第4話 狙われた”初恋”

将司は、次の日から、さっそく隙あらば、凛に近づこうとした。

廊下ですれ違えば、名を呼び、

「凛ちゃんてモテルでしょ」

「凛ちゃん可愛いね」

などと、奥手な凛を、とびっきりの笑顔で、とびっきりの腹黒い賭けの為だけに、自分に恋をするようにいざなった。


最初は、只、戸惑い、どうすれば正解の態度なんだろう?と困惑していた凛だったが、廊下ですれ違うたび、声を、自分の名を呼んでくれる将司に、正直嫌な気持ちはしなかった。



―2か月後―

「あ、しーちゃん!ごめん!私、英和辞典ロッカーに入れたままだ。取ってくるから、先に帰ってて」

「え?一緒に行こうか?」

「ううん。良いよ。駅、もうすぐそこだし。一人で大丈夫だから。ごめんね」

「うん。じゃあ、また明日ね、凛ちゃん」

「うん」


急いで校門に飛び込むと、ちょうどテスト前の部活がない将司達バスケ部の2年生と出くわした。

「あ、凛ちゃん!」

「あ…ど、どうも…」

「みんな、先行ってて良いよ。俺、ちょっと凛ちゃんに用事あるから」

「おう…」

みんな、笑いで、お腹が張り裂けそうだった。

そんな時に限って、永人はそこに居なかった。


「俺、バスケ部のエースとか言われて、変にちやほやされるけど、俺…女の子と話すの、本当は得意じゃないんだよね。でも、凛ちゃんには不思議と素の自分でいられるって言うか、ホッとするなぁ」

そんな将司の口から零れる悪魔の囁きを、まともに受け止める凛は、思わず頬を赤らめた。

「凛ちゃんに好きになってもらえる人って幸せだよね」

「そ…そんな…事、ないです…」

赤らめた頬を隠すように、凛は下を向いた。すると、将司は、凛の両頬に掌で持ち上げ目と目を合わせ、

「あー、やっぱ!かーいー(かわいい)!」

「!」

同じクラスの男子とでさえ、まだまともに挨拶すら交わした事がない凛は、将司の思惑通りその仕草と言葉に、ドキッとした。

「あっ…すっすみません!行かなくちゃ…。じゃあ…失礼します」

何だかとても恥ずかしくて、逃げるように凛はその場を後にした。


ロッカーまでノンストップで走り、やっと辞書に辿り着いた時、凛の頭の中は、将司の事でいっぱいだった。

(金城…将司先輩…。もしかして…私の事…。ううん!ないない!先輩モテルもん。私なんか相手にしないって!馬鹿だな…私)

もしかしたら、将司は自分の事が好きなのではないかと、あんなに分かりやすくアピールされたら、誰しもが疑わず、自分は好かれていると確信出来るのだろうが、凛は違った。凛は自信がなかった。自分の伸びしろが、どこまであるのかを計るスペックを持ち合わせていなかった。

その代わり、自分が抱いている感情が何なのか…、それは何となく分かりかけていた。

(金城先輩って、格好良いし、優しいし、スポーツ万能って聞いたし、みんなに人気だし…。…名前呼ばれただけでも嬉しいな…。私…金城先輩が好き…だな…)


将司の計算通り、凛は将司に”初恋”をしてしまった。

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