親しみやすい学園のアイドルは幼馴染み

「学校面倒……」


 六月になって気温が上がってきているため、祐介は学校に行くになれなかった。

 何故ならばいろはが紫外線が苦手だからだ。


 夏服であるがいろはは長袖のワイシャツを着て足はタイツを履いており、紫外線を防ぐために色々しないといけない。

 紫外線から身を守ってくれるメラニン色素が生まれついて薄いため、いろはは外に出る時は必ずUVカットクリームを塗る。


 特に気を付けないといけないのが藍色の左目で、強い光が目に入ってしまうと失明の恐れがあるくらいだ。


「そんなこと言ってないで行きますよ」


 行きたくないと駄々をこねている裕介の手を取ったいろはは、学校に向かって歩き出す。

 いろはがブラコンであることに間違いはないが、基本的には真面目なので学校をサボることを許さないらしい。

 両親が働いたお金で学校に通えているのだし、きちんと通うのは当たり前だろう。


 裕介たちの通っている高校は家から歩いて十分ほどの距離にある。

 距離が近ければ遅く起きれるというのが裕介の志望理由で、ブラコンであるいろはは大好きな兄が通っているからだろう。


「お二人さん、やほやほー」


 いろはに手を握られて歩いていると、朝からテンションが高めの声が聞こえた。


 後ろから聞こえたので振り替えってみると、幼馴染みである少女──金江陽菜かなえひなが笑みを浮かべて手を降っている。


「陽菜、おはよう」

「おはようございます」


 軽く挨拶した裕介といろはは再び学校へと歩き出す。


 陽菜は「待ってよー」と言いながら走って来て裕介たちに並ぶ。


「学園のアイドルである陽菜と一緒にいたら俺が嫉妬の視線を向けられるじゃないか」


 裕介と同じクラスである陽菜は、可愛さと親しみやすさがあって学園のアイドルと言われている。


 セミロングの亜麻色の髪をポニーテール、琥珀色の大きな瞳、いろはと同じくらいに白い肌にはシミが一切見られず、誰から見ても美少女と思うだろう。


 学校一の美少女はいろはだが、誰とでも仲良くなれる元気で優しい性格をしているために陽菜が学園のアイドルとなっている。


 学校一の美少女に学園のアイドルという言葉は本当にラノベと同じ設定だな、と裕介は思ってしまう。


「私と裕くんの仲なんだからいいじゃん」


 確かに小学五年生の時に妹になったいろはより陽菜の方が付き合いは長い。

 裕くんとあだ名で呼ぶし、陽菜が一番仲がいい異性は間違いなく裕介だろう。


「それにこうでもしないと割って入れなそうだし……」


 ボソッっと陽菜が何かを呟くが、小さい声だったので裕介には聞こえなかった。


 陽菜の視線が裕介といろはの手に向いており、手を繋いでいるのが気になるらしい。


 高校生にもなって手を繋ぐなんて兄妹仲良くし過ぎなのが不満なのか、陽菜は少し頬を膨らませている。


「いろはと陽菜が俺の側にいるからか、男子からの嫉妬の視線が凄い」


 妹であるいろはだけなら兄妹一緒に登校しているだけ、と思われるだろうが、学園のアイドルである陽菜もいれば男子からの視線が集まるだろう。


 いろははまるで作り物を見ているんじゃないかと錯覚するくらいの神秘的な容姿をしているため、一部の男子からは近づき難いと思われているらしく、美少女で優しい性格の陽菜の方が人気がある。


 幼馴染みということで裕介は男子から陽菜を紹介してほしいと頼まれるが、本人の希望で全て断っている。


「陽菜さんは学園のアイドルと言われてズルいです。私だって身だしなみに気を使って兄さんの妹に相応しくしているのに」


 学園のアイドルと呼ばれる陽菜のことが、ラノベ好きないろはには不満なのだろう。


 別に学校一の美少女と言われているんだからいいじゃないか、と裕介は思ってしまったが、いろはは自分が呼ばれたいようだ。

 しかも自分が目立ちたいとかではなく、兄である裕介に相応しい妹であるためらしい。


「そして何より兄さんと一緒のクラスというのがズルいです。私は兄さんと一緒に授業を受けることが出来ないんですよ。この辛さが陽菜さんに分かりますか?」

「それはどうしようもないよ」


 学年が違うのはどうにもならないため、理不尽なことを言われた陽菜は苦笑した。


 陽菜とは幼稚園の時から一緒だが、何故か同じクラスになることが多い。


 両親が裕介が幼稚園に通いだす直前に一軒家を購入して引っ越し近くに住んでる陽菜と仲良くなったのだ。


「いろはがそんなことを思っていたなんて……留年するから来年は一緒に授業を受けような」


 両手でいろはの手を握り、裕介は悲しそうにしている彼女を元気付ける。


「いや、兄妹で同じ学年だったら普通は違うクラスになるでしょ」


 陽菜から冷静なツッコミが入ってしまう。


「そんなのわからないだろ。ラノベでは兄妹でも一緒のクラスだ。留年したら二年間はいろはと同じ学年だ。大学に進学したら合わせて六年にもなる」

「兄さんと同じクラスだったら幸せですけど、留年はしてほしくないです」


 最愛の兄と同じクラスは魅力的過ぎる、と思っていそうな顔になっているが、真面目ないろはには裕介に留年はしてほしくないらしい。


「本当にシスコン、ブラコン兄妹だね」


 仲が良過ぎる兄妹を見て、陽菜はため息をつくのだった。

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