千代田区のソリチュード
母親が作った弁当を食べ終えた私は、スマホで時刻を確認する。12時46分。5時間目までは少し時間がある。私は座ったまま、SNSをチェックする。
同じ2年B組の生徒全員が入っているグループで、文化祭の出し物についての話しあいが交わされていた。放課後に誰かペンキ買ってきて。ごめん生徒会があって行けない。私も部活の練習があるんだ。困ったな他に誰かいないかな。メッセージのやり取りはここで途切れていた。たぶん文化祭上手くいかないだろうな、と思うものの決して口には出さない。ランダムに振り分けられた何の繋がりもないクラスメイト同士で団結しろという方に無理があるのだ。巻き込まれたくない私は、既読だけつけてスマホを閉じる。
12時49分。
1時からの現国の授業のことを考えると憂鬱になる。どうして高校生にもなって物語を音読しなきゃいけないんだ。国語なんて何も面白くないのに、何で勉強してるんだろう。国語だけじゃない、数学も美術も音楽もそうだ。はやく卒業して就職したいのに。無駄なことは何もしたくないのに。
12時51分。
足音が聞こえて、咄嗟に気配を殺す。私の存在を意識されたくない。誰にも関わりたくないし誰にも関わられたくない。高校生活も1年半経ったが、友達は一人もいない。作る必要を感じなかったから。それでも私はこうして生きてる、私は独りで生きていける。足音は次第に遠ざかっていった。外の廊下を通り過ぎただけらしい。それもそうだ。この辺りにはほとんど誰も来ない。そういう場所を私は選んでいる。
12時55分。
時刻を確認して私は立ち上がる。誰かに聞かれていることを恐れて念のため水洗を流し、個室を出た。私一人だけの城から、31人の「他人」がいる教室へと戻るのだ。
メトロポリタン・ソリチュード Meissa @Meissa
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