第21話

 また、気まずい雰囲気になってしまうのか、ちょっとした間が訪れる。


 そんな中、朝井さんが何かを決意したように、おもむろに立ち上がった。


「竜、ちょっと来て」


 低い声で言うと、自分のかばんと脇に置いていた上着を持って席を立った。

 僕も市川さんも、何事かと朝井さんを見上げる。瀬川くんも「なんだよ」と面倒くさそうにそれを見たのだが、朝井さんの有無を言わさぬ強い視線に、しぶしぶ立ち上がった。


 そして、朝井さんは瀬川くんにもコートを持たせると、店の外に連れて行ってしまった。


「なん、だろう?」

「さあ……?」


 市川さんは目を見合わせる。

 何だろうか、二人きりにされると気まずい。さきまでは朝井さんを介して何とか会話をできていた感じだ。どうにも地に足がつかないふわふわとした雰囲気の中、無言のまま二人きりの空間が数分過ぎる。


 そして、市川さんの携帯が鳴った。どうやらメールが来たようで、それを見た市川さんが呟く。


「ねぇ……香澄ちゃんたち、このまま帰るって」

「え?」


 その言葉の意味が分からず、どういう冗談なのかと思ったが、「ほら」と市川さんに携帯のディスプレイを向けられ、冗談ではないと理解する。


『ごめんいっちゃん。わたしたちこのまま帰るよ。ちゃんと竜と話す。このままだと何も変わらない気がするから。こんなことになっちゃってごめん、そこのお金は今度わたしが全部払うから、今日のとこは払っといてくれないかな。本当にごめん』


「……本当だ」


 内容を把握し腰を下ろす。

 このままでは埒が明かないと思って、話をつけに行ったということだ。

 僕や市川さんが傍にいれば、どうしても抑えてしまう感情はあるだろうし、言えないこともあるだろう。本当はそれありきで仲直りの機会を探りたかったのかもしれない。感情的にならずに。でも、うまくいかなかった。このままじゃいけないから、ちゃんと二人で話そうとした。


「どうしようか」


 市川さんが困惑の笑みを浮かべる。

 そう、向こうが二人きりなら、こちらも今日は二人きりだということになる。

 そんなとき、ウェイトレスがやってきた。


「――でございます」

「あ」


 市川さんとほぼ同時に声を漏らした。

 瀬川くんと朝井さんの頼んだ料理がテーブルの上に置かれ、顔を見合わせる。四人分の料理がテーブルに乗る。


「これ、あたしたちが食べるの?」

「さぁ……」

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