お粉さん 2

私の横に立っていたお粉さんはおかっぱ姿の小学生のような子だった。 

何故か姿はうっすらとしか思い出せないが、身長も私の腰ぐらいで、膝したぐらいの長いスカートをはいていた。 足もとても細くて、ランドセルを背負っていた気がする。 んー、あれはきっとランドセル。 だったような……


 でもやっぱり彼女も白かった。 


 私は近くに立っている彼女を見て背筋が凍った。


 ただ、私は彼女を見たが、彼女は私への認識は無かったようだった。 ただまっすく進行方向を見ていたようで。 


 だからか私は、ほっとした。 


 憑りつかれてない。 私もただ、このまま憑りつかれてない内に店を出ようと少し焦って歩いた。 


 心臓はバクバクしていて、怖かった。 憑りつかれたくないという思いがあったのだろう。 


 だけど、恐ろしいのは、彼女もその後ろをついて来ているのだ。 

 鳥肌が立つ。 これはもう憑りつかれてしまっているのだろうか……


  だけど、そんな気がしない。

  と言うのも、目が合わないから。 

  この子は真直ぐ行きたいだけ?

  行きたい道がたまたま一緒だっただけ?

  ただ彼女は真直ぐ歩いている。そんな気がしたので、少し方向を変えて歩いてみた。 


 すると、彼女も一緒の方向を歩いて来たのだ。 


 怖い。 


 でも、それでも憑りつかれてないと思えたのは、彼女は私を見て歩いていないから。 


 だから私は憑りつかれてない。 そう思って出口の方にもう一度向きを変えて歩いた。 


 涙が出そうになる。 それは、彼女もずっと同じ方向を歩いて来ているから。 すぐ真横を歩いてきそうになる事もあるから、私はさらに速足で歩いた。 

 

 だって、たまにね。並ぶの……。 たまに。横に並ぶの……その子。 


 だから私は、お願いだからこっちを振り向かないで。 そう思って出口まで歩いた。 


 出口のとびらが見えた。 スーパーの出口は2重の扉になっていて、一つ目は、自動ドア、その後ちょっと歩いて押戸の二つ扉になっていた。 


 とにかく出れれば勝ちだ。 私は一つ目の自動ドアに差し掛かった時、踏みこんだ右足を感知して自動ドアが開く。

 

 これでやっと出れる、と思ったのだけれど、横を見ると彼女がいる。


 私は思った。憑りつかれているにせよ、これで店を出れば、私は彼女を持って帰る事になるのでは……


 そう思った私は、急に進路を変えてスーパー内に90度向きを変え、出るのを止めた。 


 白く小さい彼女は、そのまま出口の方へ行ってしまった。 


 …………。


 私はほっとした。 あのまま出なくてよかったと。


 たぶんだけど、あのまま急いで出ていたらきっと、憑りつかれていた、と言う事になっていたのだろう。


 私の息は荒く、振動は鼓動する。まるで破裂しそうに。 でもやり過ごせたみたいで助かったと嬉しさも込み上げてくる。 


 私はもう一度、進路を変え、自動ドアの方に向かうとその扉を出た。


 アレ? 何で? 



 そこには私の後ろを、私を見ながら追いかけてくる、おかっぱ頭のお粉さんが いたのだ。 私は怖くなって走った。 すると彼女は形相を変えて走ってきた。  


 私を見ている。


 憑りついてる? 絶対憑りついている。 そう確信できた。 なぜなら彼女はものすごく獲物を狙うように私だけを見ているのだから。 私を目指して向かってきているのだから。


 私は彼女に触られることなく、押戸のドアを開けて外に出た。 


 だけど、彼女は消えることはなく、私に触ろうとして来ているようだった。 


 だから私はただ走った。 走って走って、でも彼女は止めてくれなかった。 

今でも鮮明に覚えている。 ただただ、真っ黒の真ん丸なお目目。 目ん玉なんてあるのかすらわからない。 だけど、怒った時の表情、走って追う彼女の必死な表情は、沢山のシワまで覚えておる。 今でも恐ろしい。



 そこで私は目が覚めた。 


「ねぇ、そろそろご飯にしようよ」 


 一緒に住む家族の声が私を呼ぶ。


「そうだね」


「ねぇ? 今日も調子悪い?」


「ううん。大丈夫だよ。 御飯にしよ」


「まだかゆそうだね」


「うん。 とても、とてもかゆいわ」


 起きた私の枕元には、今日もたくさんの無数の粉が落ち散らかっていた。

 私はそれを見てはいつも思う。 



  また掃除しなくちゃ。

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