第3話 後悔の多数決

「おい。あの子可愛くない?」

「あぁ、可愛いかも」


新入生入場で、早くも凛に目をつける先輩男子達。

少し体育館がざわつくほど、凛は新入生の中でも際立って注目された。そんな事、凛は知る由もないが。

そんな知る由もない所で、何だか黒い雲がかかろうとしていた。


「あの子、里山凛って言うんだって。なんか、クラスでも全然男子と話さないし、ずっげーおとなしいってさ」

凛の事が気になった男子生徒達が、こぞってこそこそと、凛のクラスに様子を見に訪れた。凛はもちろん、自分目当てだとは、1㎎も思っていなかったが。

その報告を受け、

「へー…」

にやり…と、静かに笑う男子が居た。

金城将司かねしろまさし14歳、バスケ部所属。2年生ながら、バスケ部エースで、178.8cmの高身長に、端正な顔立ち、誰にでもフランクなスタンス。いわゆる男子だ。

そんな男子が、何を考えているかと言えば、何となく分かるだろう。

そう。将司は、自分の可愛さに気付いていない凛に、一早くアプローチをしだした。

うぶな子ほど、からかいがいがある。将司はそう思ったのだ。




―数日後―

凛が、静と図書室に行った帰りの事だった。

廊下を歩いていると、

「あれ、もしかして君、凛ちゃん?」

「え?」

凛は、突然知らない男子に、突然何故知っているのかすら知らない自分の名前を呼ばれ、面食らった。

「やっぱそうだ!」

「え…あ…の」

おろおろしている凛に、こそっと静が、

「凛ちゃん、この人、バスケ部の金城先輩だよ。すごくモテルって私のクラスの子達が話してるの聞いたよ」

そんな静の言葉に、余計緊張する凛に構わず、

「凛ちゃん!またね!」

どぎまぎしてる暇もなく、将司はけろっとして、凛と静を置き去りにした。


「見た?今の」

「見た見た。めっちゃうぶじゃん!」

「うし!今日の部活が楽しみだぜ!」

将司は、狙った獲物は逃さない。

「部活、何かあんの?将司」

「ま、放課後、俺、重大発表しちゃうから!」


―放課後―

「あざーす!」

19時30分、バスケ部の練習が終わった。すると、間髪入れず、将司は2年生メンバー全員を集め、こう言い放った。

「俺、1年の里山凛を堕として、バレンタインデーまでにキスして見せるから!だから、賭けようぜ?出来るかどうか。そうだな…俺が勝ったら、プレステ5!負けたら、1週間お前ら全員の昼飯おごる。どう?」

「お――!良いんじゃね?俺、将司に賭けるわ!」

「んじゃ、俺も!」

「おいおい!それじゃ賭けに…」

「そんな事しない方が良いんじゃない?」

馬鹿みたいにはしゃぐ男子一同を、一瞬黙らせた男子が一人。

昼坂永人ひるざかえいとだ。

「そんな事したら、その凛ちゃんて子、傷つくよ」

「お、ひる、じゃ、お前出来ない方な!プレステ5、よろしくー!」

「え…だからそうじゃなくて…」

「うっし!いっちょやりますか!」

永人の苦言に、耳を貸そうともしない男子達を、その場ではもう何も言えず、内心凛が心配だったが、盛り上がる仲間たちを抑える事も出来ず、永人はその場を見過ごす事しか出来なかった。

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