第13話 夜の二人 後半


「でも今は殺したいとかは思ってないから安心していいよ!」


「うぅ……ありがとう」


「私こう見えても大人になったんだよ! ほら胸も大きくなったしそれに比例して心も大きくなった。ってね」


「全然上手くない」


「むぅ~和人君のいじわるぅー!」


 そう言って首から上をこちらに向けて頬を膨らませて唇を尖らせてくる響子。

 とりあえず僕は片方の手を止めて、響子の膨らんだ頬をつついてみた。


「きゃぁー!」


 驚いたのか身体を跳ね除けるも失敗し身体を捻った状態で背中から床に落ちていった。


「大丈夫?」


「うん、なんとか。いてて……」


 後頭部を擦りながら起き上がる響子。


「もうびっくりしたじゃん!」


「だって響子がつついて欲しそうにこちらを見たから」


「違うもん! 和人君のいじわるぅ!」


「それよりマッサージは?」


「もういいよ。ありがとう。とても気持ち良かったよ」


 笑顔で答えた響子はそのまま僕の隣に来て手を伸ばしお菓子を食べ始めた。

 響子との距離感に少し近くないかと内心思ったが変に動いてなにか言われても嫌なのでそのまま僕もお菓子とジュースを飲み食いする。


「そう言えば最近僕の近くにいるけど、友達との時間は大丈夫なの?」


「うん。これでもちゃんと友達付き合いはちゃんとしてるからね」


「そうなんだ」


「お礼いる?」


「お礼って?」


「マッサージのだよ。幾ら私のお願いとは言え、してもらった以上何かしてあげた方がいいかなーなんて思ってさ」


 そう言ってお菓子を口に運びながらチラッと僕の方を見てきた。


「別にいいよ。それで三つ目のお願いは?」


「三つめはもう少し後で使う予定だから少しだけ待って欲しいかな。タイミング的にもう少し後なの」


「そっかぁ」


「最近寂しいなとか感じたりした? 私は和人君と離れて小さい頃からずっと一緒だったのにって思ったし寂しさ感じたんだけど」


「僕はほら……響子を除けば一人の時間が多かったから」


 そう僕に仲の良い友達はいない。

 ただ普通に学校で会えば話す程度の友達しかいない。

 だからプライベートでわざわざ会って話す相手もいなければ普段から連絡を取っている相手も響子を除けば誰一人いない。


「そんな寂しい事言わないの。ほらこっち来て」


 そう言って僕の身体を引き寄せる響子。


 そして。


 抱きしめられた。


「お礼だよ。私からの温もり。今はまだ一人じゃない、私が側にいるから」


 それから数秒。

 いや数十秒だろうか。

 響子の温もりを久しぶりに感じた。

 懐かしい感覚に戸惑う僕を響子は何も言わずに抱きしめてくれた。


「人の温もりっていいでしょ? それに柔らかかったでしょ?」


「う、うるさい!」


「ひどいっ!? ちゃんと胸があたるぐらいぎゅーってしてあげたのに!」


「ば、ばか。そうゆうことばかりするから僕が勘違いしそうになるんだって気付かないの?」


「だ・か・ら。勘違いでもいいから私にゾッコンになって貰わないと困るって何度いわせるのよ。全く和人君はもう少し人の想いを察しった方がいいと思うよ」


 すると響子が笑った。


「あははは~」


 それから笑いながら言う。


「なんかイチャイチャする恋人みたいだよね私達。バカみたい、あんなに傷つけあっておきながらこんなことして。でもなんか安心感あるよね!」


「そうかな……」


「私は和人君の温もりに懐かしさと心地良さを感じたよ」


「そうなの?」


「うん。だからたまにはこうして温もり貰うね。それとも私が他の男子に温もり貰ってる所みたいって言うなら断ってくれてもいいけど、どうするぅ~?」


「わかった、僕で良ければ相手になるよ」


 なんだろう。

 この複雑な気持ちは。

 言葉に言い表す事ができない。


「言ったね? その言葉信じるからね、私!」


 嬉しそうに微笑む響子。

 あれ? でも少し頬が赤くなっている気がするのは気のせいだろうか。

 いや、そうだろう。

 だって響子は僕に復讐をしたら次の恋へと行こうとしてるんだ。

 気のせい以外にありえるわけがないじゃないか。


「ならいい感じの雰囲気である今ここで三つ目のお願いを使います。今日は私と一緒に寝てください! 和人君に拒否権はありません。ってことで一緒に寝よ?」


「二人で寝たら狭いと思うけど?」


「それでいいの。和人君が変な事さえしてこなければ私はそれで安心して寝れるからさ」


「そっかぁ」


 僕は布団に入り響子と横並びになる。

 布団の中で少しでも動くと身体と身体が触れ合う。

 それからお互いの手が触れ合った。


「緊張してるの?」


「うん」


「私もだよ。でもなんだろう。悔しいけどやっぱり安心しちゃうな、この温もり……」


 そう言い残して響子は瞼を閉じた。

 どうやら体力の限界だったようだ。一日中元気が良い女の子ってだけで体力が僕よりあるのは間違いないのだろうけど、それでも限界はあるみたいだ。


 僕は部屋の電気を消す。


 それからやっぱりまだ未練がある元カノの寝顔を月明かりと一緒に少し見てから眠りについた。

 久しぶりに見た元カノの寝顔はやっぱり可愛いかった。



 ――翌日。

 太陽の陽がカーテンの隙間から差し込む時間、僕は目を覚ます。


「おはよう」


「うぅーん、おふぁよう~」


 僕の寝顔を見ていたと思われる響子に返事をと思ったが大きな欠伸が出てしまい上手く言葉にならなかった。目からは涙まで出てきた。それを響子は細い指で拭いてくれる。それから寝ぼけてまだ頭が正常には働いていない僕の頬っぺたを引っ張って遊んできた。


「可愛い~」


「やめてくれるかな? 僕はおもちゃじゃない」


「いや! それにしてもずっと気持ちよさそうに寝てたね」


「まぁね。響子なら特に身の危険を心配しなくてもいいから」


 もう一度欠伸をしながら答える。

 眠い。

 ぐっすり寝たつもりだったけど、昨日色々とあったからそれで身体がいつも以上に疲れておりまだ寝足りないのかもしれない。

 だけどここで二度寝もどうなのかと思ったので、上半身を起き上がらせて大きく背伸びをして名残惜しさはあるが布団から出る。

 それから部屋のカーテンと窓を開け、外の新鮮な空気を吸って目を覚ます。


「それで今日は何処に行く予定なの?」


「それはね――」



 響子に言われるがまま用意し付いてきたのは、近所にある水族館だった。



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