第二章 第三話~もてなし~

「着いた!!」

「ここがビギーニングかっ!」


 検問所から10分ほど歩いたところで、ついに街へと入った。

 ノンビーヌラ同様に石畳や木造建築が主流だが、あの街ほど荒んだ感じはないかな。具体的には、多少だけど街に活気があるというか、目に入る数軒に一軒の店が開いている感じ……と言っても祭の出店みたいな商店しかないけど。でもおかしいな。店は宝狩りで占められて行えないはずなのに……?

 

「おい鉄操っ! ぼーっとしてないでこっちに来いよっ!」


 とりあえず僕らは人目につかない場所を探して、薄暗く手を広げれば両端に届きそうな狭さの裏路地へと入り、作戦会議を始めた。


「まずはこの街でやるべきことを挙げてみようか……」

「王を倒すっ!」

「異次元の穴を研究している発明家を探す」

「うん。その二つは前々から決まってたね。後は、一緒に戦ってくれる仲間を見つけるって事かな?」

「だなっ! じゃあ、そこに優先順位をつけて行こうかっ!」

「順当にいけば……最初は『発明家を探す』だろうな」

「そうだね。王を倒すのは後でもいいし、仲間も後々ゆっくり探せばいいし、どっちも人目に付きそうだから、先に発明家探した方がいいかな? みんなそれでいい?」


 意見を仰ぐようにみんなに視線を送ると、みんなは無言のまま小さく頷き、満場一致で議決された。


「なら二手に分かれようぜ」

「なんでだっ?」

「4人は多すぎて何かと目に付く。2人1組が妥当だな。それに……」

「それに?」

「なんか胸騒ぎがする」


 顔を動かさず、流し目で左右を見渡している。現役の暗殺者だからこそ感じ取れる第六感的なものなのかな? それとも、さっきの事が気になるかな? という僕もこの街には少なからず違和感を感じるし、ここはウンロン君の言葉に従った方が良いか。


「OK。どんなチーム割にする?」

「そうだな……不測の事態に備えて、戦闘経験の多い俺とウンロンは別にした方が良いだろうなっ!」

「だとしたら静かに仕留められる能力と、多数を一度に葬れる能力を組にした方がいいな」

「なら自動的に僕・音破組と旋笑・ウンロン君組の2チームで決まりだね」

「………………」


 戦闘経験豊富な音破とウンロン君。能力が静かな僕とウンロン君。一度に多くの敵を倒すことができる旋笑と音破。その条件を下にチーム分けをすると――こうなるのが妥当だろうね。


「よしっ! それじゃきっかり2時間後にこの場所に集まろうぜっ!」

「わかった」

「………………!」

「了解!」


 作戦も決まったことだし、もう薄暗くて生臭い路地にいる必要もなくなった。僕らは路地から出て二組に分かれ、互いを見送る。


「旋笑的には鉄操と2人っきりの方がよかったんじゃないかっ?」

「………………!」

「おい。イチャコラは後でにしろ」

「ウンロン君!? そんなイチャコラなんて……!」

「ヒヒヒっ! それじゃ後でなっ!」

「………………!」

「おお怖っ! 行こうぜ鉄操っ!」

「う、うん!」


 相手の背中を、こちらの背中で見送るよう二手に分かれて散った。さてと……なにか良い情報がつかめればいいんだけど……




「情報収集とはいったけど、何から始めればいいんだろう?」


 僕と音破は終電間際の駅のホームみたいな、人気も活気も無い街を、流し目で――でも、些細な事、何か発見できないかと辺りを見ながら歩いていた。


「向こうはどうなってるかな?」

「まぁ旋笑達は大丈夫だろっ! 旋笑は声こそ出せないが、元芸人だけあって、誰とでも中奥鳴って、色々の事を聞き出せるだろっ! それにウンロンだって暗殺者だっ! 情報収集はお手のものだろうしなっ!」

「それもそうだね。今は僕らの方に集中すべき! ……だけど今やっていることと言えばただ歩いてるだけで、何の情報も得られていないよね……」

「いやっ? そうでもないぞっ?」


 音破はそう言いながら辺りを見渡す。


「鉄操っ。ノンビーヌラの街の人達はどんな顔をしていたっ?」

「顔? ええっと……宝狩りで宝を奪われたせいで、顔には生気のない人が多かった」

「だよなっ? ならこの街の人達の顔はどうだっ?」

「顔? ええっと……あれ?」

「わかったか鉄操? ここの人達の表情は明るすぎる」


 そう言われてみるとそうだ。街中のすれ違う人達の表情を見てみると、皆明るく活気に満ちた表情をしている。中にはスキップや、鼻歌なんかを口ずさんでいる人も見て取れる。

 この街も当然宝物狩りの被害を受けているのだから、ノンビーヌラの人達のようにもっと暗い表情をしていてもいいはず。なのに――ここの人達はまるでそんな事など一切気にしていない様子で生活している。


「そういえば、お店も開いてるよね? もしかして……宝物を奪われていない?」

「いや、それは無いだろっ。ノンビーヌラだって問答無用で奪われていたんだぜっ? この街だけ奪われていないなんてことはありえないだろっ」

「ということは、何かわけがある……ってことだね」


 発明家のおかげか? 王のおかげか? それとも他に何かが? ……謎は深まるばかりだ。


「まっ! それはおいおい知っていこうやっ! 今は発明家についてだっ!」

「了解」


 当初の目的通り、僕と音破はとりあえず街の人に声をかけて『発明家』について情報を得ることにした。こういう時、とにかく足と行動で結果を残さないと、何も得られない。刑事じゃないけど、情報収集とはそう言う――


「ん? っ! あぶねぇ!」

「え?」


 間抜けな声を挙げているうちに音破が猛スピードでダッシュした。それを追うようにコンマ遅れて目線を前に流してみると――その先には地面のひび割れた部分に足を取られ、今にも転びそうな老人がいた。


「おっしゃっ! 間一髪だぜっ!」


 あと1秒遅ければ地面に頭を打ってしまうというタイミングで、音破が老人を抱きかかえ、事なきを得た。僕なんか手で顔を覆うくらいしかできなかったのに……流石といか言えないなぁ。


「おお! どなたか存じ上げませんが助かりました!」

「いやいやっ! 気にしないでくれっ! 立てるかおじいさんっ? 手を貸しますよっ!」

「おお。ありがとう」


 音破はおじいさんの手を握って引っ張り起こしたあと、軽く体を叩いて埃を取ってあげた。そして地面に落ちている杖を拾い上げ、おじいさんに手渡す。


「ご親切にどうもありがとうお若いの」

「いえいえっ!」


 笑顔でお辞儀をするおじいさんを見て僕は笑顔を返した。まぁ助けたのは音破なんだけどね。あ、そうだ! いいチャンスだからこのおじいさんに情報を聞き出そうじゃないか。この手の情報源は大体街にいるお年寄りと相場が決まっているからね。


「すみません! ちょっといいですか?」

「はい? どうかしましたか?」

「実は探している人がいるんですけど……」

「探している人? それはどんな人なんだい?」

「ええっと……発明家なんですけど」

「発明家……?」


 そのワードを聞いた瞬間――老人の顔が引きつった。


「どうかしたんですか?」

「いや……何でもない。それよりも向こうの店で話さないかい?」

「店?」


 店だって? おじいさんの視線の先を確認してみると、そこにあったのは――確かにお店だった。けど……


「――なんでお店が開いているんですか?」


 宝狩りはその人の宝を奪うもの。それはお店も例外じゃないはずだ。現に、ノンビーヌラでは問答無用で職を奪われ、お店なんてものは何もなかった。けど、ここは違う。数こそ少ないけど、普通に店が開いている。どういうこと……?


「成程のう。その質問をして来たって事は、他所の街から来たんじゃな?」

「へ?」

「お若いの。それも含めて色々教えて上げるよ。それはそうと、急ごうかのう? 足ががくがくで、速く座りたいんじゃ」

「へ? あ! すみません!」

「ほっほっほ! 気にせんでええよ。それでは……ん?」


 おじいさんの提案で、少し行ったところにある飲食店に向かって数歩歩くが、音破が先程の位置から動こうとせず、その場で佇んでおじいさんの方を睨んでいた。


「どうかしたの音破?」

「おじいさんっ。一つ良いかっ?」

「何かな?」

「あんた体は丈夫かっ?」


 その一言に明らかな動揺を見せる老人。っていうか、音破はなんでそんな質問をしたのだろう? だって杖をついているし、体が不自由そうなのは見てわかるのに……


「なにを言ってるんです? わしは見ての通り足腰が悪くてね、杖がないと歩けなくて」

「へぇ……そんな重い杖でかっ?」

「え?」


 僕はおじいさんの杖に目をやる。見た感じ木製の杖にしか見えないけど……?


「さっき持った時、木製と思えないくらいの重量があったっ。恐らく仕込みだろうっ?」

「…………!」

「おまけに手のひらに剣ダコがあったっ。体も大分鍛えているなっ」


 その言葉におじいさんの目つきが優しいモノからどんどん険しいモノに変わり、音破を睨みつける。そして杖を左手に持ち替え、右手で握り部を逆手で掴む。直後――凄まじい殺気が襲いかかり、全身から汗が噴き出て身震いして立ちすくんでしまった。


「小僧……いつから気付いていた」

「さっきさっ。あんたを掴んで引っ張り起こした時の手のひらっ。あんたの体の埃をはたいた時の体の肉付き具合っ。杖を持った時の重さと握り部のすべり止めの造りっ。あとは殺気の消し方かなっ」


 先程の明るく甲高い声から一変して数段低くなった声をしているおじいさん。まずい。ものすごくまずい。

体がすくんで目しか動けない。近くにある金属製の物は……駄目だ。

距離があるから飛ばしている間に斬られる。

軽くパニックになりかけていると、音破は僕に笑顔を向けてきてくれた。あの表情は……落ち着けと言っているんだ。僕にはわかる。

そして――僕が小さく頷き、引きつった笑みを返すと、音破は腰にぶら下げていた、例の仮面を取って、顔につけた。


「――んでっ? あんたは何もんなんだっ?」

「ワシか? ワシは王に派遣された殺し屋だよ」

「王!? もう僕らの存在に気が付いているの!?」

「大方検問所の奴らが報告したんだろっ?」

「ふふふ……その通りじゃよ。この小僧を捕まえろという命令を受けていてな? なんでも真王様がこの小僧が欲しいと言っておられたんじゃよ それに、竜巻を起こす女に、異世界から来た暗殺者もな」


 通りで検問所の人がすんなりと僕らを通したと思った。そして、最初に抱いた僕とウンロン君の違和感の正体がわかった。


「ほほうっ。んでっ? 俺は何て言われてるっ?」

「ほっほっほ! お前さんは用無しと言われておるよ! 竜巻娘に暗殺者、それにこの小僧は利用価値があるみたいだがな!」

「はははっ! それはそれはっ! 俺は随分と格下に見られているなっ! まぁそれはさておき……そろそろ鉄操を解放してもらおうかっ?」


 音破は組んでいた手を解き、腰もとに右拳を置き、左手を前に出して構えをとる。おまけに、体からは真っ赤なオーラを放ち、戦闘準備万端という感じだ。その動きを見ておじさんは握り部をしっかりと握り、腰を落とした。


「おおっと! やめておいた方が良いぞ若いの! ワシの抜刀術は音速に迫る速度じゃ! 変に動いたらこの小僧の手足が無くな――」

「!?」


次の瞬間――音破の姿が消えたかと思ったら、コンマ数秒遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。

辺りは砂ぼこりが立ち込め、先程おじさんがいた場所には入れ替わるように音破が立っていた。

そして1秒後、僕の後方から大きな音が鳴り、振り返ると後方にある建物には大きな穴が開いてた。

 何が起きたのかわからない僕は、きょろきょろと前後を何度も見返すしかできなかった。


「悪ぃなっ! 俺の速度は音速だっ!」

「音破!? 一体何が!?」

「今のかっ? 俺が空を飛ぶ方法は知ってるよなっ?」

「うん。能力使って衝撃波を真下に放って上昇した後、今度は後方に衝撃波を放って前方に進むんでしょ?」

「ああっ! それの上昇部分を省いて、後方に衝撃波を放って高速移動したって寸法だっ!」


 そう言うことだったのか。あの飛翔は僕も感心するのだが、本来なら攻撃に使用する衝撃波を移動や機動力を上げることに転用した応用力……。そう言えば音破が真王の刺客だった時、同じ方法でラージオさんを吹き飛ばしていたのを思い出した。確かに音破の能力はシンプルで単純かもしれないが、総合力を見れば明らかに僕や旋笑よりも上だ。


「さてっ……悪いが鉄操っ。相手さん本気出して来たぜっ」

「え? あ……了解」


 音破に言われて周りを見てみると、僕らはすでに包囲されていた。開けた場所だけでなく、建物の物陰や2階からも敵がこちらを見ている。ざっと50人はいるか……


「建物の裏にも気配がするなっ。ざっと100人ってとこかっ」

「そんなにいるの!?」


 ここは武術家の音破の察知能力が正しいだろうから、きっと見えないところにも敵が潜んでいるのだろう。それにしても100人は多いなぁ。


「どうする音破?」

「目視できる敵は任せたぜっ! 俺は隠れてる敵を倒してくるっ!」

「え!?」

「どうしたっ?」

「僕にできるかな……」

「はっはっはっ! 安心しろっ! そこら辺にいる奴らは素人だっ! お前なら楽勝だよっ!」

「へ? なんで素人ってわかるの?」

「立ち方、構え方、視線、雰囲気……明らかに素人が無理矢理武器を持ってますって感じだからなっ!」


 言われてみると、確かに視線は泳いでいるし、構え方はへっぴり腰だし、体も小刻みに震えている。さらに武器も包丁やクワ、鎌など明らかに農民や一般人の武器だ。


「俺の能力じゃ過剰攻撃になっちまうからなっ! それに、夜な夜な能力の訓練してたんだろっ? なら大丈夫さっ! 鉄操頼むぜっ!」

「りょ、了解!」


 音破はそう言って能力を発動し、はるか上空に飛んで行った。そして体を傾け後方に衝撃波を放って前進し、その姿を消した。さて――


「僕も頑張ろう」


 僕は手をかざし、排水溝の鉄網を足元まで持ってくる。そしてその上に乗り、ゆっくりと上昇を開始する。


『くそ! 念動力のTREか!』

『ひるむな! TREとは言え生身だ! それに子供だぞ! 恐れることは何もない!』

『悪く思うなよ少年! 王の為なんだ!』


 どうやら僕がなんの念動系TREかは聞かされてなかったみたいだ。それにしても僕の能力を目の当たりにして、怯えながらも一向に引くそぶりを見せない。ここの王は国民から愛されているんだなぁ……


「悪く思わないでくださいね? 僕だって両親のかたき討ちの為にやっているんです。……それに」

 

 僕は両手を広げながら告げる。


「宇宙の為にもやっているんですから!」

『んな!? 武器が吸い寄せられていく!?』

『いや! そんなもんじゃないぞ!』

『建物の鉄筋や家具、色んなものが少年の元に!?』


 鉄筋や家具、鉄パイプ。敵の持っている鎌や農具に至るまで、あらゆる金属物質が僕の元に周りに集まり、太陽を中心とした惑星のように周りを漂い始める。そしてゆっくりと左回りに回し、コマのように回転させ、防護を固める。


「僕を倒したいのであれば、金属物質以外の物を持ってきてください!」


 僕はその回転を維持しつつ、比較的殺傷能力の低そうなクワを周回から外して独自に操る。柄の部分をならせいぜい痛いだけ。敵の頭部や腹にぶつけ、意識を刈っていく。1人、また1人と倒れていき、どんどんと数が減っていく。


『ぐあぁ!』

『くそっ! これでもくらえ! へぶっ!』


 投擲で攻撃を仕掛けてくるも、その攻撃は僕の作った防壁に阻まれ意味をなさない。


『駄目だ! 全部あの防壁に弾かれる! ぎゃふん!』

『こんなのレーイズ王の能力みたいじゃないか! へべれぇ!』

「え?」


 遂に最後の1人を倒す。だがその最後の倒した人の中で今気になることを言った人がいた。レーイズ王? この街の王の名前はレーイズ王というのか? それに僕のような能力? ということはこの国の王は念動系のTREということか? 問い詰めたいが僕が気を失わしてしまったのでもう聞けない。まあでもその程度ならこの街の人達全員知っているだろうから問題ないか?

 そんな事を考えながら僕を守っていた防壁を解除して地面に降下し、吸い寄せた物をなるべく元の位置に戻していると、上空から轟音と共に音破が着地してきた。


「あ! 音破! 大丈夫?」

「おうっ! あれくらいならもんだいねぇっ! そっちは無事みたいだなっ!」

「うん! それよりその人は?」


 音破の傍らには顔面の右瞼がはれ上がって、大分痛めつけられた人がいた。


「ちょっとばかり情報を聞こうと思って連れてきたっ。おいっ! 起きろっ!」

『うっ……! はっ!?』


 音破に頭を叩かれ正気に戻った男は、自分の置かれた立場に気付き、もはや抵抗も逃走もすることもせず、両手を挙げて無抵抗をアピールした。


「聞きたいことがあるっ」

『ひい! 話します! なんでも話しますから命だけは!』

「安心してください。命を奪おうなどとは思っていません。ただ質問に答えていただきたいだけです」

「まず最初になぜ俺らを襲ったっ?」

『それは王の命令だ! 真王に逆らった上に危険人物の味方をしているあんたらを拘束しろと言われてるんだ!』


 危険人物とはアルダポースさん達の事だろう。まぁ実際は優しい人達で、真王の方がよっぽど危険なのだが、今それをこの人に言っても信用しないだろう。

 そして音破は質問を続ける。


「次の質問だっ。俺達は人を探しているっ」

『人探し? 一体どんな奴だ?』

「ええっと……発明家でして、なんでも異次元の穴を広げる実験をしているとか」

『はぁ!? あいつを探しているのか!?』


 先程のおじいさんと同じ反応。この反応……もしかして、その発明家ってヤバイ人間なのか?


『あんたら、悪い事は言わねえからそいつと会うのはやめとけ』

「どういう意味だっ? 一体どんな奴なんだっ?」

『あいつはこの街……いや、この世界でも1、2を争う発明家だ』

「へぇ……そんなに凄いんですか」

「是非とも会ってみたいぜっ!」


 その言葉を聞いて男は不敵な笑みを浮かべる。


『言っただろう? やめとけって。その野郎は見たこともない強力な兵器を持っていたんだが、いざ真王と宝物狩り部隊が来てみると何もせずに俺らを見捨てたんだ!』

「酷いですね……力を持っているのに見捨てるなんて……」

『ああ。あいつは自分だけ良ければいいのさ。だが、この街の王は真王に最後まで抵抗した素晴らしい方だ! 俺らを守るために真王に忠誠を誓ったんだ! だから俺達はTREにならずに済んでいるんだ! あの人の為ならなんだってするぜ!』


 どうやらこの街の王は、真王には従っているものの、それは市民を助けるためって感じか。だとしたらなるべく戦わないので、真実を話してこっちの味方になってもらいたいものだ。


「どうする音破?」

「どうするもこうするも……会わないとウンロンが帰れないからな……。行くっきゃねぇだろっ」

「だよね……」

 

 ウンロン君の為にも会わないといけない。もしかすると、アルダポースさんのように話してみれば良い人なのかもしれない……とか考えてみるけど、そんな上手い話は無いか……


『もういいのか?』

「いいや重要な事を聞かせてもらってないっ。そいつは今どこにいるっ?」

『どうしても行きたいのか?』

「ええ。お願いします」

『わかった……教えるよ。奴の居場所は……』

「っ! 危ねぇっ!」


 急に音破が叫び、僕を抱きかかえて能力を発動。その場に男を置いて後方に離れる。


「――無音の攻撃をかわすとは……やるね」

「お前は……何者だっ?」


 突如現れた男。その容姿はふくよかな……いや、ぶっちゃけかなり太っている。両頬はリスのように膨らみ、着ている服は大分はち切れそうな程膨張している。辛うじで髪の毛だけは手入れされており、さらさらと金髪がなびいている。


「俺か? 俺の名前はレーイズ・ヴァキューム」

「レーイズ……? まさか! この街の王!?」

「その通り。俺はこの街の王だ」

「いきなりトップの登場かよっ……」

『レーイズ王……申し訳ありません』

「気にすることはない。俺の命令のせいでこんな目に……仇は取ってやるからな」


 男に歩み寄り、激励をするレーイズ王のその行動に涙を流しながら何度もうなずく男。凄いな……でも危険な最前線に王自ら現れたり、市民に寄り添う王だから人望が厚くて当然か。


「これ以上市民に被害を出すわけにはいかない。真王様の命令だ。2人とも拘束させてもらう。かかってきな」


 だがその覇気のない話し方とだらしのない体系に思わず気が抜けてしまう。目の前にいる人は本当に王なのか? どう見ても運動嫌いの引きこもりというか……甘やかされた坊ちゃんのような印象だけど…… 


「おい鉄操っ。油断すんなよっ?」

「音破?」

「社尽の時も強そうじゃないと油断したが、かなり強敵だっただろうっ? 真王からどんな能力を授かているかもわからんっ。TREに見た目は関係ないからなっ」


 その言葉に生唾を飲み込んだ。そうだ。社尽も真王もメタスターシさんも見た目は細身だったり、老人だったりと、とても強そうには見えないが、実際はかなりの実力者だった。見た目だけで敵を格下と思い、油断するなんて世話ない。目の前にいるレーイズ王も強敵――と思ってかかろう。


「というわけで……おらぁああああ!!」


 先手必勝と言わんばかりに音破がノーモーションで拳を繰り出して衝撃波を放った。奇襲という形になったその衝撃波は轟音と共にレーイズ王の元に進んでいく。


「そんな単調な攻撃では俺に傷一つ付けることは出来ないぞ」

「黒いオーラ!?」

「んなっ!?」


 僕達が驚いたのはレーイズ王の体から出た真っ黒いオーラ――ではなく、衝撃波がレーイズ王に当たる寸前で消え去ってしまったというところだ。

正確にはレーイズ王の立っている場所だけ衝撃波が無くなり、そうでない場所はしっかりと衝撃波が残っており、後方の建物に直撃して破壊している。

という事は、部分的に攻撃を消し去ったってこと……?


「なんだっ!? なんの能力だっ!?」

「気を付けて音破! 言い忘れたけど、レーイズ王は何かしらの防壁か念動力を使うみたいだ!」

「眼に見えない防壁かっ! 厄介だな!」

「今度は僕の番だ! はぁ!」


 僕は先程使った鍬や鎌、家具などの金属物質を再び寄せ集める。今度は身を守ろうという考えを一切捨て、攻撃のみに徹しようと思った僕は、金属物質で巨大な拳のような形状の鉄拳を作り上げる。


「いくぞレーイズ王!」


 相手への気遣いを排除した、情けなしの攻撃を決意した鉄拳は、レーイズ王の頭上から垂直に叩きつけられる。


「ほほう。真王様のおっしゃる通り、中々の能力だな……だが」

「そんな!? 僕の攻撃が!?」


 鉄拳が直撃する刹那、ベコベコと音を立てながら押しつぶされてしまう。なんだ? 一体なんの能力だ?


「今度はこっちから行くぞ! ふん!」

「「!?」」


 レーイズ王がこちらに手を伸ばした直後、僕と音破は自分の喉に手を当て、苦しみのあまり膝をついてその場に座り込んでしまう。

 呼吸をしようとするがまるで肺に空気が入ってこない! 


「ふふふ……社尽を倒したと聞いた時は驚いたが、どうやら偶然だったみたいだな。少し期待外れだったがこれで終わりだ!」


 笑みを浮かべ勝ち誇っているレーイズ王。僕も音破も限界を迎え、意識が飛ぶ――間際、上空から何か小さい――タブレットなんかについてくるタッチペンのような物が僕らの前に落ちて地面に突き刺さった。


「む? なんだこれは?」

『ザザザ……』


 そのペンのような物の先からノイズがはしり、何か聞こえてきた。


『声が出ないのはモニターで確認できているから一方的に話すぞ! 君達助けてあげよう! 10秒経ったら援護する! 動くなよ! 10……9……8……』


 突然の出来事に疑問符を浮かべる僕と音破。そして一方的に話しかけてきている声の主はカウントダウンを続ける。


『5……4……3……』

「この声どこかで……。っ! まさか!」

『弾着……今!』

「「どわぁ!?」」


 カウントダウンが終わったと同時に、上空から砲弾の雨が降り注ぎ、辺りの建物は一瞬で瓦礫と化す。この破壊力と音……音破の能力みたいだ……!


「おのれ……! グラントライフめぇ……!」


 歯ぎしりしながら上空を見るレーイズ王。今度は大きな砂煙を巻き上げながら、僕達とレーイズ王の合間を割くように、巨大な閃光が降り注ぐ。そしてその攻撃の2秒後、上空からヴァジングのようなブオオオという音が響き渡った。


「ぐおおおおおお!!」

「「うわぁああああ!!」」


 その爆発にも似た爆風により僕らは吹っ飛ばされ、瓦礫の山となった建物に激突する。


「ぶはぁ! 息ができる!」

「ああっ! 助かったっ!」


 そしてこの攻撃のおかげでレーイズ王の能力が解けたのか、僕と音破は呼吸が出来るようになり、瓦礫をどけて起き上がりながら何度か深呼吸をして肺に酸素を取り込む。


『くそぉ……! どこに行った! 出てこい!』


 砂煙の奥の方では姿は見えないが、レーイズ王がこちらを探しているようで、恨めしそうな叫び声が聞こえてくる。逃げるなら今がチャンス!


「行くぞ鉄操っ! つかまれっ!」

「う、うん!」


 僕は音破に振り落とされないよう、あらん限りの力で捕まり、それを確認した音破は能力を発動して上空へと飛び上がり、急いでその場を後にした。


「とりあえずは逃げられたかっ! このまま例の落合場所に向かうぞっ!」

「うん!」


 僕は音破に掴まりながらたった今起きた事を思い返していた。

 さっきの攻撃は何だったんだろう? TREの能力? だとしたらもの凄い破壊力だったけど……それにレーイズ王が発したグラントライフという人物……。とりあえず今は旋笑達と合流しよう。





 

「おのれグラントライフめ……いつの間にあれ程の兵器を作っていたんだ?」

『う……』

「おお! 大丈夫か!」

『は、はい……ありがとうございますレーイズ王……』

「あの者達に尋問されていたようだが、何を聞かれた?」

『ええっと……自分達が襲われる理由と、グラントライフについてです』

「何!? ……やはり会うつもりか……真王様の読み通りだな」

『レーイズ王……?』

「みんなに声をかけてくれ。速やかにグラントライフと奴らを討ち取るぞ」

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