妹の告白

「まさか陽菜さんが兄さんに告白するなんて……」


 いろはが屋上に来たことにより、裕介は家に帰ってきた。


 陽菜も連れて一緒に帰ろうとしたのだが、しばらく一人でいたいと言ってきたので、彼女は置いていろはと帰った。


 家について私服に着替えた後は自室でのんびりとしていたが、同じく私服に着替えたいろはが部屋に来て何やら呟いている。


 いろはの私服はワンピースタイプが多く、家では紫外線を浴びずに住むから少し露出度が高めだ。


 何故かいろはがベッドを陣取っているが、特に気にすることなく壁を背もたれにして裕介はスマホでネット小説を読む。


「何で屋上に来たんだ?」


 陽菜と話してから帰るとメッセージをしたのだし、先にいろはは帰るものだと思っていた。

 だけどいろはは屋上に来てしまったのだ。


「だって……嫌な予感がしていたんですもん。そしたら案の定兄さんと陽菜さんが抱き合っているし……」


 不満気に頬を膨らませたいろはは、こちらを睨み付ける。

 スマホを見ていないで自分を見てほしそうな顔をしているので、祐介はいろはのことを見る。


 ブラコンたるいろはには、最愛の兄が他の女と抱き合っていたら嫉妬くらいはするだろう。


 嫉妬されるのは愛されている証であるが、見闇に嫉妬させるのはよろしくはない。


「あれは泣いている陽菜を慰めていただけで」

「フッたんなら抱き締めたりしないでくださいよ」


 最もな意見でぐうの音が出なかった。

 確かにフッた相手を抱き締める行為は逆に意識させてしまうだけだ。


 実際に陽菜は諦めていないようだし、これからはアタックをしてくるかもしれない。


「でも、抱き締めてやらないと泣き止みそうになかったし」


 フッても陽菜は大切な幼馴染みであることは変わりないので、出来ることなら仲良くしたいと考えている。


「私はあんな情熱的に抱き締められたことないんですよ。それなのに陽菜さんにはあんなに……」


 抱き締められた陽菜が羨ましいのだろう。


 自分も抱き締められたい、と思っていそうな顔でこちらを見つめてくる。



 うるうるとした瞳を向けられ、これではシスコン兄として失格だな、と思う。


 妹を泣かせてしまいそうになるなんて兄の風上にも置けないし、このままではシスコン兄と名乗ることが出来ない。


「いろは」


 スマホを床に置いて、裕介はいろはを優しく抱き締める。


 手を繋ぐなどの触れ合うことは多かったが、抱き締めるのはあまりしてこなかった。


 昔と違って女性らしい身体付きになったいろはに、祐介は少しながらも胸がドキドキとしてしまう。


 華奢な体躯ながら柔らかく、いつまでも抱き締めていられそうな気さえした。


 だからってずっと抱き締めているわけにはいかず、祐介はいろはから離れようとしたが、背中に腕を回されて離れることが出来ない。


 どうしても離れたくないと思えるくらいに、いろはは強く抱き締めている。


「私は……兄さんが好きです」

「知ってる」


 重度のブラコンなのだし、いろはが祐介を好きでないとおかしい。


「いえ、兄さんは分かっていません。私が兄さんのことを兄としてじゃなくて一人の男の子として好きなことを……」

「いろ……は?」


 思ってもいない告白に、祐介は驚きを隠せなかった。

 自分と同じで兄妹としてあいしていると思っていたからだ。


 でも、一人の男の子として好きと告白され、本当にどう反応していいかわからない。


「本当に兄さんが大好きなんです。他の女の子には渡したくありません。私と……付き合ってください」


 今にも消え入りそうなくらいの小さい声であったが、いろはがこんな嘘をつくわけがないだろう。

 本気で裕介と付き合いたいと思っているということだ。


「俺は……いろはのことを愛しているが、それは妹としてだ」


 決して異性としては見ておらず、出来ることならこのまま仲のいい兄妹の関係でいたい。


「だから俺はいろはと付き合えない」


 裕介の一言で、いろはの瞳から大粒の涙が流れる。


 好きな人にフラれたら悲しくもなるだろう。


「嫌……です」


 俯きながらも、いろははそう呟く。


 よほど好きなようで、いろはは付き合うことを諦めたくないのだろう。


「俺はいろはと一緒にいるぞ」


 いろはは陽菜と同等……いやそれ以上に大切な人のためにずっと一緒にいたいので、祐介は彼女と離れたいと考えたことはない。


「それだけじゃ、ダメなんです。兄さんと付き合って結婚するくらいじゃないと……」


 義理の兄妹なので法律上は結婚出来るが、まさかいろはがここまで好きでいるとは祐介は思ってもいなかった。


 俯いているから顔は見えない……だけどいろはの瞳からは今も大粒の涙が流れているだろう。


 本当に愛されているな、と思いつつ、祐介はいろはのことを抱き締める。


「兄さんと結婚出来るまで、絶対に諦めません。だって兄さんはラノベの主人公で私は義理の妹……くっつかないとおかしいじゃないですか」


 顔を上げたいろはの瞳には光が宿っていなかった。


 いろはが祐介のことをラノベの主人公と言ったのは、可愛い義理の妹と幼馴染みがいるからだろう。


 だからってくっつかないとおかしいというのはどうかと思うのだが、兄妹物のラブコメばかり読むいろはには兄妹で付き合うのが当たり前だと思っているのかもしれない。


 いろはは昔から兄に対して強い憧れを持っていたようだし、一緒にいる内に祐介のことを好きになっていたのだろう。


「私は兄さん結婚をして子供を産みたい、兄さんと子供と私で幸せな家庭を気築きたい」

「いろは……」


 今のいろはは暴走してしまっているようにも見える。


 祐介に対して強い想いが抑えられないのだろう。


「だから……兄さんが私と付き合ってくれないのであれば……」

「あれば?」

「兄さんが私を妊娠させてください」

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