8月2日 夕方

 僕の疑問は尽きないばかりか、彼女の行動でみるみる増えていった。

 しかも、その答えを知っているべき本人は、なんで知っているのかを知らない。

「ほら、深呼吸の仕方は知ってるけど、具体的にどうやって呼吸しているのかを他人に説明するのって、無理じゃない?」

 とは、彼女の言葉だ。理解できるようで理解できないんだけど。

 解消されないで山のように蓄えられた疑問も問題だけど、もっとマズイ状況が迫ってきていた。

「そういや……」

 今日の夜。両親が帰ってくるのだ。

 一昨日から2泊3日の温泉旅行ツアーに出掛けていたんだけど、ちょうど今日の夜に帰ってくる。

 バスと電車を活用してのツアーだから、多少の遅れとかは、あるかもしれないけど。ともかく、今日の夜に帰ってくるのは確かだ。

「大雪でも降って足留めでもしてくれればいいけど」

「この真夏の時期に、雪なんか降ったら世界の終わりよ?」

「なら、なにか言い訳を考えてくれよ。親2人が納得するような言い訳をさっ!」

「そうね……」

 ちなみに。この自称ドッペルゲンガーを家から追い出す。という選択肢もあるけれど、今日の昼頃に聞いた説明の限りだと、僕の腕力で追い出せそうもない。

 追い出すどころか、僕の方が追い出されるまである。なので、瞬間的に頭をよぎったベストな案だけど、頭の外へと見送ることにした。

「あんたの姉ってのは?」

「それで納得させられるなら、僕の親はブッ飛んでるよ」

 姉って……僕より年上の女性ってことでしょ? 僕より早く生まれた人でしょ?

 どう考えたら、僕の血縁関係で納得させられると思ったのだろうか?

「兄妹関係は、どんな親でも納得してくれないよ……」

「なら従姉妹いとこは? 遠い親戚の子供とか言っとけば、それっぽくないかしら?」

「……僕の親戚は沖縄に住んでるんだよ?」

「沖縄から遊びに来てるのよ」

「なんの荷物も持たないで?」

「うっさいわね! 細かい事ばっか言ってると、モテるものもモテないわよっ!!」

「うぐっ!」

 質問で追い詰めすぎたのか、面倒になった様子の彼女が、僕のメンタルを削ってくる。

 この状況が親にバレると困るのは、お互い様だというのに。


 そうこうしているうちに、制限時間は使い果たしてしまった。


「ただいまぁ!」

健太けんた? 荷物を運ぶの、手伝って頂戴!」


 元気一杯の両親が帰ってきた。

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妹は僕のドッペルゲンガーらしい シバトヨ @sibatoyo2975

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