第29話 告白予告宣言 当日


 ――翌日の朝。


 僕は考えた。

 なんで初恋って簡単に忘れられないのだろうって。

 もう好きじゃないと心に嘘ついても中々忘れられない理由はなんだろうって。


 それは考えれば考える程に答えが出ない、迷宮のようなものだった。


 でもそれは当たり前と言えば当たり前。

 人間誰しも初めての経験や初めての体験って結構新鮮で時が経っても中々忘れる事が出来ない生き物だから。案外二回目、三回目ってのは忘れやすいけど、一回目ってのは初めての経験故にいつまでも忘れられない程に脳が新鮮な出来事として覚えているのかもしれない。

 そう考えると初恋もそう。

 初めて好きになった人って意味で、脳が初めての経験に新鮮さを覚えてそれを忘れようとしないのだろう。


「ふふぅ~ん。今日は待ちに待った告白予告宣言の日だね♪」


 一緒に登校をしている響子は朝から機嫌がいい。

 それもそのはず。

 響子はこの日をずっと待ち望んでいたのだから。

 そして僕は……。


「そうだね」


 どこか浮ついた響子に、そっと視線を向ければニコニコしている。


「ちなみにいつしたいかとご希望はありますか?」


「……放課後かな」


「いいよ。ちなみに二人きりがいい? それとも大胆にクラスの中でしちゃう?」


 ニヤリと微笑む響子。


「二人にしてくれないかな。クラスは流石にハードルが高い……」


「いいよ。なら放課後和人君の家に行くからその時に気持ち聞かせて?」


「うん……」


「えへへ~。今から楽しみだな~、小学生の時に初恋した相手に告白されると思うと私はある意味幸せ者だね!」


 響子は爽やかな笑みを浮かべて言った。


「そうかもね、あはは……」


「おはよう! 響子!」


 偶然か必然か。

 この空気を壊すようにして藤原が後ろからやって来ては元気の良い挨拶をしてきた。


「おはよう、優子!」


「それと幼馴染君もおはよう」


「お、おはよう」


「おぉー! 本当に和人君も優子に友達として見られるようになったんだね!」


「そうだよ。まぁ悪い奴じゃなさそうだし、少しずつ仲良くなれたらなーと思ってるよ」


 僕が瞬きをして、二人を見ると二人の顔から笑みがこぼれた。

 まさか挨拶されるとは……何か新鮮で嬉しい。

 これは夢なのではないかと思い、試しに頬っぺたを引っ張ってみた。


「……いたい」


「あはは! 何してるの和人君」


「だって僕が朝から響子以外に挨拶されるって珍しいから……」


 戸惑う僕に二人がクスリと笑う。


「見てて面白いわね」


「だよね! 和人君たまに不思議な行動するから暖かい目で見てあげて」


「わかった」


「良かったね。優しい女友達ができて」


「優しいと言うか半分呆れてない?」


「あっ、バレた? ふふっ、君って思ってたより面白いし賢いんだ」


 頭を抱える僕に響子が言う。


「まぁしばらくはいじられキャラでいきな! そしたら優子ともすぐ仲良くなれるよ!」


「とりあえず友達は受け入れるにしてもいじられキャラは考えさせて」


「えーーー!?」


「え?」


「嫌なの!?」


「度合いによるかな……ってかなんで響子が驚くの?」


「それは……なんとなく!」


 最後は笑顔でこの場を乗り切ろうとする響子に僕は負けた。

 もうこれ以上何かを言うのは止めよう、そう思った。

 それにしても僕と藤原を交互に見ては、ウンウンと小声で言って頷いているあたり心から喜んでくれているのだろう。本当に優しくて頼りになる幼馴染だ。


 校門を通り過ぎるころには物珍しいのか沢山の男子生徒や女子生徒の囁き声が聞こえてきた。だけど二人は何も気にしていないのか、いつも通りお話しを楽しんでいる。


 二人共周りの目は気にならないのだろうか。

 まぁ、二人がそれでいいならどうでもいいけど。

 ただ一つ思った事は。

 僕をネタにして笑い話しをしないで欲しい! と言う事だ。

 なんで僕のネタでゲラゲラと笑い楽しそうに目から涙を零しているんだ。

 聞いてて切なくなるんだけど、友達ができたと言う喜びが意外に僕の中で大きかったのかこれはこれで有りかなと納得する僕が心の中にいた。


「ねぇ……二人共」


「「なに?」」


「僕をネタにして笑うの止めてくれない。てか響子さ」


「ん?」


「僕の恥ずかしいエピソードを藤原さんに言わないでくれるかな。それと藤原さん僕の恥ずかしいエピソードに興味持たないでくれるかな」


「なんで?」


「恥ずかしいからだよ」


「「えーどうしようかなぁー」」


 この二人――。


 可愛い顔した女の子は――。


 ――お互いの顔を見て、小悪魔になった。。。




 友達と言うのは時に助け合い、時に励まし合い、時に切磋琢磨し、とお互いに良い影響を与える者だと僕は認識している。そして友達とはある意味永久不滅の関係とも言えるだろう。恋のように失敗しても大きな痛手はなく、多少の事では関係に亀裂が入る事もないある意味万能の関係とも言えるだろう。それに友達だからこそ、変に相手に気を使わなくても済むことだってある。


 だけど恋はそうじゃない。

 恋は理屈で成り立たないし、お互いの心と心が惹かれ合わないと芽生える事すらしてくれない。それも片方だけじゃダメだ。お互いの心が大事になってくる。もし二人の想いにすれ違いがあれば恋仲になるのは無理だし、もし恋仲になれても好きだからこそちょっとしたことで過剰に反応してしまって取り返しのつかないことになることだってある。またちょっとした亀裂で関係が崩壊なんてこともよくある。そう言った意味では恋はとてもシビアで扱いが難しい精密機械であり繊細なガラス細工とでも言うべきだろう。だからこそ、変に相手に気を使わないといけないことだってある。なにが言いたいかというと、単純にそれだけ神経を使うと言う事だ。


 ましてやそれが僕達高校生で、初恋相手で、初めての相手となればなおさらだ。


 つまり――


「関係の修復なんてそう簡単に出来るわけがないんだよな~」


「だから告白のチャンスあげたじゃん」


 と僕の前にやって来ては空いている椅子に腰を下ろす響子。


「ちなみに成功確率を聞いてもいいかな?」


「知りたいの?」


「うん」


「なら特別に教えてあげる。今日の放課後二人きりで直接言ってくれたら43パーセントで成功するよ。今まで毎日私と登下校からデート、そして甘やかしてくれた結果がこれです!」


「結構上がったんだね」


 僕は顔には出さなかったけど内心驚いた。

 43パーセントと言うと殆ど半分だ。

 言い方を変えれば少し足りないが二回に一回は成功するぐらいの確率だ。

 ただなんで40ではなく43なのかが少し疑問に残るがそれはこの際気にしない。

 確率は少しでも高い方が僕にとってはメリットがあるからだ。

 それにしても響子の好きな人って誰なんだろう。

 そう思い、僕は一瞬響子から視線を外してクラスに視線を飛ばすが、いつもと変わらぬ光景に何も情報を得られなかった。


「どうしたの?」


「べつに……」


「あっ、わかった! 私の好きな人って誰だろうって思ったんでしょ?」


 エスパーかなにかで?

 と言いたくなるような勘の鋭さに一度ため息をついた。

 心の中が全部丸見えな気がする。


「よくわかったね」


 すると、響子が一度周りに視線を飛ばしてから顔を近づけてくる。

 それから耳元で囁やいてくる。


「お・し・え・て・あ・げ・な・い」


 ペロッ


 言葉を言い終わると同時に舌で僕の耳を舐めてきた。

 そして顔を話してドヤ顔で言う。


「ごちそうさま」


 と。

 慌てて左耳を抑える僕とそれを見てニコッと微笑む響子。



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