■浴室

「秋咲、誤解しないでほしいんだけどさ」


「なに」


「秋咲は、ちっちゃくてかわいいね」


「むしろ夏椿のほうが、エロい目でわたしを見てない?」


「やっぱ誤解した。女の子のアイドル見てかわいいって思うのと同じ気持ちなんだけどな。秋咲はあたしと違って色も真っ白だし、もちもちしてそうだし」


「こういうのはぷよぷよっていうんだよ。夏椿なんてどこもかしこも引き締まってるじゃん。超うらやましい」


「青芝なのかなあ。秋咲を見たら女の子だってちょっとムラっとくるかもとは思うけど、あたしを見てはないわー」


「趣味の問題でしょ。わたしは夏椿みたいな体型に憧れるよ。シャワー浴びてるポーズがサマになってる。これは友情も性欲も抜きにして」


「秋咲さ、変な意味じゃなくって、ちょっと触っていい?」


「等価交換ね」


「わかった。二の腕を所望」


「じゃあわたしは背中」


「おっけ。うっわあ。やわらかい。吸いつきそう。なんかケアしてるのこれ?」


「日焼け止めとストレッチくらい」


「天性かあ。もはや嫉妬すらできない」


「はい交代ね。背中見せて……すげー。美しい」


「背中ほめられてもなあ」


「うわ、肩甲骨かたい」


「それは秋咲もかたいと思うよ」


「いいわあ……ごめん夏椿。やっぱやりたい」


「そろそろ出よっか」


「寸止めひどい」


「あたしはさっぱりしたわー」


「あ、タオルこれ使って」


「ありがと。なんか思いのほかエロいことされなくてほっとした」


「さっきは謙遜してたけどさ」


「え、なに?」


「夏椿、本当は自分の体に自信あるでしょ」


「……ない……と思う」


「たぶん、部活時代にほめられまくってるんだろうね。だからわたしがじーっと見ても恥じらいがなかった」


「まあ……そうかも。コンセプトが違うから、秋咲の体がきれいだと思っても自分と比べたりはしなかったし」


「拙者は恥じらうところを見たかったのでござる」


「エロ武士きた。でもあたしも気づいてるよ」


「なにが?」


「秋咲、巧妙に大事なところを隠してたよね。あたしと違って」


「……とりあえず、風呂上がりの一献を」


「ごまかした。そっかー。秋咲は完全なおっさんではないってことね」


「もうビールあげない」


「ごめんごめん。飲もっか。明日の一限はあきらめよう」


「だね。かんぱーい」


「乾杯。ああ、ビールがまだおいしい」


「夏椿」


「なに」


「仲のいい女友だちっていいね。わたしいますごく楽しい」


「そう見えないよ。秋咲は無表情すぎる」


「たまには笑うよ」


「じゃあ見せて」


「……にぃ」


「型番一桁のアンドロイドみたい」


「ごめんね人間が下手で。でも夏椿と一緒にいれば、自然に笑えると思う」


「だったら肉体関係は諦めてもらおう」


「減るもんじゃないのに」


「プライドがすり減る」


「本当にそう思う?」


「思うよ。あたしはめんどくさい女子ですから」


「じゃあ、わたしが本気だったら?」


「え」


「夏椿、言ったよね。ちゃんとつき合うなら考えるって」


「い、言ったけどさ。いまの秋咲は、その場しのぎの嘘ついてるだけでしょ。『責任取るからやらせろ』って」


「うん」


「素直すぎてびっくりするわ」


「友だちとしては嫌われたくないからね」


「それ言われるとちょっとなあ」


「なんで」


「だってさ、あたしは秋咲を苦しめてるわけでしょ。ちょっと申し訳ない気になる」


「やらせてくれるのっ?」


「ここで満面の笑顔か! というかさ」


「なに」


「お、女同士って、どうなの」


「セックスの話?」


「会話のキャッチボールはふんわり投げ返して」


「わたしだって経験ないから答えられないよ。だからわたしのしたいこと言っていい?」


「や、それは、困る。想像しちゃう」


「くふぅん」


「これだもん。あたしが恥ずかしがってもかわいくないと思うけどなあ」


「夏椿はかわいいよ。すっぴんもいいけど、かっちりメイクしたらアホみたいに美人になるタイプ。自己評価低め?」


「そこまででもないけど。客観的に見るとあたしと秋咲の関係が逆」


「それは、ちょっと……」


「秋咲、されるのは嫌なんだ?」


「嫌というか、恥ずかしい」


「なかなか複雑だねえ」


「だから困ってるんだよ」


「じゃあ時間が色々解決してくれるかもね。寝よ」


「性的な意味で?」


「二段ベッドの上と下で」


「夏椿、ちょっと鬼畜すぎない? 自分でそれっぽい流れにしたくせに」


「そうだけどさ。いまあたしだって、自分の顔が赤いのわかるし。それで秋咲が興奮するのがまた複雑な気持ちになるんだよ」


「夏椿。この状態で学校に行ったら、いままで通り?」


「……やなこと聞くね」


「でしょ。いっぱい色んなこと話して、楽しかった。いい意味でわたしたちの関係はもう変わっちゃった。どうあっても完全に元通りにはならないよ」


「そうだけど……」


「というわけで、一回お試しでしようよ」


「その一回が、一生を左右する案件だよこれ」


「わたしだってそうだよ」


「そのくせ責任は取ってくれないと」


「取る取る。取りまくる」


「必死すぎてかわいそうになってきた」


「もうちょいで落ちそうなんだけどなー」


「心の声出てる。秋咲、普段ベッドどっち使ってる?」


「下」


「じゃあ上のほう借りるね」

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