五章 玉子焼き

第32話 元カレとの出会いは。

 一



元カレ、大森英人とは、大学時代に友達からの紹介で出会った。


紹介と言っても、デートを前提に会ったわけじゃない。友達がSNSを通じて知り合った男の人と、合コンのような企画を主催して、その数合わせ的に私は呼ばれたのだ。


彼も似たような理由で来たらしく、「こういう場所苦手なんですよね」と空気に馴染めないもの同士、少しだけ笑い合ったのを覚えている。


細身で、雰囲気はなんとなく優しそうで、遊んでいる感じもしない、たぶん好青年。はじめに顔を合わせた時、私は彼にこんな印象を抱いた。ただそれだけだった、最初は。街を歩いている人を、ぼんやりABCと格付けしてしまうのに近い。


友達には、


「祥子、大森くんといい感じだったじゃん!」


と会が終わったあとに揶揄われたけれど、私の心はそこまでめでたくなかった。


たしかに彼は格好よかったけれど、決してタイプの顔かと言うとそうではなかった。それに、どうせ彼女だっているんだろうと思っていた。これも、ぼんやりで、そういう雰囲気の人に見えたのだ。それに、数あわせできたと言う男には、大概彼女がいると相場は決まっている。


合コンの場で、一応全員と連絡先の交換はしていた。挨拶のメッセージは、参加していた男性陣全員から来たと思う。だから、どうせ女子全員に送っているのだろうと冷めた思いで、私は元カレ含めて全員にコピーアンドペーストの返事をした。


一方が乗り気でないと、メッセージとは不思議なことにどれだけにこやかな絵文字を使ってみても二、三回のラリーで終わるようにできている。


すぐにやりとりをする人は減ったのだが、なぜか元カレとのやり取りだけは続いていた。


返信をするテンポが似ていたし、振ってくる話も、私の興味を引くものばかりだったのだ。私の地元・明石についてのローカルトーク。演劇のこと。極めつけは、私の一番好きな食べ物である玉子焼きの話まで。


なにとも思っていなくても、こうも話が合うと、あれ、と運命的なものを感じざるを得なかった。


今に思えば彼は京都の出身なのに、どうして明石の地元話が分かったのだろうか。


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