第3話
「店員さんがさ、いらっしゃいませって言いますよね」
「は? まぁ、そりゃ、そうでしょ」
「あれ、コンビニだと特に「しゃっせー」って言ってますよね?」
相も変わらず屋上で、唐突な話題を振ってきた。
「別にコンビニに限定しないだろ。ほら、ガソスタとか」
「やー、まぁ、そうなんですけど。一番身近にあるのがコンビニじゃないですか。いつもは気になんないんですけど、今日の朝、オレンジジュース買うのに寄った時なぜか気になりまして」
「そうか。それで?」
「それでもなにも、それだけです」
なんと生産性のない話でしょう。というか、めっちゃくちゃどうでもいい。
「あ、じゃあ一番「しゃっせー」が合う店はなんですかね!?」
「コンビニ」
「コンビニかー。アタシもですわー」
でしょうね。ベストオブしゃっせーだわ。
「はぁー、なんか曇ってますねー」
「しゃっせーは終わりか」
「終わりに決まってんじゃないすか。あれ以上どう話題を広げろと?」
「ランキングにしてみたら?」
「それだ!」
ビシッと指をさして名案のように受け入れたみたいだけど、俺はしたくない。
……どうせ付き合うんですけどね。
「んじゃ、一位はコンビニで、じゃあ二位」
「あー、ガソスタ?」
「いやいや、それは早計ですって」
「ほう?」
じゃあガソスタ以上にしゃっせー二位の座に適したのがいるというのか。
「こないだ、塚センとラーメン食ったじゃないすか」
「あー、あそこな。こってり美味かった」
「あそこの店員さんもしゃっせーの使い手でしたよ」
しゃっせーの使い手とは何者……?
「だからですね? ラーメン屋もなかなかのしゃっせー店だと思うんですけど」
「それは……いや、待て」
「なんすか?」
神原が訝しむ。
「ラーメン屋はらっしゃーせーじゃないか?」
「らっ、しゃっせー……だと……!?」
「あぁ、ラーメン屋はらっしゃーせーだ」
「いやいや、それならコンビニとかガソスタにももらっしゃーせー派いるでしょ!」
あれ? あー、なるほど派閥か。
「じゃあ、しゃっせー派とらっしゃーせー派があるのか……」
「そこに王道、いらっしゃいませ派もいますよ」
「三つ巴……神原はどこ派?」
「断然、しゃっせー派です。楽です」
「なるほどな。俺もしゃっせー派だ」
理由は特にない。
「はっ、この戦いまだ勢力が増えますって!」
「なんだと!?」
「おかえりなさいませ派……?」
「……は?」
「正式名称はおかえりなさいご主人様派」
「メイド喫茶!」
盲点! というか、もはや伏兵だろそいつら。
「しかし、やはり王道はいらっしゃいませ派でしょう。大国いらっしゃいませ王国……」
「小国であるしゃっせー国とらっしゃーせー国の同盟」
「そこに現るおかえりなさいませご主人様国……!」
「天下分け目の大戦の予感……!」
さぁ、生き残るのはどれだ!
と盛り上がっていたのだけど、急に冷静になる。
「はぁ、何してんですかねアタシ達」
「暇つぶしだろ」
「……曇ってますねー」
「梅雨が近いからなぁ」
雨の匂いがした。
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