改訂版 異世界大迷宮資源探索活動記録

シン

★★★




 気が付くと、そこには死神が大鎌を構えて立っていた。



 死神は大鎌を振り降ろした。


 俺はとっさに左腕で大鎌から首を庇った。


 大鎌の軌道は逸れ、左腕が切断された。


 鋭い痛みが全身を駆け巡る。


「イッ!!」


 痛がってる場合じゃない!


 とにかく逃げないと!




 俺は逃げた。


 訳もわからず、死神から攻撃を受けている。


 何が起こった?


 ここはどこだ?


 黒いボロボロのローブを着て、白い仮面を付けた怪人に襲われる状況とは?



 わからない。



 薄暗い、迷路の様な通路をガムシャラに走った。


 左腕を止血している暇は無かった。


 出血しながら俺は走った。




 走って、走って、やっとその先に青い光の柱が見えた。


 きっとゴールだ。


 助かった。



 そう思った瞬間、死神が投げた大鎌が左足を切断した。


「!!」


 バランスを崩した俺は、地面を転がった。



 痛い。



 痛い。



 イタイ。




 俺は寝転がった状態で手を伸ばした。


 青い光まで数メートル。


 必死に這いずって、青い光に指が掛った。


 光に同化し、転送される刹那、大鎌が俺を通過した。





 俺は逃げ出す事に成功した。





 この世界は終焉を迎えた。


 数百年前に大きな戦争が起こり、世界は荒廃した。


 森は枯れ、海は干上がり、ほとんどの生物は死に絶えた。


 しかし、生き残ったわずかな人間達は資源を得る方法を編み出した。


 大迷宮から資源を持ち帰るのだ。




 この世界には不思議な設備があった。

 

 大迷宮。


 ファンタジー世界のダンジョンに近い建造物。


 生き残った人々は、資源を得る方法をそこに見た。


 生き残ったわずかな人々は、大迷宮に集まった。


 わずか数千の人々。




 大迷宮から資源を持ち帰るのは困難極まりない。


 光に入るとそこは別世界。


 そして、入る毎にステージが違っている。


 孤島だったり、雪山だったり、砂漠だったり、様々だ。


 資源の有るステージに当たった時に、そこに住み着けば良いと誰もが思うだろ?


 でも、同じステージに留まれる時間が限られている。


 1つのステージに留まれるのは1時間だけだ。


 丁度1時間経つと、死神が現れる。


 死神は半端なく強い。


 そして、時間が経過すれば数が増えていく。


 1時間以上居座る事は不可能だった。




 毎日、何回も青い光をくぐり、資源の有るステージを探す。


 資源のあるステージに当たったら、大急ぎで回収し1時間以内に戻って来る。


 出るステージによっては、怪物達が待ち構えている。


 生きる為だけに生きる日々。


 いつ資源が切れるかもわからない、運頼りの生活。


 特に左足と左腕が無い俺には、辛い日々だった。






 いつもと何ら変わりのない、希望の無い日が続いてく。



 資源探索活動5476日目。


 その日は珍しくついていた。


 呼吸用のマスクからくぐもった声を出す。


「バルド、帰ったぞ」


「収穫は?」


「水だ」


「よくやった」

「で?」

「どの位ある?」


「マジックバッグ3つ全部だ」


「…………」

「で?」

「本当は?」


「いや、マジの奴だ」


「本当に?」


「本当だ」


「…………」

「毒でも入ってるのか?」


「飲んでみた」

「舌がピリッとしない」

「たぶん大丈夫だ」


「ヒャッホー!」

「ヤーッタゼー!!」

「タンクが空になる寸前だった」

「ホントに危ないとこだったぜ」

「ありがとな、トイ」


「残り少ない寿命がちょっと延びただけだ、そう喜ぶな」


「スカしてんじゃねえ」

「お前が持って帰ったんだろが!」


「…………」

「今日はもう一回潜る」

「マジックバッグの水をタンクに移しといてくれ」

「代わりのマジックバッグは使えるか?」


 マジックバックは見た目は小さなポシェットだが、見た目より中身の大きいマジックアイテムだ。


 一個で25メートルプール5レーンが優に収まる。


「陰気な奴め」

「2つで良いか?」


「ああ、行ってくる」


「気を付けてなー」


 俺は後ろに手を振って、大迷宮に向かった。




 15年前、大迷宮から出た後、左足と左腕を切断された俺は、バルドに拾われた。


 それ以来、奴の手伝いをして何とかやって来た。


 バルドは頭が切れる。


 終焉を迎えたこの世界で、手に入れた資源を守るには、腕っぷしだけでは足りない。

 

 手に入れた資源を持ち帰っても、その資源を狙って、人間同士の争いがある。


 バルドは限りある時間を犠牲にして、俺の止血をした後、看病をし、義足を作ってくれた。


 左腕は止血してそのままだ。


 隻腕って奴だな。



 当時の俺に頼れる人間なんていなかった。


 俺はバルドに頼み込んだ。


 助けて欲しいと。


 恥も外聞も無かった。


 必死だった。


 土下座する俺に、バルドは言った。


 『大迷宮に潜る相棒が死んだ、お前に替わりは務まるか?』


 俺は務まると言い張った。


 以来、15年間、俺は資源を持ち帰り続けている。


 大迷宮から出て最初にバルドに出会ったのは幸運だった。



 大迷宮の入り口は、街の広場の中央にある神殿の、地下にある。


 青い光の柱は7つ。


 出る場所は完全にランダムだ。


 おそらくだが。


 法則性を探ろうと10年ぐらい出る場所のメモを取ってバルドが解析したが、結果はノーだった。


 たとえ法則性が有ろうとも、俺達にはわからない。





 神殿に着いた。


 青い光の中に入る。


 景色が変わる。


 光の中から外に出る。


 光が消える。


 


 砂漠だ。


 ハズレ。


 光の中から出ると青い光を再使用するのに5分必要だ。


 5分間は光らない。


 転送されない。


 この5分ルールを考えた奴はクソだ。


 大迷宮の5分だぞ。


 はぁーーー。


 奴等が来る。


 俺は腕時計のタイマーを設定した。


 5分で音が鳴る。




 俺は右手にラウンドシールドを構えた。


 構えたままバックステップ。


 砂の中から、尻尾が飛び出てきた。


 やっぱり出やがった。


 キラースコーピオン。


 猛毒を持った馬鹿でかいサソリだ。


 尻尾の毒を喰らうとその部分が数秒で壊死する。


 そういう毒らしい。


 ちなみに、俺は喰らった事が無い。


 喰らっていたら、死んでいる。




 サソリ野郎はいつもの奴より1回りデカい。


 だが、1匹だけだ。


 なんとかなる。


 ハサミが右、左、右と切り裂きに来る。


 機械の様に正確な動き。


 俺はラウンドシールドでガードした。


 この盾はマジックアイテムだ。


 ミスリル製で、付与魔術で耐久性を最大まで上げてある。


 ミスリルは特殊な金属で、魔術の影響を受けやすい。

 

 大迷宮から持ち帰った資源で作った特別性だ。


 まず壊れない。


 ハサミと尻尾の連続攻撃を全て盾で防ぎ、時間を稼ぐ。


 感覚で解る。


 後、3分。



 2分。



 1分。



 ピピ、ピピ、ピピ。


 やっとだ。


 じゃあな。


 あばよ。


 俺は青い光の中に入った。





 神殿に戻って来た。


 ふぅーー。


 しばらく休憩だ。


 噴き出た汗をタオルで拭う。

 

「トイ」

「どこだった?」


「ハロルドのおっさんか」

「砂漠だ」


 ハロルドのおっさんは手練れの大迷宮探索者だ。


 ずんぐりした見た目とは裏腹に、長い事探索者をやっている。


 お仲間であり、ライバルだ。


 このおっさんから資源を分けて貰う事もある。


 あと、俺の方が若い。

 

「おっさんはお前もだろ?」

「砂漠なら成果は無しか?」

「残念だったな」

「ところで、水が手に入ったって?」


「耳が早いな」

「交換はバルドと交渉してくれよ」


「長い付き合いだろ?」

「口きいてくれ」


「長い付き合いだろ?」

「俺が何言うか解るよな?」


「わかった」

「言ってみただけだ」

「じゃーな」

「5分経ったから行くぜ」


「ああ、死ぬなよ?」


「心配したフリかよ」

「お前のそういうとこ、嫌いじゃ無いぜ」

「行ってくる」


 ハロルドは光の中に消えた。


 俺はどうしよう?


 まだ潜るか?


 俺はコインを指で上に弾いた。


 掌で受ける。


 表が出た。


 次は俺の番だ。


 この世界に金は無い。


 使われなくなって数百年経っているらしい。


 資源の交換はその時の状況により変化する。


 俺のお守りだ。



 次に出たのは、迷路だった。


 15年ぶりだ。


 めずらしいステージ。


 左足と左腕が疼く。


 バルドが言うには、迷宮は“アタリ”だ。


 マジックアイテムが良く見つかるらしい。




 俺は生活魔法の『ライト』を使い、周囲を隅々まで照らす。


 視界が暗いと敵の存在に気付かない。


 俺は魔術師じゃ無いが、生活に役立つ魔法は一通り使える。


 火種を作ったり、明かりを付けたり、少量の水を生み出したり。


 小規模な魔法だが、無いよりある方がずっと便利だ。


 訓練しなくても何故か使えた。


 俺が今まで生き残って来れた理由の一つだ。


 

 迷路には、ビッグラットが出るらしい。


 カピバラみたいなデカい奴だ。


 肉食で獰猛。


 こいつは倒せる。


 らしい。


 実際に見た事は無い。


 バルドから聞いた知識だ。


 背中の短槍を片手で構える。


 自動でマッピングされるマジックアイテムの地図を口で咥え、少しずつ通路を進んで行く。




 光が見える。


 通路の先に光源が有るらしい。


 警戒しながら進む。


 部屋の様な場所に入った。


 周りに敵の気配は無い。


 光る天井だ。


 魔道具でも埋め込まれてるのか?


 部屋の中央に、棺? があった。


 槍を脇に置き、上蓋を横にズラす。


 周囲の警戒を意識する。


 ズズズとズラすと、女性が寝ていた。


 美人だ。


 何故か見覚えがある気がする。


 俺はこの世界に来た15年前より以前の記憶が無い。


 自分の年齢も、ざっくり40歳位としかわからない。


 以前に会った事が有るのか?


 女性を抱き起す。


 呼吸は穏やかだ。


 生きている。


「おい!」

「起きてくれ!」

「おい!」


 俺は女性の頬を軽く叩いた。


「ん?」

「ああ、レイか」

「おはよう、レイ」


「レイ?」

「俺の事か?」

「良いから起きてくれ」


「レイ、随分老けたみたいね」

「元気にしてた?」


「人違いじゃ無いか?」

「それより動けるか?」

「移動したい」


「せっかくの再会なのにせわしないわね」

「わかった」

「起きるわ」


 彼女は起き上がった。


 女性にしては身長がある。


 俺と同じ位か。


 175㎝位。


 金髪で碧眼。


 彼女を見ても、美し過ぎて性欲が起こらない。


 俺はその自分の浅ましさにため息が出た。

 

「ハァー」


「なんのため息?」


「言いたくない」

「あんた名前は?」


「レイ、正気?」

「私よ?」


「正気だ」

「で?」


「もう!」

「アリアよ!」


「アリア、アリアね」

「俺は15年前、このステージにどこからか流れ着いた漂流者だ」

「それ以前の事は覚えが無い」

「俺の事を知ってるのか?」


「漂流者、漂流者か」

「上手い事言うのね」

「ところで、比翼の証は持ってるわよね?」


「どんな奴だ?」


「これよ」


 それは表にはつがいの鳥、裏には六芒星が描かれたコインだった。


 俺のお守りのコインと同じ。


「同じのを持っている」

「何故か捨てられなかった」


 彼女は笑顔になった。

 

「捨てられなかった、か」

「久しぶり、相棒」




 あの後、ビッグラットを何匹か殺し、死骸をマジックバッグへ放り込んで、大迷宮を出た。


 彼女は上機嫌で俺に付いてきた。


 彼女をバルドに会わせる。

 

「バルド」

「帰ったぞ」


「ああ」

「お、お前!」

「その女はどうした⁉」


「大迷宮で拾った」


「拾ったって……」

「おい!」

「ジョーダンは止せ!」

「そんな訳無いだろ!」


「これもマジの奴だ」

「彼女は昔の俺の知り合いらしい」


「…………」

「もうすぐ夜だ」

「話は中で聞く」

「あんたも入ってくれ」


「ええ」

「お邪魔するわ」


 俺達三人はトレーラーの中に入った。


 いつでも移動出来るトレーラーだが、移動するにも資源がいる。


 燃料を使うのはここぞという時だけだ。



 バルドとアリアはすぐに仲良く成った。


 彼女も頭が切れるらしい。


 バルドと気が合う様だ。


 俺は安心すると同時に嫉妬していた。


 彼女は美人だ。


 俺は良い年だが、まだ枯れていないらしい。



 彼女はこの世界について詳しく聞いてきた。


 空気が薄く、呼吸もままならない資源の無さに驚いていた。


 だが、驚いていたのはこっちも同じだ。


 彼女は空気の薄さの話をするまで、その事に気付いていなかった。


 彼女は不思議な力を持っている様だった。

 


 彼女は自分の事を積極的に話さない。


 何故か俺の事も言いたがらない。


 理由を聞くと、『まだその時じゃない』と言う。




 まあいい。


 彼女も俺と同じで他に行くところが無い。


 信用出来そうな仲間が増えた。


 そう安易に考えていた。


 


 次の日。


「レイ、貴方の傷を見せてくれないかしら?」

 

「俺はトイだ」

「傷って左腕の奴か?」

「足の方か?」

 

「どっちでも良いわ」

「見せて」


 俺は左腕の包帯を取って彼女に見せた。

 

「触っても?」


「ああ、もう痛くない」

「15年前の傷だ」


「『ハイ・ヒール』」


「ま、待て!」

「もう使ったのか?」


「それ、上級回復魔法だろ!?」

「何故使える!?」


「貴方、鍛錬が足りないわ」

「鈍ったわね、レイ」


「鈍ったって?」

「俺は以前『ハイ・ヒール』を使えたのか?」


「当り前じゃない」

「『伝説のSSS級冒険者レイ』」


「なんだ?」

「SSS級って?」

「それより、このマナの薄い世界で上級魔法って相当だぞ!」


 マナとは魔術や魔法を使うために必要な力の事だ。

 

 マナは大気から集めて使う。



 話してる間に左腕が生えていた。


 俺は左手を、グー、パー、グー、パーと動かして、反応を確かめる。


 完全に治っていた。


「今義足を外す、足も頼む」


 義足を外すと、彼女が魔法を使ってくれた。


 左足も完全に回復した。


「あんた、凄いな」


「ふふ」

「褒められた」


 嬉しそうに微笑む彼女を観察したかったが、そんな状況じゃない。


「あんたは他に何が出来るんだ?」

「俺はこれから資源探索に行かないといけない」

「あんたは手伝ってくれるか?」


「私は基本的な武術の他に、魔法が使えるわ」

「魔法使いなのよ」

「もちろん手伝うわ」


「魔法使いね」

「魔術師じゃ無くてか?」


「ええ」

「魔法使い」


「大きく出たな」

「使える魔法の系統は?」


「苦手な系統は無いわね」


「なんでも使えるって事か!?」


「ふふ」

「大抵は」


「信じて良いんだな?」


「もちろん」


「回復魔法と状態異常解除魔法が使えるならそれで良い」


「じゃ、ついて来てくれ」



 バルドに事情を説明し、大迷宮に潜る事に成った。


 足と腕が回復した俺を見て、バルドは驚いていた。





 大迷宮に着いた。


「じゃー行ってくる」


 俺は光の中に入ろうとした。


「待って、レイ」

「手を繋いで」


「アリア、手を繋いでもダメだ」

「別々のステージに転送される」


「いいえ、そうならない」

「比翼の証があるもの」

「手をだして」


 俺は彼女の手を握った。


「いいさ」

「ダメ元だ」


 彼女は笑顔で返した。


 


 その日から俺達の資源探索活動は一変した。



 大迷宮には1人ずつしか入れない、それが常識だった。


 比翼の証を持ってる者同士だと、一緒に入れるらしい。


 手を繋げば同じ光で移動する事が出来る。


 先に証を持っている一人が入っていても、証を持っていれば後から同じ場所に出る事が出来る。


 探索効率が格段に良くなった。



 アリアの魔法は、どのステージでも役立った。


 雪山、ジャングル、砂漠、孤島、荒野、草原、どのステージにも対応出来た。


 加えて、俺も左足と左腕が回復している。


 移動が大分楽になり、魔物から攻撃を受けても防戦一方になる事が減った。


 戦闘は俺が時間を稼ぎ、アリアが大型魔法を使うと大抵片付いた。



 戦闘で困らなくなった。


 資源探索は、順調に進み、何年かぶりに蓄えが出来た。


「レイ」

「今日は潜らなくても良いのよね?」


「ああ、偶には休みも良いだろ」

「なんか用か?」


「用かって、私達恋人同士だったんだけど…………」


「初めて聞いたぞ!」

「それはスマナイ」


「もう」

「まあ、いいわ」

「時間も出来たし、貴方の事を話しとく」


「やっとか」

「それで?」


「貴方は『SSS級冒険者』だった」

「言ったわよね?」


「ああ、で?」


「貴方は弱くなったわ、基礎を忘れてしまってる」


「まあ、アリアの方が強いかもな」


「基礎を教えるわ」


「それって、時間が掛る奴か?」


「貴方ならきっとすぐよ」


「わかった」

「どうすれば良い?」



 大気中のマナを集め、体の中の気という力で制御して操る、神術という技術が有るらしい。


 大気のマナを集める魔術師の技法と、気を操作する格闘家の技法の複合技術らしい。


 聞いていると複雑そうな応用技に聞こえるが、これが基礎という事だ。


 大気のマナを集められないのは、単純に倒した魔物の数が足りていないらしい。


 魔物を多く倒すと、集める容量が増えていく。


 俺は記憶を無くした時点で、その力がリセットした様だ。


 そして気だ。


 気は自らの内に秘める力だ。


 精神を集中し、力の源を探す。


 大抵、へその少し下側のお腹の奥、丹田に有るらしい。


 気の操作は概念を知ればすぐに出来た。


 昔の俺が神術を使えたというのは本当なのだろう。


 言われただけで感覚を掴めた。




 訓練用の木刀を持って、木刀を気で覆うイメージをする。


 そして、木刀を岩に叩きつけた。


「ガギッ!!」


 木刀は岩に突き刺さった。


 岩を粉砕するまでには至らないが、かなりの威力が出た。


 この強力な力を、全て制御に回すのか。


 大気から集めるマナは、単純にこれより効果が大きいのだろう。


「アリア、気は使えそうだ」

「俺は強く成らなきゃいけないんだな?」


 笑顔で彼女は言う。


「ええ、その通り」

「やることがわかって来たわね」


「あんたは俺の相棒だった」


「ええ」


「俺はどうしてあのステージにいた?」


「…………」


「あんたは俺を追いかけて来たのか?」


「…………」


「比翼の証はどうやって手に入れた?」


「答えられないわ」


「答えを知ってるって事で良いんだな?」


「…………」


「この世界はどこか不自然だ」

「あんたは納得しているか?」


 彼女は笑顔だ。


 正解に近づいているらしい。


「とにかく、神術を使える様に成る事が必要なの」


「わかった」

「あんたを信じる」




 2年後。



 資源探索活動6207日目。


 俺は神術を完全に扱える様になっていた。


 運動能力が飛躍的に向上し、反射神経や知覚系統の性能も向上した。


 そして彼女とも仲良くなった。


 照れる。


「準備は整ったか?」


「ええ」

「おそらく」


「で?」

「どうするんだ?」


「この世界は終焉を迎えた」

「貴方が救世主なら、この先どうする?」


「なるほど」

「そうすれば、全てが終了するんだな?」


「そうね」


「なら、簡単だ」




 大迷宮に向かう。


 生きるのに丁度いいステージを探す。


 すべては大迷宮に在る。



 何回目かの転送で、生活するのに適した島を見つけた。


 大迷宮の周りの人間が住むのに丁度いいだろう。

 


 時間が来る。


 1時間だ。


 でももうタイマーは必要ない。



 死神が出なくなるまで倒し続ける。


 このステージを手に入れる。

 



 俺達は生きるんだ。

 




 ―――。



 死神の鎌が俺の首を狙う。


 俺は左の盾で鎌を上に弾いた。


 右の剣を死神の胸に差し込む。


 致命傷だ。


 死神は黒い霧に成って、剣を差し込んだ穴に吸い込まれる。


 後にはコインが1枚残された。


 その間に2体増えている。


 1体の連続攻撃を俺が、もう1体の連続攻撃をアリアが防ぐ。


 俺は盾で、アリアは水の魔法障壁で防いでいる。


 俺は盾で押し返し、死神の体勢を崩す。


 アリアは俺の前の奴と自分の前の奴を1度にレーザーの様な熱線で切り裂いた。


 1体は真っ二つになる。


 俺は瀕死のもう1体の首を剣で切り落とした。


 その間に更に1体増えている。


 戦いは絶え間なく続く。



 ―――。

 



 死神との戦いは15日間に及んだ。


 こうなる事はわかっていた。


 手軽に飲める栄養ドリンクを用意して戦いに挑んだ。


 不眠不休だった。

 



 5分で1体追加される。


 15日間で4320体程になる。


 途中で数えるのを止めたので、正確にはわからないが、そうなる筈だ。


 そして、死神は比翼の証を落とした。


 1体につき、1枚。


 


 その後、街の住人を説得し、死神を倒したステージに移動させた。


 移動には死神が残した比翼の証を持たせた。


 コインは十分足りた。


 



 残るは俺達2人だけ。


 俺はアリアの手を握る。



 

 2人で青い光の中に入った。



















 

《The another world big maze 100階層が攻略されました。》



《The another world big maze が 完全攻略されました。》

 


《Player:レイ、アリア に祝福を!!!!》





 俺達2人はThe another world big mazeという世界的VRゲームのトッププレイヤーだった。



 最終階層の攻略ではパートナーの手助けに制限が掛る。





 資源探索活動6225日目。


 俺達2人は誰も成し得なかった、大迷宮完全攻略を果たした。

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改訂版 異世界大迷宮資源探索活動記録 シン @01sin

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