大丈夫か!?

支払いしていた一瞬だけ目を離した俺の落ち度だ....スマン...すぐに追いかけたんだが仲間がいて足止めを食らってすぐ来れなかった。

本当にすまない。残党は粗方意識を落として騎士に渡すように手配しといたから。」


「アルベルト、大丈夫だよ。僕は勇敢なお兄ちゃんと優しいお姉ちゃんに助けて貰ったから。」


「皆さん、本当にありがとうございました。よければお茶をご馳走させてください。」



ん〜、まずいなぁ。

お茶はいいんだけど。

...いやよくないな。面倒だ。

さらに面倒なのは、さっきから視線を感じる。これは、疑われてるかな。

チラッと、左後方確認。

うん、眉間にシワがよった銀のさらさら髪の中性的雰囲気の美青年発見。

私服だけど騎士かな?姿勢がやたらいいし、細身だけど均整が取れた引き締まった体。


手練れの騎士だとさぁ、無意識で魔素の流れを捉えられる人が稀にいるんだよね...。

私の左指から男にかけて魔素が動いたのがわかったのかな。

これはまずい、まずいっ!

背中に汗が流れるのが分かった。

撤退、即撤収一択!

お茶したくないけど、ここからすぐに離脱するために了承することにした。


「お茶ですかぁ。わあ!嬉しいです。

今流行りのケーキ屋さんに行きませんか?ショートケーキがおいしいんです。トロッと溶けるような口溶けのクリームを使っていて絶品なんです!

売り切れることもあるので、すぐ行きましょう!」

面倒だけど、王族とお茶の方がいいっ!


はあ、くわばらくわばら。

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