第28話 その意味、確認


 近くにあった大きめのクッションを手に取り顔の下半分が隠れるようにして抱きしめる響子。そのまま少し移動して座布団の上に座り直した。


「ところで和人君はチェスや将棋ってするっけ?」


「しないよ」


「ならルールも知らない?」


「少しは知ってるよ。とは言っても一般的な事だけで読み合いの話しとかになるとサッパリだけど」


「なるほど」


 僕はそう言ったゲームをあまりしない。

 昔暇つぶしにボードゲームのアプリをスマートフォンを使い少ししただけである。

 今もだが、そう言ったゲームをするよりは本を読んだ方が楽しいしドキドキすると言った理由からで別に嫌いなわけではない。


「チェトンガ系統のボードゲームについて話したい感じなの?」


「ちぇとろチョコレート!? なんか甘そうだね!」


 なぜ食べ物に変換するんだ。

 てかあんだけ食べてまだ入るのか……。

 最近の女子高生の胃袋と脳内変換が凄すぎて最早ついていけない……。


「チョコレートじゃなくてボードゲームの話しだよ。チェスや将棋とかの」


「あぁ、なるほど! チョコレートじゃないんだね!」


「うん。てか食欲あり過ぎ」


「うっ……」


 一度咳払いをして気を取り直す響子。


「話し戻すけど、チェスや将棋で相手の最重要駒の王様を追い詰めた時にチェックメイトや王手って言うでしょ?」


「そうだね。それがどうしたの?」


「私の中では今まさに和人君がその状態なんだよね。もっと言えば、チェックメイトであり王手詰みと言ったところかな」


「ごめん。ゲームをあまりしない僕にはよくわからないんだけど」


「なら詰みについては知ってる?」


「うん。簡単に言うと、将棋で言うと王手をかけられた側がその王手を次の一手で解除することがまだ可能な状態。つまり次の応接次第では玉を取られてしまう事を防げる状態のことだよね?」


 僕は頭の中にある知識を手繰り寄せながら説明した。

 すると響子がうんうんと頷いてくれたことからどうやら間違っていないらしい。


「よく知ってるね」


「まぁね。チェックメイトはチェスで王手をかけられた側が、その王手を次の一手で解除することが不可能になった状態。つまり次にどのように応接しても玉を取られてしまうことが防げない状態のことだよね?」


「そうそう。それで今その状態だよって私は言ってるの。別にこのまま最後までしてもいいけど、運命は変わらないと思うよ。なぁーんてね♪」


 …………????????

 マズイ……話しの意図がわからない。

 たまに変な事を言う時があるのは知っていたけど、今回はとびっきり僕の理解を超えたなにかを話している。

 この状況をどう理解しようか、模索するが頭の中は既にハテナでいっぱい。

 だけどゲーム大好きな響子のことだから、きっとゲームに精通するなにかだと言う事は何となくわかるが、その先がわからない。


「もしかしてしたいの?」


「えっちを?」


 僕はむせてしまった。

 真顔で女の子がそんな事を言ったらダメだろ。

 ましてや響子の下着姿を見た後にそんな事を言われたら、愚かな僕が頭の中で煩悩を働かせてしまう。

 こうなったら――。


「うん」


 響子の目が大きく見開かれたかと思いきや、顔が真っ赤になった。


「か、和人君!?」


「どうしたの?」


「……本気?」


「そうだよ」


 僕は立ち上がり響子に近づく。

 そして目の前まで行き、両肩を優しく掴むと響子の身体がピクッと震えた。


「だ、だめだよ……私達今は幼馴染だし……」


 声が震えている。

 きっと怖いのだろう。

 流石にやり過ぎたか。


「でも和人君がしたいなら……」


 小動物となった響子のおでこにデコピンする。


「恐いなら最初から冗談でも言わない方がいいと思う」


 すると、唇を噛みしめて全身を震わせてきたかと思いきや。

 勢いよく立ち上がって、抱え込んでいたクッションで僕を叩いてきた。


「ばかぁ、ばかぁ。覚悟決めたのに……なによ、ばかぁ!」


 そしてすぐに身体から力が抜けたのか、涙目で座り込んで床を軽く叩いて僕に来いと言ってきた。


「ばかぁ……。怖かったよ……」


「ごめん」


「誘い方下手過ぎだし行動もダメ。もっと自然な流れじゃないと女の子は怖いの」


 ブツブツと言いながら僕に身体を預けてくる。


「でもゴメンね。からかい過ぎちゃったんだよね……わたし」


「……僕の方こそ怖がらせてごめん」


「うん。私達今回はすぐに仲直りできたね」


「そう……だね」


「ちなみにゴムはあそこの引き棚の中にあるから覚えておいてね」


「響子?」


「ごめんなさい。でも本当にあるんだよ?」


「なら覚えておく」


「うん。って事で今日は甘えるだけ。それならいいかな?」


「それならいいよ」


「えへへ~。いつもありがとう、甘えされてくれて」


「どういたしまして」


 それから僕達の中に会話はなかった。

 ただ静かに二人きりの時間を過ごす。

 だけど、僕にとっては満足のいく時間となった。


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