第2話パートナー探し

「ミリー。君の結婚相手が決まったよ。来週うちに来るからそのつもりでいるように」


「えっ?」


15歳の時に父から突然そう告げられた。

衝撃だった。結婚?この歳で?早くない?


「相手は四大貴族の一つ。カーブナル家のご子息だ」


「ちょっと…待ってください!お父様」


「品行方正で騎士団の入団も決まっている将来有望な青年だ。きっとミリーとうまくいくよ」


「そんな早すぎます!私、まだ結婚なんてしたくありません」


「ミリー…。いくら君が愛おしい娘だからと言ってそれはできない」


いつも穏やかで優しい父が厳しい口調で言い放った。

目つきは真剣そのもの。父はもう…決めてしまっている。

ダメだわ…。こんな時の父は何を言っても聞く耳を持たない。


「分かりました…。その方にお会い致します」


「ありがとうミリー。君なら分かってくれると思っていたよ」


ニコニコしている父に抱きしめられながら、私はどうやったら結婚せずに済むか考えていた。

そしてお見合い当日、やってきたお見合い相手に私はこっそり伝えた。

どうしても好きな人がいてその人と結婚したい…と。

嘘八百もいい所だったけど、彼も実は交際している女性がいてその人との結婚を考えているとのことだった。

だから二人で申し合わせをして、お互い波風立てないように婚約は無しにすることに成功した。


『ふぅ~。危なかった~』


『ミリーってばあんな事言って…。本当だったら大ごとになるところだったのよ?』


『でもシリ…。結婚したくない女と結婚しても幸せになる事なんてできないでしょう?』


『それはそうだけど…。でも、あなたの父親はこれだけで諦める人じゃないわよ』


『分かってる…。だからすっごい難しい条件を伝えてきてる』


『何?その条件って』


『私とフィーリングが合う人♪』


『うわー…。絶対合わないやつじゃない』


げんなりした顔でシリに言われてしまったけど私は引く気はない。

父も私には結婚して欲しい事は分かっていたからそこは譲るとして

その条件を突きつけた。それを飲んでくれないと死ぬ!とまで言ってねふふふ♪

そうしてのらりくらりお見合いをかわしつつ私は18歳になっていた。


流石に父も痺れを切らしてとうとう、いい加減に相手を決めてくれと泣きつかれてしまった。

これにはさすがの私も良心が痛んだ。

父にはこれまでとても良くしてもらっている。

何不自由ない生活をさせてもらって沢山愛情を注いでくれた。

とわにとっては他人だけれど、ミリアーティにとっては父親だ。

今まで育ててきてもらった恩は返さないといけないだろう。


だったら結婚はしよう。

私にも情があるし、父が言う貴族の務めという事も理解できる

それなら私が選んだ相手と自由に生きられるような結婚をしよう。

私はそう心に決めた。

そこからが大変だった。なんせ条件に合う男性を見つけて

結婚してもらわないといけないからだ。

こうして私の結婚への模索の道が始まったのだった。


まず私の条件は恋愛感情は一切抜きであること。子供は一切作らないこと。

そして、お互いが利益を得て良きパートナーになれる人。

さらに!お顔がよろしければ直良し♪

どうせ一緒に生活して暮らすならイケメンが良いわよね~。ふふふ~♪

毎日顔を突き合わせるのだもの大切よね。


よーし探すぞ~!!私のスローライフがかかってるものね!

と…意気込んでみたものの実際には中々厳しかった。

条件に合いそうな人はいるものの…顔が…お顔がタイプじゃない人が多いのよ~。トホホ。


『ミリー…人間顔だけじゃないわ…。そこは条件緩めたら?』


『シリ…だめよ!ここは絶対に譲れないわ』


『もう~。ほんとあなたって我がままよね~』


『そうよ?だって前世ではすっごく我慢してきたんだから。だから私はもう我慢しないって決めてるの!』


『はいはい…。まぁ頑張ってね~』


『シリも協力してよ!友達でしょ?』


『そんな事言っても…。あなたのお眼鏡にかなう男性なんてそういないもの』


やれやれと言った感じで首を振りながらシリはどこかに消えてしまった。

なんだかんだ言いながら相手を探しに行ってくれたのだろう。

シリは面倒見のいい子だ。私の言う要望はたいてい聞いてくれる。

良いわよね~。甘えられるって。

前世では長女で下に5人もの兄弟がいて、元旦那は年下。

しっかり者で通してきてしまったから甘えることが出来ず我慢することが多かった。

ところが、シリは私よりも年上。妹のように可愛がってくれるから

私は遠慮せず甘えることにしている。


「それにしても…どうしよっかな~」


「何かお悩みですか?お嬢様」


「あらマーサ。聞いていたの?」


「大きな独り言でしたもの」


今話しかけてきたのは私の侍女のマーサ。

恰幅のいいおばさんで、私が赤ん坊ん頃から世話を焼いてくれている。

彼女も愛情深い人で私の事を本当の子供の様に可愛がってくれるいい人だ。


「私の結婚相手の話よ。カッコよくて私の結婚観に理解のある人はいないかしら?」


「まぁまぁ。お嬢様の条件は随分と贅沢です事」


「だって…。一度しかできない結婚でしょう?どうせなら素敵な人としたいわ」


「そうですね~。私もお嬢様には幸せになってほしいですけど…」


「はぁ…やっぱりいないわよね~」


「あ…一人思い当たる方が…」


「えっ?だあれ!マーサ」


「王国騎士団団長のシリウス・ストロガノフ様でございます」


「シリウス・ストロガノフ様…。聞いたことがないわ」


誰なんだろう?この国の騎士団ならある程度認識はあったけど…。

しかも…王国騎士団団長だなんて…忘れるはずないんだけどな。


「最近、任命された方で確か…年齢は25歳。最年少で団長になった優秀な方ですよ」


「まぁ!その若さで?凄いわね…」


「しかも女性卒倒てしまうほどの美貌だとか」


「そんなに!!」


「ええ…でも。当の本人は大の女性嫌いで有名らしいですよ。お見合い相手をいつも泣かせているそうです」


「まぁ!」


私の条件に合いそうじゃない?

イケメンで王国騎士団団長。しかも女嫌いと来た!

これは…。望みが叶うかもしれない。


「ありがとう!マーサ。愛してるわ」


「まぁまぁ。お嬢様ったらはしたないですよ」


私はマーサに抱き着いて盛大にお礼を伝えた。

マーサは怒っていたけどどこか嬉しそうだった。

私はマーサが出て行ったあと早速、彼について調査することにした。


『よ~し…早速!ふうちゃーん♪』


『あいよ♪なんだいミリー!」


彼は風を司る大精霊。風だからふうちゃんと呼んでいる。

風だけにかなりの情報通。いろんな場所で聞いたり見たりしたことを教えてくれる。

とっても便利な精霊だった。

緑色の綺麗なゆるやかなカーブがかった長い髪の毛に、緑の瞳をしたイケメンの精霊だ。


『シリウス・ストロガノフ様の事について調べてきてくれない?』


『いいよ~♪まっかせなさい!』


物凄い軽い返事そしてふうちゃんは軽やかに部屋を出て行った。

そして次の日にはシリウス様の情報をもって帰ってきてくれたのだ。


『さすがふうちゃん♪仕事が早いわね~』


『えっへん!これくらい、朝飯前さ』


『ありがとう!じゃあこれお礼のお菓子ね♪』


『やったぜ!ミリーのお菓子は美味しいからな~』


私は手にしていてたチョコレートクッキーをふうちゃんに渡した。

私がお願い事をしてもらう対価はたいていお菓子を渡すことだった。

どうも私が作るお菓子はマナと呼ばれる魔法を使うもとになるものが沢山含まれているらしく

とても美味しいらしい。私は食べても何にも感じないんだけど…。


「さてさて~…。どんな人かしら」


シリウス・ストロガノフ。年齢は25歳。

紫がかかった黒い髪で短髪。切れ長のアーモンド形の綺麗な赤色の瞳。

眉目秀麗のスタイル抜群。

平民出身で一人っ子で兄弟は無し。家族も早くに亡くしている。


産まれこそ平民だが類まれなる才能の持ち主で最年少で王国騎士団団長になる。

契約魔獣は伝説のドラゴン。ファイヤードラゴン。

100年に一人にの逸材ともいわれている。

そんな彼は大の女嫌いで結婚をせず現在独身。理由は不明。

だがその有り余る才能をこの国の為に使ってほしいと

国王はじめ貴族たちが躍起になって相手を探している。

という事だった。ふむふむ。なかなかい感じだわ~。ふふふ。


『俺も実際見てきたけどさ、顔は整ってて綺麗だったぜ♪』


『まぁ。ふうちゃんが褒めるなんて珍しいわね』


『ああ。あとはすんげー無口で愛想はゼロ。女嫌いは筋金入りだったな』


『まぁまぁ…。ますますいいじゃない』


寡黙なイケメンっていうのも乙なものよね~。ほほほ~。

シリウス様は何度もお見合いをして沢山の女性と会っているものの

誰とも結婚するとは言わず、冷たく跳ねのけ全部を断り続けているそうだ。

よっぽど女性が嫌いなのね。過去に嫌な思いでもしたのかしら?

それとも男性が好きだとか…。それはそれで興味深いわ。

良い小説のネタになりそうだもの。うふ♡


何はともあれ、この人なら条件を出して結婚してもらえれば後腐れなくお付き合いできそう!

わたしは早速父にシリウス様とお見合いがしたいと申し出た。

父は二つ返事で快諾。

お見合いの日程は2週間後と決まった。


『ああ~。楽しみだわ♪シリウス様と会えるの』


『そうね。ふうが褒めるくらいのお顔。私も早く見たいわ』


『私もよ~。女嫌いって言うけど全然平気。だって孫ほど年が離れてるんだもの』


『まぁ…。ミリーならそう言うわよね』


『嫌われていても大丈夫。反抗期だって思う事にするわ』


『さすがね…。もう何もいう事はないわ。好きにしなさい』


若干シリには飽きられつつも、お見合いの日程が待ち遠しい私なのだった。

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