メトロポリタン・ソリチュード
Meissa
中野区のソリチュード
仰向けになった私は天井を見つめる。一点をただ見つめ、他の思考を全て排除しようとする。何かに集中しないと、脳内のぐちゃぐちゃとした何かに全身を支配されそうだった。
狭い部屋を鈍く照らすLEDが煩わしい。遠くから聞こえる電車の音が煩わしい。体重で微かに軋むベッドが煩わしい。集中作戦に失敗した私を感情の濁流が襲う。
すべてを遮断しようとして、私は頭から布団を被った。あんなに溢れてきた涙はもう出てこない。涙腺という行き場を無くした悲しみは滞留し沈澱し、私の胸を重くしていく。
まだ上京する前、高校3年生だった去年、修学旅行でバスに酔った時のことを思い出す。喉元に広がる不快感は、しかし不快感という存在でしかなく、私に嘔吐を促さなかった。吐き出してしまえばどんなに楽だろう。溜め込まずに済めばどんなに楽だろう。反実仮想に逃避しながら、私はひたすらに耐えていた。誰にも迷惑をかけず、誰にも悟られず、ひたすら時が過ぎるのを待った。無限とも思えた苦しみの結末を、私は覚えていない。
揺れを感じ、私は微睡みから覚める。地震。マンションは4階にいる私に、震度2よりも大きな振動を伝えた。SNSを開きトレンドとなっている呟きを眺める。緊急地震速報、2 167,108件。地震大丈夫、106,438件。南海トラフ、20,761件。何十万人の他者と感覚を共有していることに安堵する。この街でみんなと暮らしている。それなのに、私はどうして独りなのだろう。
朝起きるとちょうど授業が始まる時間だった。私はテレビ通話アプリにログインし、ドイツ哲学史(B)のルームに入る。メンバーに列挙された名前はもう覚えたが、話したことはないし顔も知らない。一方的に講義を進める教授を眺めながら、私は再び布団に潜る。大丈夫、私は独りでも生きていける。独りでも耐えられるんだ。ショーペンハウアーの言葉を聞きながら、再び深い眠りに落ちていく。
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