第5話 順調に進むゲーム

それから数か月、凛と将司は、廊下ですれ違う度少しずつ話すようになって、距離を縮めていった。


そのやり取りを見聞きして、男子は、

『あの二人、付き合ってるのかな?』

『金城先輩じゃ仕方ないか…』

と、男子達は、単に自分達が負けたのだと凛をあっさり諦めた。

しかし、穏やかでなかったのは、全学年に点在する将司のファンの女子達だ。

彼女達が凛に対して湧いてきた感情は、ぶりっ子で、おとなしいふりをして、調子に乗っている、

『あんな子、何処が良いの?』

と言う悪意が混在した嫉妬だった。



そんな幾多の落胆と嫉妬が波打つ中、昼休み、凛は静と屋上で昼食を食べていた。


「ねぇ、凛ちゃん、凛ちゃんって、金城先輩と付き合ってるの?」

ある日、静がいきなり凛に尋ねた。

「え?…あ、付き合ってない」

「そうなの?でも、よく話してるよね?」

「あ…れは…なんか…」

口ごもる凛。凛は、自分でもそろそろ気付き始めていた。

将司は自分の事が好きなんじゃないか…と。

しかし、明確に好きと言われた訳ではないし、自分から告白した訳でもない。

一体、周囲になんと説明すればいいのか、分からない間柄だった。

「でも、金城先輩は凛ちゃんの事が好きなんだと思う。凛ちゃんは?先輩の事好きじゃないの?」

「や…その…。…じゃあ、しーちゃんだから言うね。誰にも言っちゃだめだよ?」

「うん」

「私、金城先輩が好き…。でも…、先輩は違う…と思う」

「そんな事ないよ。凛ちゃん可愛いから、金城先輩に凛ちゃん好かれたんだよ」

「…そーかな…?」

親友の静の言葉に、凛は何の疑いもなくずっと考えないようにしていた、将司が自分の好きかも知れない…と言う期待が一気に膨らんだ。

「告白したら?応援するよ」

「むっ無理だよ!恥ずかしくて言えない」

「でも、先輩の方から告白されたら、付き合うでしょ?」

「え…そんな…そんな事有りえないけど…でも…嬉しい…かな…?」


親友の静とそんな会話をした後、残りの昼休み、屋上から降りてきた廊下で、将司が凛を待っていた。


「先輩…」

「凛ちゃん、いつも屋上でお昼食べてるの?」

「あ…はい」

「隣の子は?」

「あ、しー…あの…いえ…安西静ちゃん…です」

「静ちゃん。確か前にも凛ちゃんと一緒に居たよね?」

「あ、はい」

その質問に答えたのは静かだった。

「あ、ごめん。俺、凛ちゃんに聞いたんだけど…」

「え?あ…すみません…」

静はやり場のない恥ずかしさでいっぱいになった。

「凛ちゃん、私、自分の先教室戻ってるね」

そう言うと、空のお弁当を抱き締め、早足で立ち去った。

「あ、しーちゃん、待って!」

後を追うと一歩踏み出そうとした凛の腕をつかみ、将司は言った。

「凛ちゃん、俺の気持ち、もう気付いてる?」

「え?」

「そろそろ伝わってても良いかな?って思ってるんだけど」

「あ…の…」

「ま、良いや。また、明日ね!」


将司は、こうして着実に凛の心に入り込んでいった。


しかし、この時は、少しいつもと違う空気を纏う人物がその場に居た。

永人だ。

「将司、まさか今の例の賭けの子?」

「あ?あぁ。そうだけど。何?」

「本当に好きになったのか?」

「……」

永人を残して、周りにたむろってたバスケ部2年連中は、顔を見合わせて、

「ブ―――――――――!!」

と全員が吹き出した。

「バーカ!んなわけあるかよ!ゲーム!遊びだよ!昼、お前本当にアホな!」

「だったら!今すぐそのゲームやめろよ!」

「ん?昼君、もしかして、凛ちゃんが好きなんですかぁ?」

永人の一括に、怯むどころか、なんでもかんでも面白ければ良い、と人の気持をもてあそんで喜ぶような軽薄な男子達、その誰にも永人の言葉は届かなかった。


永人は、そんな連中を遠くから見て、嫌な予感しかしなかった。

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