第33話 復讐完了、並びに新たな関係


 僕は響子と一緒に帰宅した。

 それを見た両親が僕に言った。


「今日、久しぶりにお父さんとイチャイチャしたいからお出掛けしてくるわね~!」


 と。

 そしてお酒を飲みに出かけて行った。

 何故今日なのだ! と僕は心の中で突っ込んでから、手を繋ぎ家を出て行く両親を冷たい視線で送りだした。せめてもう少しタイミングと言うか、言葉を選んで欲しかった。


 それを聞いた響子が大きく手を振り、


「行ってらっしゃいませー!」


 なんて言った時は、正気か!? とつい心の中で思ってしまった。


 それから二人きりとなった家で僕達は部屋へと向かった。



 告白予告宣言までのタイムリミットは後少ししかない。

 僕は迷った。

 響子に今の想いを本当に伝えるべきなのかと。


 結局のところ、僕は弱虫で今まで逃げてきたのだと今ならわかる。

 響子の幸せを願いつつ、一秒でも響子との時間を長く続けたいと思っていたのだと。

 そこにあるのは明確な答えではなく、弱虫で臆病な答え。

 誰かと幸せになる事を願いながら、誰かと幸せになって欲しくないと言う矛盾した気持ちは僕を弱虫に変えた。そして僕の心の弱みに漬け込んでそれは大きくなっていった。

 その結果が今なのだろう。

 今日が終われば多分お別れ。

 もしその現実が嫌ならば、万に一つの可能性を今から取りに行くしかない。

 もしビビッてこのまま今日と言う日が終われば、それはそれでお別れ。

 だとしたらやるしかない。

 それは万に一つと思っているだけで、最初から確率ゼロパーセントの恋の駆け引きなのかもしれない。

 それでも僕は響子を諦められなかった。

 ならばこの想いに決着をつけると言う意味でもこれは理にかなった行動になるのではないか。


 悩む僕をおいて。


「ふっかぁ~ふっかぁ~!」


 と言ってベッドにダイブする響子。

 やっぱり見てて思う。

 響子は予め今日の答えをもう決めているのだと。

 だから変に緊張していないのだと。


「ほら、こっちに来てよー!」


「うん」


 最後の大勝負。

 少なくとも別れてから過ごした日々の中では四月は最高に楽しかった。なにより想い出に残る最高の日々だった。別れて何度も後悔した。別れて何度もお別れなんだって思った。だけどそうはならなかった。


「相変わらず元気がいいね」


「まぁね~。それに約束守ってくるんだよね? なら私がずっと待っていた形になるからね~」


「なるほど」


「まぁ、これも運命だよね。どうしても嫌ならしなくてもいいよ。その時は告白予告宣言失敗したって私は私でその事実を受け入れる覚悟してるからさ……」


 どこか悲しそうな表情を浮かべる響子。

 そんな響子を見て僕は思う。

 響子は僕の告白を本気で望んでいるのだと。

 ならば、最後ぐらいこんなに最高の日々をくれた元カノに元カレとしてやれることをするのは当たり前のことだろう。


 舞い散れ、僕。

 だけど、最後は華々しく。

 未練を断ち切る為に、想いをぶつけろ。

 これが最後の会話になるかもしれない。

 それでも一年後、三年後、五年後、と振り返った時に良き思い出として過去と向き合えるように今最後の勇気を振り絞れ。

 最高の元カノに最高の人生を歩んでもらう為に、僕は礎になろう。


 それが元カレとして贈る、最後のプレゼントだ。

 


 覚悟を決めた。

 ベッドの端に座り僕はベッドに陣取った響子に向かって言う。


「響子……」


「なぁ~に?」


「そ、その……」


「だめ。言うなら私の正面に来てから言って! ちなみにここね!」


 手でベッドの布団を叩いてここに来いアピールをしてきた。

 僕はそのまま響子の言った正面までいき、正座をする。


「それでどうしたのかな?」


「僕はまだ響子の事が好きです。もし良かったらもう一度付き合ってください。今度は幸せにすると誓います」


 僕は頭を下げて、今の気持ちをシンプルにぶつけた。

 緊張して声が震えた。

 心臓が破裂するのではないかと思えるぐらいにバクバクしている。

 それに手からは尋常じゃない手汗がでてきた。


 すぐに答えてくれない響子。


「それは本気ですか?」


「……はい」


 ゆっくりと頭をあげて答える。


「仮に付き合ったら四月の私達のように沢山私に構ってくれますか?」


「はい」


「甘えん坊でかまってちゃんの私で本当にいいんですか?」


「はい」


 僕は素直に答える。

 だってもう好きすぎて嘘を付く余裕なんて心の何処にもないから。

 散々僕を振り回したあげく、期待までさせてきたんだ。

 可能性があると思ってぶつかるしか今の僕に選択肢はない。



「ならはっきり言うね。いやです! 私は私を幸せにしてくれる人としかキスしたりハグしたりえっちな事しようとは思いません。何よりお付き合いしたいとは思いません!」




 ――復讐完了。ってね。




 その言葉を聞いた瞬間、大粒の涙が出てきた。

 でも納得した。

 全部僕が悪いんだって。

 だから仕方がないとも思った。


 本当は悔しくて悔しくて悔しくて、どうしようもないぐらいに心が押しつぶされそうだったけど。


 そして響子が一瞬だけ、微笑む。

 これで全てが終わったと言いたげな小悪魔の笑みだ。


 おめでとう。これで君の復讐は叶ったんだ。


 幸せになれよ、この小悪魔。


 弱い僕は口で言えない。だけど心の中でこれから先、僕以外の誰かと幸せになって欲しいと願った。


「最後に私から一言いいかな」


「…………うん」


 涙を零し、唇を噛みしめる僕の元に身体を近づけてくる。

 そのまま両手で僕の顔を上げて、響子がほほ笑みながら言う。


「ずっと前から大好きだよ。和人君」


「えっ!?」


「ホントありえないぐらい鈍感! でもそんな和人君が大好きだよ!」


 そう言って、優しくキスをしてきた。


「これが私の気持ちだよ。お互いに大切な人を失う痛みをこれで今回学んだよね。それに今回はなんだかんだ言って私にもちゃんと時間を割いてくれた。とても嬉しかったよ。過去から学び成長する。これは人間誰しもが通る道だよ。相手の痛みを本当の意味で知るには自分もその痛みを知るしかないからね。これでもう相手を傷つけた時の痛みを知ったよね?」


「…………」


「だからもう一度やり直なさい? 私口では酷い事言うけど、和人君の隣にこれからもずっと一緒にいたいな! それになんで気付いてくれないのよ。好きな人以外に女の子は身体を預けて甘えないって……。本当はあの時超幸せで、ドキドキしてたんだよ? だって――」


 少し間を開けて。


「愛しているからさ! 私がずっと好きなのは今も昔も和人君ただ一人。だから和人君大好き人間の私を彼女にしてください。もししてくれたら見返りとして一生和人君を幸せにすると誓います。どうかなぁ……?」


 照れながらも、僕の目をしっかりと見て響子が言った。


「うん。僕も響子を幸せにすると――ん?」


 唇がふさがれた。

 それも響子の柔らかくてプルンとした唇によって。


「言葉じゃだめ。女の子は行動で示してくれないと不安になっちゃう生き物だから。ね?」


「わかった」


「なら今日は和人君の家にお泊りいいかな?」


 僕はコクりと頷く。

 それを見た響子がうれし泣きを始めたかと思いきや、思いっきり抱き着いてきた。


「和人君大好きだよ!」


 首が苦しい。


 息が……。


 そんなことはお構いなしと更に強く締まる腕に僕は早くも酸欠状態になり始めていた。


 嬉しい以前にこのままでは……僕が死ぬ。


 く、苦しい……。


 響子の腕をポンポンと叩いてギブアップを示すが中々気付いてくれない。


「し、しぬぅ……」


 言葉にならない声がやっと口が出た。

 だけど貴重な体内にある酸素を使ってしまったことからさらに苦しくなる。

 意識が朦朧とし始めた時、ようやく響子が僕の状態に気付く。


「あっ!? ごめん、ごめん。嬉し過ぎて幸福と復讐が表裏一体になっちゃってたよ……あはは~!」


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ、……この小悪魔が」


「あーそれ今は言っちゃいけない奴だぁ~! もう怒ったもん。今日は沢山甘えるし、ちゅーも沢山する! 私の心と身体満たすまで寝かせないから覚悟してよね!」


「ちょ……待って!」


「いや! 二人の夜は長いし、もう両想いで恋人だもん!!! ってことで少し早いけどフライングでいただきま~す!!!!!」


 そのまま僕はベッドの中へと身体を押し倒された。

 その後、不敵な笑みを浮かべた小悪魔に唇を再び奪われて力尽きるまで恋人としての関係をその身を持って実感させられる。


 でも――悪くない。


 それにしても響子がここまで大胆になるとは意外だったな。

 先日は泣いてたくせに。


 告白予告宣言に隠された嘘と真実それは――響子の復讐劇などではなく、【新しい恋人関係】の始まりだと言う事に僕はその日の夜知った。


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若気の至りですれ違い破局した僕達が求めた新しい関係それが告白予告宣言であり響子の罠だと知ったのは最後の日だった 光影 @Mitukage

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