第2章 第4話~謎の声~
「んで? のこのこ帰ってきたわけか」
数十分後、僕と音破は落合場所に到着していた。追手や尾行を警戒し、危険がない事を判断した上でここに来たため、予定の時間よりも少し遅れてしまったが、すでに旋笑とウンロン君が待っており、僕らは先程あったことを2人に話した。
「おいおいウンロンっ! そんな言い方はないだろっ!」
「実際そうだろ? その天からの攻撃とやらがなければお前ら掴まってたんだからな」
「「う…………」」
遠慮のない言葉に苦虫を噛んだように顔を引きつらせる僕と音破。だが実際問題ウンロン君の言う通り、あの時天からの援護がなかったらと考えると……うう……恐ろしさのあまり鳥肌が立ってきた……
「!!」
そんな中、旋笑がウンロン君の肩を叩きながら一歩前に出てきた。そのおかげでウンロン君はこれ以上何かを言うことなく黙り込み、僕と音破は旋笑の笑顔でなんとなくホッとしてため息をつく。そうだ。反省は後でいくらでもできる。今は得た情報を交換し合おう!
「僕らが得た情報から言うね。この街の王の名前はレーイズ王って名前の王で、見た目は小太りでなんだかだらしない感じだったよ」
「ああっ! だがさっきも言った通り、あいつはTREで、俺の能力は完全に無効化されちまったっ! それに鉄操の飛ばした金属はベコベコと潰されちまったし、息も出来なくなったしヤバかったぜっ!」
圧力を操るTRE、なのかな? いや、それでは僕らが息を出来なくなった事と、音破の能力が無効化された説明ができない。一体なんの能力なんだろうか? なんの能力なのかわからなければ対策も攻略も出来ない。一つの課題だ……
「次にわかったことは例の人はグラントライフって名前の人だよ」
「グラントライフ……」
「それが大層嫌われててなっ? 俺達の方は聞いた全員が嫌そうな顔をしていたぜっ」
「………………」
「何っ? 旋笑の方もそうだったのかっ?」
男か女かはわからないが、グラントライフという人物はこの街では相当嫌われ者だということか。
「あとはこの街の人達はレーイズ王に絶対的信頼を抱いているって事かな。宝物狩りが行われたらしいんだけど、レーイズ王が必死に戦ったおかげでこの街の人達は誰一人TREにならずに済んだって言っていたよ」
「俺達を捕らえて真王に差し出すのも、真王の為じゃなくて、街の人達を守るために献上するって感じだったしなっ」
社尽は真王に絶対服従をしていて、むしろ率先してTREを生み出して真王に献上していたくらいだからね。このレーイズ王は良い人なのかもしれない。
「そっちはどうだ? なんかいい情報はあったか?」
「…………」
旋笑は肩を落として落胆する。その表情からはいつもの笑顔が消えており、言葉がなくとも悔やんでいる様子が見て取れた。きっとレーイズ王が先手を打って、街の人達に情報を流さないようにしたのだろう。そんな状態では情報収集も困難だし、旋笑に非はない。
「気にしないでよ旋笑。もしかしたら立場が逆だったかもしれないんだからさ」
「そうだぜっ! お前はいつも通りの明るくしてろよっ! 調子狂うぜっ!」
「旋笑は泣き顔より笑顔の方が似合ってるんだからさ」
「!!」
旋笑の顔に笑顔が戻り、僕らは肩を抱き合う。そんな中、ウンロン君は死んだ魚のような目をして旋笑を見ていた。
「はっ! よくそんなことが言えたな芸笑」
「!」
「「??」」
その一言に旋笑はビクッと肩を上げ、何を言っているのかさっぱりな僕と音破は首をかしげる。
「ウンロン君? それって一体?」
「おれが得た情報を聞かせてやろう」
そう言ってウンロン君は腰に巻いたバックから手帳のような物を取り出し、書かれていることを話し始めた。
「焼き鳥、ハンバーガー、ステーキ、カレー、ピザ」
「……………」
「アイス、パフェ、クレープ、パンケーキ」
「「????」」
ウンロン君は食べ物の名前を言い始めた。一品言うたびに旋笑が体を小刻みに震わしながら冷や汗を垂らしていく。
「ウンロン君? それは一体……?」
「この女が街の連中にそそのかされて食った料理のリストだ」
「「………………は?」」
「…………………」
今、なんて言った?
「旋笑さん? どういう事かな?」
「おい旋笑さんっ? 俺達の目を見てごらんっ?」
「……………………」
旋笑は全身から汗を噴き出し、過呼吸気味に息を切らしている。目を見開いてはいるが、僕らとは目を合わせようとしない。
「そんでこいつがこの女が食って飲んでいる間におれは情報を得た」
「え? どうやって? 口留めされてたんじゃないの?」
「どんなに義理堅くても所詮は一般市民だ。能力使って脅して喋らせた」
「ほお! 流石だなウンロン! だってよ旋笑?」
「…………………」
ウンロン君は手にしたノートをめくり、言葉を続ける。
「まずはレーイズ王の能力だ。奴は『空気を操るTRE』だそうだぜ」
「空気?」
「そうだ」
「成程っ! だから俺の衝撃波は無効化されたのかっ! 空気を操って真空にでもしたなっ? 空気の振動どころじゃないからなっ!」
「僕の金属物質がぺしゃんこにされたのも空気圧を上げたから。息が出来なくなったのも空気が無くなったから……納得したよ。成程……空気か……」
「今のが芸笑が呑気にカレーを頬張ってる時に聞き出した情報だ」
「それはそれは……さぞ美味しく食べてるときだったんだろうね」
「だろうなっ。きっと格別だっただろうっ」
「…………………」
ウンロン君は一呼吸間を入れて次の情報を話し始める。
「次にグラントライフについてだ。フルネームはインヴェンタァ・グラントライフ。天才発明家らしく、この前山賊どもが乗っていた自動車と呼ばれる乗り物を発明したのもこいつだ。おまけに兵器開発も一級品らしくてな」
「天才発明家……やっぱりそう言う系の人か。っていうか、こっちの世界でも自動車ってよんでるのかぁ」
「ってことは空からの援護もグラントライフってのがやったのかっ?」
「可能性はあるな……」
「これが芸笑が数種類のアイスを回し食べしていた時に得た情報だ」
「この時期美味しいよねアイス」
「俺も食いたかったなぁ……まぁレーイズ王と戦っててそれどころじゃなかったがなっ」
「…………………」
「あと最後に芸笑がパンケーキを頬張ってるときに得た情報なんだがな」
「…………!!」
旋笑は泣きべそをかきながらウンロン君の胸倉を掴み押し倒す。いやまぁ……確かにくどい気もするけど、こればっかりは旋笑にも非があるので特に何も言えない。だけど旋笑も年頃の女の子だし、この街の人達もそれをわかった上で言葉巧みに誘惑してきたのだろうから、少しくらいは大目に見てあげるか。
「っていうか、素朴な疑問だけど、よくそんなにお店があったね」
「?」
「いや、この世界は宝狩りでお店なんか開けないでしょ? なのにお店が開いているなんておかしくない?」
「確かに言われてみればそうだなっ。ノンビーヌラじゃ見せなんて開いてたら一発で宝狩りにやられちまうのにっ」
「それは知らなかったな。そんな事なら調べておいたんだが」
「ウンロン君はこの世界で起きていることがよくわかってなかったから仕方ないよ。って、僕も人の事言えないけど」
「そいつは気になることだが、俺達はもう指名手配されてるっ。もう街で聞き込みはできないだろうから、その話の追及は一旦置いとこうぜっ! それで最後の情報はなんだウンロンっ?」
旋笑がウンロン君から離れ、身だしなみを整えた後に最後の情報を話し始める。
「最後の情報はグラントライフの居場所だ」
「本当!? 一体どこにいるの!?」
「あいつはこの街には住んでなく、街から数キロ離れた場所に自分の拠点を作って住んでいるらしい」
「この街にはいなかったのかっ! 危ねぇ……危うく無駄足を食うところだったぜ……」
音破の言う通りだ。その情報がなければ、僕らは敵の多いこの街で、住んでもいない人物を危険を冒しながら探していたところだ。でも考えてみればグラントライフという人も敵しかいないこの街に住むリスクを負うくらいなら、街から出た方が安全だなぁ。
「場所はわかる?」
「ああ。それも調べた。詳しい位置は誰も知らなくて、その付近にいるって情報だがな」
「ならすぐに行こう! 敵だらけの街に居てもいい事は一つもないし!」
「だなっ!」
「………………!!」
「おっ? 旋笑もやる気満々だなっ! もう少しこの街の美味いものでも食いたいんじゃないかっ?」
「………………!!」
「はははっ! 悪ぃ悪ぃっ!」
「音破、旋笑だって年頃の女の子なんだから、食べ物に目がくらむのはしかたないんじゃないかな?」
「それは何のフォローにもなってないぞ」
僕らはウンロン君の得た情報をもとにグラントライフさんの住む場所へと移動を開始した。
「ふ~……なんとか無事に抜けられたね……」
街を出る際に検問所兵と出くわして多少の戦闘が起きたが、こちらの被害はなく、無事に出ることができた。今はウンロン君の得た情報を頼りに森へと入り、グラントライフさんの住んでいる拠点へと向かっている。
「さて……一体どんな人なんだろう? 援護してくれたところを見ると良い人っぽいけど……」
「街の人達から嫌われているところを見るに、相当嫌な奴かもしれないぞっ?」
音破の言う通りだ。グラントライフという人は街では相当な嫌われ者。僕が得た情報では、宝狩りが街で行われた時には、その技術力を持って向かい討とうとはせずに、逃げたと聞いた。真意はわからないが、その情報だけ聞くと相当な腰抜けか臆病者、または嫌な奴だととれる。
「この際なんでもいい。おれは元の世界に戻れればそれでいい。もしも協力しないのであれば力ずくで従わせるさ」
「おいおいウンロンっ! それはちょいと強引じゃないかっ?」
「知ったこっちゃない。どっちにしろ力を持っているのに街の連中を見捨てて逃げ隠れしている腰抜けだぞ? すんなりこっちの言うことを聞くとは思えん」
「まぁ確かにそうだなっ。おっしゃっ! 嫌な奴ならぶっ飛ばすっ!」
「たく……血の気の多い……ん?」
その瞬間、音破とウンロン君が歩みを止めて、何かを探すように辺りをキョロキョロと見渡し始める。素人の僕でもいい加減その2人の反応を見れば何を意味するのか分かる。これは……
「何か来てるの……?」
「ああっ。何か気配を感じるっ」
音破の警告に身構える僕と旋笑。ここは街の外とはいえ、まだ敵の領地内だ。もしかしたら追手が来たのかもしれない。
「だが妙だな」
「ウンロンも感じたかっ?」
「ああ……」
そんな中、音破とウンロン君は戦闘準備を整え、準備体操をしながら何か違和感を感じ取ったようで、互いに情報を交換し合い、何かを確認し合っている。
「どうしたの2人とも? 目標がわからないなんて2人らしくもないね」
前回山賊に襲われた時は、山賊の人数と位置をピタリと的中させた2人だが、今2人が浮かべている表情は何とも自身なさげだ。
「変なんだ。こんなのは初めてでな?」
「初めて……? それって一体どういうこと?」
「気配はあるんだが、これは……」
ウンロン君は静かに言葉を続けた。
「人の気配じゃない……っ!?」
その瞬間、上空から何かが飛来し、僕らの目の前に突き刺さる。これは……さっき見たペンのような棒だ。すると、ペンからザザザ! というノイズがはしり、続けて声が聞こえてきた。これは……女性の声?
『警告します。それ以上この先には足を踏み入れないでください』
声の主は若い女性の声だった。それにノイズが走っているにも関わらず、その声はとても透き通った感じのする美しい声で、グアリーレさんのような印象を受ける。
「ええっと……あなたはどこの誰ですか? っていうか、どこから話してるんですか?」
『それは今関係ありません。私が聞きたいのは引き返すか、引き返さないかです』
「ふん。引き返さないと言ったらどうなるんだ?」
声の主に対して挑発的な態度をとるウンロン君。僕は慌てて会話に割って入る。
「ちょ、ちょっと! あ、あのさっきは助けてくださりありがとうございます!」
「だなっ! さっきと同じ方法で話しているってことはさっきの人で間違いないっ! ありがとうございますっ!」
『いえ。礼には及びません。全てグラントライフ様の命令ですので』
様付け……ということはこの方はグラントライフさんのメイドか何かの給仕さんなのかな?
「ですのでグラントライフさんに直接お礼を言いたいのですが……」
『今グラントライフ様は手が離せません。それにそのような行為は不要です。グラントライフ様はどなたともお会いになりません』
何とも不愛想な人だなぁ……。まるで決められた原稿をそのまま話すような、無機質な話し方だし、なんだか機械と話してるような印象を受ける。
『グラントライフ様には伝えておきます。ご用はそれだけですね? それでは今すぐ立ち去ってください』
「そうはいかない。おれはグラントライフに用がある。正確にはそいつの作った発明だがな」
『…………なんですって? それはグラントライフ様の発明を奪おうとしているのですか? でしたら尚更会わせるわけにはいきません。直ちに引き返してください』
「うるせぇ! 合わせろって言ってんだバカたれ! こっちはさっさと元居た場所に戻りてぇんだよ!」
ついにキレたウンロン君。う~ん。でもその気持ちもわからないでもない。声の主はまるで聞く耳もたず、強引に話を終らせようとしているし、こっちの話を聞いているようでその実まるで聞いていない。
『あなたから敵意を感じます』
「ああ? やっぱりおれらを観てるのか? どこにいる?」
『お答えできません』
「ああっ! じれったい! 姿を見せてくれやっ! じゃないと強硬手段取るぞっ!」
「賛成だ。こっちは一刻も早く元の世界に戻りたいからな」
「………………!!」
「ちょっとみんな!? いくら何でも強引すぎない!? ここは穏便に行こうよ!」
旋笑、音破、ウンロン君は声の主に少し強めに言い寄る。僕もああは言ったけど、このまま引き返してもレーイズ王達のいる街に戻ることになってしまうし、僕達に残された道はグラントライフさんしかいない。だが3人のように強引に言っても相手を怒らせるだけだ。僕はなぜ会いたいかを声の主にちゃんと説明しようと口を開くが……
「ん? 地震?」
不意に発生した地揺れに思わず言葉が途切れる。確認の為に周囲を見渡すと、足元の小石がカタカタと揺れ始め、森の奥では鳥がギャーギャーと鳴きながら飛び立つ音が聞こえる。それにどんどん揺れが大きくなってきてる?
「っ!? なんだっ!? 揺れが大きくなってるぞっ!?」
「ただの地震じゃねぇ! 地面の下に何かがいる!」
「何がってなに!?」
「わからん!」
次第に揺れが大きくなり、立つこともままならない状態に陥ってしまう。四つん這いになりながら慌てふためく僕らをよそに、ペンのようなものに再びノイズが走り、先程の女性が氷のような冷たい声で告げてきた。
『さようなら』
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