幼馴染みの告白
「用事って何?」
放課後、祐介は陽菜に呼び出されて屋上に来ていた。
どんな用事かはわからないが、学校が終わったら毎日いろはと一緒に帰る約束をしているために、祐介は早く終わらせたいと思っている。
「うん。たまには祐くんと二人きりになりたくてね」
基本的に祐介はいろはと一緒にいるので、陽菜と二人きりになれる機会は少ない。
どうしても二人きりになりたかったらしく、今の陽菜は珍しく真面目な表情をしている。
祐介は「そうか」と頷いて陽菜が話してくれるのを待つ。
真剣な表情をしているので、話を聞かずに帰るわけにはいかないだろう。
スマホを取り出していろはに『少し陽菜と話してから帰る』というメッセージを送り、祐介は少し頬を赤くしている陽菜を見る。
よほど話すのに勇気がいることらしく、いつも元気いっぱいの陽菜が言いずらそうな……少し緊張しているようだ。
恥ずかしがっている陽菜は滅多に見られないから写真を撮ってみたいと一瞬だけ思ったが、恐らく断られるだろうからカメラアプリを起動する直前で止めた。
「陽菜も緊張するんだな」
「私だってするよ」
落ち着かせるためか、いろははゆっくりと深呼吸をする。
六月で暑くなってきた影響なのか緊張からなのかはっきりとは分からないが、いろははほんのりと汗をかいている。
「ゆっくりでいいぞ」
先ほどいろはにメッセージを送ったし少しくらい遅れても問題はないだろう。
シスコンであるいろはのことだから裕介が来るまで待ち合わせ場所で待っている可能性は高いが。
「いざ勇気を出して呼び出してもこんなに緊張するんだね……」
陽菜は小声でそんなことを呟く。
異性から人気のない場所に呼び出し……ラノベを良く読んでいる裕介には陽菜が呼び出した理由は分かりきっているので、いくら彼女が緊張して中々話さないからといっても帰るわけにはいかない。
「とりあえず落ち着け」
「あ……」
裕介は昔の癖で陽菜の頭を撫でた。
いろはが妹になる前は陽菜とずっと一緒にいたため、妹のような存在だった彼女の頭を良く撫でていたのだ。
父親が再婚して母親の連れ子であるいろはが妹になってからはあまりしなくなったが、今の陽菜には頭を撫でた方がいいと判断したからした。
「昔のお兄ちゃんだ……」
懐かしくなったのか、陽菜は頭を撫でられながら瞼を閉じる。
陽菜は昔裕介のことをお兄ちゃんと呼んでいて、その時の光景が瞼の裏に映し出されているだろう。
お兄ちゃんと呼ばなくなったのはいろはと知り合ってからで、彼女に遠慮そたのと、祐介のことを兄として見たくなくなったからかもしれない。
「ありがとう。かなり落ち着いたよ」
そう言われたので頭から手を離すと、何故か陽菜が寂しそうな顔をした。
落ち着いたといってもまだ撫でてほしかったようだ。
再び深呼吸をした陽菜はこう呟く。
「私は……裕くんのことが好きです」
これ以上ないくらい頬を赤くして陽菜は告白をした。
思っていた通り、陽菜は裕介のことが好きだったようで、返事を期待しているのか聞くのが怖いのか、彼女はチラチラとこちらを見ている。
幼馴染みとして一緒にいる内に自然と好きになった、と考えるのが普通だろう。
ラノベで幼馴染みが出てくると基本的には一緒にいる内に好きになったりが多いし、陽菜が裕介のことを好きになっていても不思議ではない。
基準がラノベというのが変な気がするが、裕介にとっては身近な物なのだ。
「俺に告白したのは今朝のことが原因か?」
登校時、祐介はいろはと手を繋いでいたにを見た陽菜は明らかに嫉妬していた。
特に気にしていなかったのでスルーしていたが、陽菜には告白するには充分過ぎる理由だったようだ。
「うん。祐くんがいろはちゃんのことを恋愛対象として見ていないのは知っているけど、仲が良すぎるよ」
三次元の兄妹がどれくらい仲がいいかなんて興味がないから知らないが、間違いなく裕介といろはは間違いなく恋人同士と勘違いされるくらい仲がいいだろう。
「陽菜の告白は嬉しいけど、俺は付き合うことが出来ない」
裕介は素直な気持ちを口にした。
好きか嫌いかと聞かれたら間違いなく好きと答えるが、陽菜と付き合えない理由がある。
「俺はシスコンでいろはに彼氏が出来てほしくないと思っているからな。そんな俺が彼女を作るわけにはいかないだろ」
彼氏を作ってほしくないのに自分だけ彼女を作るわけにはいかない。
それに裕介に彼女が出来たらブラコンであるいろはが悲しむだろう。
「本当に、裕くんはシスコンだよ……」
大粒の涙を流しながらの声は消え入りそうだった。
フラれたのだから悲しいのは当たり前だが、陽菜「あれ……?」と涙が出ているのを不思議がっているようだ。
もしかしたらフラれるにを覚悟での告白かもしれない。
でも自分の気持ちを告白せずにいられなかったのだろう。
「悪いな」
どうしていか分からなかったので、とりあえず裕介は陽菜を抱き締めた。
告白を断ったのに触れるのは良くないかもしれないが、こうでもしないと陽菜が泣き止みそうにない。
胸に顔を埋めるようにして抱き締めたため、祐介のワイシャツは陽菜の涙で濡れた。
「私ね、実は中学に入ってからラノベを読み始めたんだ」
泣きながらも陽菜は顔をこちらに向ける。
「初耳だ」
今まで陽菜がラノベを読んでいるとは思わず、祐介は少なからず驚く。
人の趣味は人それぞれなので否定する気はないが、陽菜がラノベを読んでいるとは思わなかった。
好きな人がラノベを読んでいるのだし、自分も読んでみたいと思っても不思議ではない。
「幼馴染みがずっと好きだった主人公と結ばれるっていいよね」
「それは同感だな」
最近は素直になれない幼馴染みが主人公に酷いことをして嫌われるネット小説が流行っているが、祐介は可愛くて優しい幼馴染みがいるから好きになれない。
「だからさ……ラノベみたいに幼馴染み同士が結婚しても不思議じゃないよね?」
そう陽菜の口から発せられたということは、一度フラれても彼女は諦めていないということだ。
恋愛を諦めるかどうかは人それぞれだから文句はないが、いくら陽菜が頑張っても裕介と付き合うことは出来ないだろう。
「ラブコメラノベって付き合って終わるのが多くないか?」
「そういったのもあるけど、最初から付き合ったり結婚したりしてるラノベもあるもん」
どうやら陽菜は幼馴染みとのイチャラブラノベが好きらしい。
「二人は何で……抱き合っているんですか?」
屋上の入り口から声がしたので振り替えってみると、そこには今にも泣きそうないろはが立っていた。
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