第2話 12月25日

 時は過ぎ、今日はもうクリスマス。

 地上に降り注ぐ白い雪、イルミネーションに彩られた夜の街。友人、恋人、親子連れ、老夫婦。おまけにサンタクロースのコスプレをしたお姉さんにトナカイ姿のお兄さん。前から後ろへと通り過ぎ行く人々はいつになく笑顔と幸せに満ちているように感じる。クリスマスを一緒に過ごせるような友人も恋人もいない僕にとっては、日常と変わらない平凡な一日。顔が凍りそうなくらい冷たい空気は、僕の心までも凍らせてしまいそうだ。

 お気に入りのCDショップをあとにする。黄色いマフラーの女の子。試聴コーナーで彼女が口ずさんでいた音楽が頭から離れない。彼女の綺麗な横顔を見れたことが、今年のクリスマスプレゼント。そう思えば、悪くないクリスマスかなと思う。

 キーン。耳元で音が鳴り始めた。ただの耳鳴りだろう。はやく治まって欲しい。

 クリスマスもあと数分もすればもう終わり。定期試験も終わったことだし、今夜は録画していた映画を一気に見よう。温かいシャワーを早く浴びたい。歩くスピードが自然と速まる。

 数メートル先の歩行者用信号の真下に黄色いマフラーの女性が立っている。目を凝らしてみる。彼女が横を向いた。見覚えのある横顔。CDショップにいた彼女だった。人気が少ない交差点。歩行者用信号が赤から青に変わる。彼女は一歩踏み出す。横断歩道に直進して来る一台のトラック。赤信号にも関わらず、減速する気配は全くない。彼女は向かって来るトラックの、反対側の夜空を見上げていて、気づくそぶりをみせない。

 僕の頭に最悪の事態がよぎる。よぎると同時に僕はもう駆け出していて、全速力で彼女の元へ向かう。トラックは依然、彼女にまっすぐ向かっている。間に合うだろうか。間に合って欲しい。

 キーン。耳鳴りがひどくなってきた。どうしてこんな時に、なんて考える暇はない。

 僕は無我夢中で交差点に飛び込む。彼女の身体を精一杯押す。彼女の身体が前のめりになる。僕の身体に強い衝撃が走り、そのまま視界がぐらりと揺れる。僕の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。赤い液体が地面にゆっくりと拡がっている。

 マフラーの彼女が僕に走り寄ってきて、何かを叫んでいる。僕は心配しないでと彼女に伝えるように微笑みかける。そして、声を振り絞って言った。

「……大丈夫?」

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