第7話 能力の出現

それからの日々は、凛にとって初めての幸せな事だらけだった。

学校と言う場で、好きな人と毎日会える。

会えば、名前を呼んで、笑顔で手を振ってくれる。

凛は、そんな些細な事が嬉し過ぎた。


2月14日、その日までは――。


「ねぇ、加藤かとう君にいつ渡す?」

三浦みうら君、受け取ってくれるかな?」

この日、女子も男子も何処かソワソワしていた。

凛も、そんな女子の一人だった。


「凛ちゃんも金城先輩にチョコ渡すの?」

「うん。ちゃんと告白したくて…」

「クリスマスの時、告白しなかったの?」

「うん…。なんかタイミング分からなくて…」

「凛ちゃんらしいね。大丈夫だよ。先輩と凛ちゃん見てれば、絶対両想いだから!」

「しーちゃん…ありがとう。今日の放課後、渡すつもり」

「そっか。頑張ってね」



―放課後―

将司の部活が終わるのを待って、凛は裏庭に将司を呼び出した。


「凛ちゃん。何?話って」

凛がしようとしてる事。凛が言おうとしてる事。全部分かって、白々しく、将司は凛が自分を好きだと言い出すのを待った。


「あ…の、私、先輩が好きです。これ、チョコです。良かったら、付き合ってもらえませんか?」

「え!?良いの!?ありがとう!!」

「…あの…」

「もちろんOKだよ。ありがとう。俺も凛ちゃんが好きだよ」

「先輩…」

「…凛ちゃん、目、閉じて」

「え?」

「良いから、閉じて」

言われるがまま、今までにないほど、ドキドキしながら、頬を赤らめ、凛は目を閉じた。手はしっかり繋がれその瞬間を待った。


しかし、唇が重なったその瞬間――。


(昼サンキュー!…プレステ5、ゲット!)

(!)

まるでビー玉を喉の奥に押し込まれ。それが頭をの中を転げまわるように将司の心の声が飛び込んできた。

突然の出来事に、凛は最初、意味が分からなかった。将司の口から零れたのか、誰かがそこに居たのか、

「先輩?”昼”って誰ですか?プレステ5って何ですか?」

「は!?」

将司は驚き、

「え…と…その」

困惑してると、繋がれた手から、

(何で?俺、声に出してなかったよな?)

「先輩?」

凛も戸惑った。

「昼ってのは…あの…」

(賭けてたのバレたのか!?)

「賭けって…先輩、私の事騙してたんですか?」

「そんな訳ないじゃん!」

将司は必死に取り繕うとするが、繋いだままの手から、次々と将司の心の声が凛に流れ込んでくる。

(こいつ、キモイ…)

その心の声に、凛は思わず将司の手を振り解き、チョコレートを叩き落とし、走ってその場を逃げ去った。


(何?何?何これ!?)

凛は頭が壊れそうだった。自分に起きた2つの出来事に。

一つは、いきなり、明らかに口から出たものじゃない声が凛の中に流れ込んできた事。

そして、二つ目は、好きな人に自分は賭けの道具になっていた事だ。


訳も分からないまま、トボトボと誰もいない放課後の廊下を鞄を取りに教室に入った。すると、静が心配そうに凛に寄って来た。

「しーちゃ…」

静が、優しく手を握ると、凛は恐怖すら覚えた。

(バーカ!全部見てたよ。金城先輩みたいな格好いい人が凛なんか好きになる訳ないじゃん。調子に乗ってるからよ。ザマー)

(しーちゃん…私の事そんな風に見てたの?親友だと思ってたのに…!)

凛は、静の心配げな顔と、本音のギャップに、気持ちのセーブがかからなくなった。

「しーちゃん、もう絶交だよ…」

「え?凛ちゃん?凛ちゃん!」

(何?従順だけが取り柄のぶりっ子のクソガキがどうしちゃったの!?)

「ぶりっ子のクソガキか…それはそっちじゃない!」

そう言って、静の手を振り解き、鞄を持つと、猛ダッシュで家へ向かった。


(なんなの?この力…。先輩…しーちゃん…私が…何したって言うの?)

ぽろぽろ涙をこぼしながら、力なく自分のベッドに寄りかかり、一晩中泣いた。

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