第二章 第二話~検問~
『とまれ』
遂に僕らは、ビギーニングに到着した――と、言いたいところだけど、正確にはあと数百メートルで街に入るというところで、街の検問所というか、関所のような場所で兵に止められ、身元を確認されていた。
『お前達、どこから来たんだ?』
『森の方から来ただろ? 山賊じゃないだろうな?』
検問所にいた兵が、腰のホルダーに入っている拳銃――といっても、警官が持っているリボルバーではなく、海賊時代なんかで使われていた一発限りのマスケット銃なんだけどね。とにかく、武器に手を掛けながら僕らに質問してくる。まぁ確かに僕らが来た方角は森だし、そう疑われるのも無理ないか。
「え、えっと……僕らは山賊ではありません」
『本当か?』
「おうよ! それどころか山賊は俺らが倒したぜ!」
『何!?』
音破のその言葉にその場にいた兵達が驚きの表情を浮かべる。いや、驚き半分、小ばかにした表情半分と言ったところか。まぁ確かにこんな子供達が山賊を倒したと言っても信じるわけも無いし、こんな反応をするのが当然か。
「あ、信じてませんね?」
『まぁな。君達みたいな子供がどうやって山賊を倒したと言うんだ?』
『相手は武装したプロだぞ?』
『そうそう。俺達の兵にも被害が出たというのに……』
「じゃあ証拠見せますよ!」
音破はそう言うと小走りで距離を取り始めた。その動向をみて検問所の兵達は首をかしげていたが、僕は音破が何をしようとするのかなんとなく察しがついた。
大体20m程距離を開けたところで音破は立ち止まり、こちらに背を向け、肩を一回回して軽くストレッチし、ゆっくりと腰を落とした。それと同時に音破の体が真っ赤に発光し、左手を少し前に出して右手は腰元において力を溜める。
『あの少年、TREなのか!?』
「あ~……皆さんも耳を塞いだ方が良いですよ?」
『「「「???」」」』
僕、旋笑、ウンロン君は耳を塞ぎ、驚いた様子の検問所の人達にそう言うが、イマイチ理解できていない様子で、疑問符を浮かべながら首を傾げている。そう思った矢先――音破が動きを見せた。
「どりゃあああああ!!!」
掛け声と共に勢いよく突き出した右拳。その腕が伸び切ったところで大気にヒビが入る。
『「「!!!???」」』
大気が震え、肌に振動が伝わった直後、落雷の数倍は大きい炸裂音がこちらに鳴り響き――
『「「うわぁあああああああ!?」」』
拳を突き出した方向に向かって、さっき僕らが歩いて来た道をなぞるように、道の小石や雑草を薙ぎ払いながら衝撃波が突き抜けていった。相変わらず凄い威力だなぁ……僕のなんかよりずっと強力だし、インパクトもある。そんな中、音破は両拳をぶつけ合い、一つ息を吐きながらこちらに歩いてくる。
「ふぅ……少しは整地できたでしょうよ。それより納得してもらえましたかね?」
『TRE……こいつらTREだったのか……』
『納得したぜ……』
音破の放った衝撃波の勢いと、音の壁。更にそのインパクトに当てられてか、警備隊の人は尻もちをついて呟く。
『よくわかったよお前達』
『TREなら信じざるを得ないな』
「おっしゃ! ありがとうございます!」
『ああ』
警備兵のおじさん達はゆっくりと立ち上がり、尻に着いた土を叩きながら再びこちらに向き直る。
『さてと。それでは入国にあたりいくつか質問するぞ』
「質問……ですか?」
『ああ』
そう言うと警備兵のおじさんは僕らの顔を順に見ながら話し始めた。
『君達の入国の目的は何かね?』
「目的ですか? ええっと……」
職探し……なんて言ったら、この世界的に言うと一瞬でアウトかな? となると、怪しくない範囲で、しかも安心されるような理由となると……
「――王に仕えたく、ここにやってきました」
「「!!」」
その言葉に旋笑と音破が目を見開いた。自分で言っておいてなんだけど、その単語を口にするだけで吐き気を催すし、気分も悪くなる。けど、そんなものは一瞬の出来事だ。目的を果たす為ならば平気で人を欺くこともしなければならない。甘さは身を亡ぼすと行くことは、ノンビーヌラの街で――この世界で学んだことだ。
旋笑と音破は僕のその言葉に顔をしかめ、何か言いたげな表情を浮かべるが――僕の目を見て、心中を察してくれたのか、互いに顔を見合わせて頷くと、続いて口を開いた。
「……ええ! この身を王の為に、いや! 真王様の為に使いたいんですよ!」
「………………!!」
「私もです! ぜひ使ってください! 便所掃除でも何でもしますから!」
驚いたことに、ウンロン君までも演技を始めてくれた。
その表情と来たら――まるで別人だ。いつもの不愛想で高圧的な雰囲気はなく、人当りも良く、へりくだった様子で話しており、もはや別人だ。暗殺者は一般人に溶け込むように演技力も高いのか……? こんな事、元の世界じゃ見ることもできないし、これはかなり貴重な経験が出来ている。暗殺者の生態なんて中々見れるものじゃないからね……って! 感心している場合じゃなかった! 今は目の前の警備兵の信用を得るのが先だ!
そんな僕らの言葉を聞いて、警備兵達はお互いに顔を見合わせ、小声で何かを話し合い始めた。そして数分後、再び僕らの方を見直すと、ゆっくりと話し始めた。
『成程。それでこの街に入りたいと、ノンビーヌラからやってきたのか』
『盗賊を壊滅させるほどだ。良い戦力になるだろう』
『最近は何かと物騒だからな。なんでもノンビーヌラの王が殺されたそうじゃないか』
『それについて何か知らないかね? ん?』
僕らは一様に顔を見合わせて、すっとぼけた顔をすると、一斉に首を横に振った。その様子をみた警備兵は、小さく「そうか」と呟くと、次の質問を僕らにしてきた。
『――さて、それでは続いての質問だ。そこの少年はTREだという事はわかったが、残りの君達はどうなのかね?』
「僕ら……ですか?」
『ああ。正直に答えろよ? と、言ってもこれを付けてもらうんだけどな』
検問所の兵は、そう言って僕らに機械に繋がれた洗濯ばさみのような物を渡して来た。なんだろうこれ?
「すみません。これ一体何ですか?」
『これはこの街の発明家が作った、嘘をついていないかどうかわかる機械なんだ』
「凄いっスね」
音破と旋笑は興味津々にその道具を見つめ、観察し始めた。ウソ発見器か? ノンビーヌラとまるで科学技術進歩が違うじゃないか。ノンビーヌラはせいぜい16世紀~17世紀くらいの科学力で、この街の科学力は20世紀くらいもありそうだ。
なぜだろうと思ったが、すぐに答えが出た。盗賊が持っていた自動車に、メタスターシさんの言葉――そう。この街にいるという天才発明家の力だ。
この街にいる天才発明家は、秀才だとか、優秀とかいるレベルではなく、まごうことなき天才だという事だ……。メタスターシさんの言っていた、異次元の穴を開く装置というのもあながち嘘でもなさそうだ。
「どうした少年」
「あ、いえ。なんでもありません」
僕は差し出された装置を右手人差し指にはさんだ。それと同時に、コードの先についていた心電図のようなものが動き始め、質問が始まった。
『それでは質問開始だ。お前達はTREか?』
TREか、か……。潜入する上で隠しておきたい事柄だけど、嘘発見器を付けている以上、嘘は見破られる。精度がどれほどかはわからないけど、揉め事を起こさず通りたいので、ここは正直に答えておくか……
「はい。僕はTREです」
「………………」
『そこの女もTREなのか』
『なら君はどうなんだ?』
「へぇ。私めはTREではありません」
お、ウンロン君。その発言は……と思ったけど、嘘発見器に動きは無かった。成程。確かに考えてみれば当たり前のことで、聞かれた内容は「TREか?」というもの。ウンロン君は
僕同様に異世界転移者で、あちらの世界では能力者の事をモンストロと呼ぶらしい。ということは、嘘には引っかからない。まぁそれがなくとも、暗殺者なら心を偽ることくらいたやすいのかもしれない。
そして、その結果を見た警備兵は小さく頷くと、装置を外すように指示してきた。え? もう質問終わり? もっと色々な事を聞かれると思ったのに、なんだか逆に不安になってきた。
『質問は終わりだ』
『お前達。もう行っていいぞ』
「はい! ありがとうございます!」
「………………」
旋笑と音破は笑みを浮かべながら警備兵にお辞儀し、歩き始めた。だけど、僕はなんだか少し引っ掛かっていた。なんだか妙な胸騒ぎがする……
「奏虎」
「ウンロン君?」
そんな中、ウンロン君は外当たりフェイスを保ちながらも、僕にしか聞こえないように無いかを耳打ちしてくる。
「前の能天気二人は気付いてねぇかもしれねぇが、あいつら怪しすぎる。仮にも関所で、よそ者が来たってのに、こんなにもすんなり通すのが不気味だ」
「うん。それは思った」
「あのアホどもには後で言っておくが、お前も用心しとけよ」
「う、うん」
現役暗殺者のアドバイス。武術家の音破は戦闘や戦場では無類の強さを発揮するけど、人柄が良すぎるのか、こういう心理戦と言うか、そう言うのには少し疎いのかもしれない。その点暗殺者ともなると、戦闘力よりも、そういう周りを見る力というか、些細な違和感を感じ取る技術に長けている。その専門職であるウンロン君が感じ取った違和感は恐らく的中している。気を引き締めていこう。
僕は改めてこの世界で起きている【戦い】を思い出し、気を引き締め直した。そして――ビギーニングへと歩みを進めた。
『はい……こちら検問所です。ええ……例の者達が来ました。…………はい。間違いありません。………………承知いたしました。ご武運を……』
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