第6話 スタートライン
「しーちゃん?」
「ん?」
いつものお昼休み。今日も凛と静は屋上でお弁当を食べていた。
「なんか、今日無口だね」
「…そう?そんな事ないよ」
「…うん」
凛は凛で嫌な空気を感じていた。
昨日、将司の『凛ちゃんに言ってる』発言以来、静は凛と目を合わせてくれない。
小学校の卒業式で約束した通りクラスが離れ離れになった自分に毎日会いに来てくれていた静が、今日は一度も来てくれてはいなかった。
(しーちゃん…もしかして金城先輩の事…好きだったのかな?)
そんな事を考えていると、
「昨日の事気にしてるなら、大丈夫だよ。私、只単に凛ちゃんと先輩の邪魔しちゃって悪かったな、って思っただけだから」
「本当?」
さっきまで不気味に無口だった静からの、”嘘はない”と感じた言葉に、前のめりになって、静の顔を覗き込み、凛は胸を撫でおろした。
「言ったじゃん!応援するって。だから、頑張ってね、凛ちゃん」
「…うん。しーちゃんがそう言ってくれるなら、頑張ろうかな」
「うんうん」
「……」
顔は笑顔だ。声もテンション高め。いつも通りの…、
(いつもの…しーちゃんだよね?)
少し不安はあったが、凛はその時に決めた。
殻を破ってみようと。
―12月10日―
凛は、将司が登校してくる前に将司の靴箱に、手紙をこっそり入れた。
〈金城先輩へ
もし良かったら、24日の夜、A駅のクリスマスイルミネーション、一緒に観に行きませんか?
里山凛〉
「はぁ…ドキドキした…」
手紙を入れ終え、朝早い教室に一人身を置くと、手紙を入れた時の緊張が蘇ってきた。
「凛ちゃん!」
「!」
教室の窓から、突然将司が顔を出した。
「良いよ!24日!一緒に観に行こう!」
「…い…良いんですか?」
凛は涙目だった。恥ずかしさと、まだとれない緊張感と、嬉しさが込み上げて。
「もちろん!じゃ、俺部活あるから行くね!楽しみにしてる!」
「はい…私も楽しみにしてます」
しどろもどろで目一杯の笑顔で、心の中では泣きそうになりながら、凛はどんどん将司に惹かれていった。
「里山さん」
「!」
下を向いて、机の下に隠した膝の上で手をグーにして、喜びを噛み締めていたその時、知らない男子が自分の名前を呼んだ。
「あいつ…将司の事だけど…」
「え…?金城先輩が…何か…」
「あいつ…本当は…」
永人は、将司の本当の目的をすべてばらしてしまおうと思っていた。すると、
「おう!昼!何してんだ!朝練行くぞ!」
すかさず、将司が現れた。
「あ、イヤ…」
「ほれ!」
そう言って、永人の肩を抱え、小声で、
「昼、余計な事言うなよ?マジで切れっからな!」
そう、永人にくぎを刺し、その場を立ち去った。
―12月24日―
「あ、凛ちゃん!お待たせ!寒いのに待たせてごめんね」
「あ、イエ…待ってる間も楽しかったから…全然大丈夫です」
「ふっ。本当、凛ちゃんて可愛いね」
「そ、そんな事ないです」
また、顔を赤くして、凛は下を向いた。
「でも、奇麗だね。このイルミネーション。凛ちゃんと観られて嬉しいよ」
「私も…夢みたいです」
凛がそう言うと、将司は迷わず凛の手を握った。
モゾっと凛の手が緊張した。それを感じ取った将司は、指と指の間に握り変えた。
(楽勝ー…。こりゃバレンタインデーまでかからねーな…。ま、せっかくだから、バレンタインデーまで待っててやるか…)
将司の邪な本音が次々頭を巡っていた。
その横で、凛は、幸せいっぱいだった。
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