■朝チュンRTA

「おー、かわいい部屋。女子っぽいよ秋崎。ニ○リのショールームみたい」


「ニ○リって女子かな。でもありがと」


「あれ? 二段ベッド? 誰か一緒に住んでるの?」


「ノーコメント」


「なんでよ」


「自分に不利な情報だから」


「帰るね」


「待って。ここまできたら、もうおさまりがつかない。一発だけやらせて」


「秒殺されたい? それはともかく、誰と住んでるのさ」


「一年生のときから、高校の同級生とルームシェアしてた。普通の女の子だよ」


「過去形?」


「先週出ていった」


「なにがあった」


「黙秘します」


「まさかあんた、手出した?」


「……夏椿。信じてほしいんだけど、それまで普通の友だちだった」


「出したんだね、手」


「未遂だよ。『先ぽよ』もしてない」


「『先ぽよ』……? ともかく貞操の危機を感じて彼女は逃げだした、と。彼女のこと、どう思ってるの?」


「べつに」


「めんどくせぇって顔やめろ」


「じゃあ言うけど、友だちとして夏椿ほど好きじゃない。ただ今日みたいに話をしてたら、いきなりスイッチが入った」


「くふぅん、と。そんで『やらせろ』とか言っちゃったわけだ」


「『キモい近寄るな』だって」


「それはちょっと……きついね」


「シェア解消したから、もう二度と会わないだろうね」


「なるほど。それであたしを追い返そうとしたわけか。ありがと。本気で気を使ってくれてるってわかったよ」


「もういいでしょ。『先ぽよ』していい?」


「だめ。でも変だよね。一年も一緒に住んでて、なんで急にムラっときたの」


「そんなのわかんないよ。尻はむしていい?」


「だめ。それまでは一度もムラっとこなかったの?」


「こなかった。縛っていい?」


「要求がエスカレートしすぎ。ということは、ここ最近で秋咲の心情に変化があったのか」


「みたいだね。初心に返って手つないでいい?」


「そのくらいならいいよ。友だちでもするし。つーかコンビニから帰るときに言えばいいのに」


「家の中でつなぐからエロいんじゃん。あ。秋咲の手って……」


「はいはい。思ったよりも女っぽいって言うんでしょ」


「うん。そそる」


「……物好き、というか必死なだけか。とりあえず飲もう。あんた家入ってからがっつきすぎ」


「RTAみたいなもんだからね。朝チュンまでの」


「R……なに?」


「なんでもないでござる。じゃ、ひとまずかんぱーい」


「KP。しかしこうして部屋を見ると、秋咲って普通の女子大生だねえ」


「そりゃ普通の女子大生だし」


「あたしも昨日まではそう思ってたよ」


「いまは?」


「変態」


「傷ついたから、おつまみ食べる」


「安い子。話戻すと、最初から女の子が好きって人ならなんとなくわかるんだよ。高校の頃にもそういう子にコクられたことあるし」


「詳しく」


「断ってるからね? でも秋咲はそういう人となんか違うっていうか。まだネタなんじゃないかって思ってるあたしがいる」


「あ、クリームさきイカおいしい……いやまずい」


「初めて会ったときも、学食でそれ買ってたね。秋崎ハマってるの?」


「そうかも。たとえるなら、おいしくてまずい味」


「食レポ下手すぎてびっくりするわ。というかあたしの質問にも答えてよ」


「質問? ……ああ、ネタじゃないよ。夏椿に対する気持ちはガチの性欲」


「そこ、妙に正直だよね。秋咲すごいかわいいから、あたしを好きとかうそついちゃえばよかったのに。ちょっと迷うくらいはしたかもよ?」


「だって責任取れないし」


「誠実なのか軽薄なのかわからん」


「あ」


「なに?」


「パンツ見えた」


「キュロットなのに目ざといな」


「意外とかわいいおパンツ」


「秋咲だって似たようなもんでしょ」


「うん。だからそこはムラっとこない」


「そこが男との違いか」


「厳密に言えば、違うのは夏椿のほうかな」


「どういうこと」


「恥じらいがない」


「女同士だからね」


「だからそそらない。恥じらって」


「見られるの慣れてるからなあ。更衣室では全裸が基本だったし」


「そう言えば秋咲って受験したの? スポーツ推薦とかじゃなくて?」


「一般受験だよ。足の筋やっちゃって水泳は引退。それまで勉強してこなかったから浪人したの」


「くふぅん」


「どこに欲情する要素があったの。つーかさ」


「なに」


「あたし、性欲とかよくわからないんだよね。秋咲はあたしをどうしたいの」


「いい声で鳴かせたい」


「そういうのってさ、ほら、恋と性欲って一緒になりがちって、心理学の講義でやったでしょ。だから……」


「わたしが実は、夏椿に恋してるって言いたいの?」


「まあ……そうかな。自分で言うの恥ずいけど」


「じゃあひとまず続きはシャワー浴びてからにしよ。もう二時だし」


「やば。時間過ぎるの早すぎる。あした一限あるよ」


「なら時間を節約する意味でも、一緒に浴びよう」


「そうきたか」


「夏椿は見られ慣れてるんだから平気でしょ」


「まあそうだけど。絶対触らないって約束できる?」


「……でき………………ぬ」


「『無理』と即答しなかったのは評価しよう。でもエロ武士、触ったらグーパンくらいは覚悟してね」


「顔じゃなければ三発は耐える」


「鼻柱からいくね」

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