第9話 クラスでの噂
翌日、僕は家の前で待ち伏せをしていた響子と一緒に学校へと行った。
途中同じクラスの人達が物珍しそうにして僕達を遠目で見ていたりしたせいか、今はただの幼馴染である響子と一緒に歩くと言う行為に少し躊躇いが生まれた。
だけど響子は「人の目なんて気にしてたら幸せになれないよ」と言って周りは周りと何処か割り切って僕と登校した。
そのせいなのか、今教室は少しざわついている。
「ねぇー、響子?」
「どうしたのー?」
同じクラスで響子と比較的仲の良い女子生徒――藤原優子(ふじわらゆうこ)が質問する。
「今日と言い、昨日と言い、元カレと復縁でもしたの?」
「してないよ?」
小首を傾げて答える響子を見て藤原も小首を傾げる。
まるで鏡のように二人の息がぴったりと重なった。
「ならなんで昨日から急に仲良りしたの?」
「元々私達仲良しだよ」
「えっ!?」
「だって私達幼馴染だし」
「それは知ってるけど……」
「そうだよね、和人君!」
興味があったわけではないが、僕の席の近くで二人が話していたのでなんとなくで見ていたのだがどうやら失敗だったみたいだ。
響子がチラッと僕の方を見た時にバッチリと視線が重なってしまったからだ。
「そうだね……てか僕を巻き込まないで」
「ね? 私達仲良しなの。それと優子さ、和人君ともこの際話して友達になるといいよ! きっと仲良くなれるし、そしたら私がなんで和人君と仲が良いかすぐにわかるよ!」
とても元気の良い声で答える響子にクラスがシーンと静まり返った。
そして僕と響子を交互に見始めた。
それから。
「それは遠慮しておくわ。だって私今は本殆ど読まないし、趣味合わないから」
友達関係になる事をキッパリと目の前で断られた。
それもただ断るだけでなく丁寧に理由を添えてだ。
友達になりたかった、なりたくなかった、以前にこれはこれでショックだなと思っていると、響子が僕と藤原を交互に何度も見てこの状況をどう打開しようか模索し始めた。
それは響子の顔を見れば一目瞭然で、舌を出し、よく見れば目が挙動不審になっているからであるのと、顔色も悪くなったタイミングから推測するにほぼ間違いないと言える。
「そもそも私と友達になりたいの?」
藤原の言葉に僕がどう答えることが正解なのかを考えていると、眩しい眼差しで僕を見つめてくる響子。その目はわざわざ口で聞かなくても「YES!」の一択しかないじゃんみたいな眼差しと共に首を小さく上下に何度も振り僕に何かを訴えかけているようにしか見えなかった。
「別に無理してまでなりたいとは思ないけど……」
「そう。なら今は無理かな」
「ちょっと、優子!」
「ちゃんと理由があるの」
「理由?」
「そう。君が響子を傷つけないって言う確信が持てたら友達になる。私は親友を傷つける人とは趣味が合う合わない以前に友達にはなりたくないの。だから響子と君の仲を少し遠目で見させてもらってそれで響子が幸せそうだったら友達になる。これでいい?」
藤原は僕の方に顔を向けて同意を求めてくる。
友達断られた時点でなんか嫌われてるのかなと内心思ったがどうやら違ったみたいだ。
藤原には藤原なりの考えがあってのことだったらしい。
でもなんだろう、僕は客観的に僕らの関係を見てくれる人が近くに出来て安心している。
もし間違った方向に僕と響子が進みそうになった時は、きっと今目の前にいる藤原がしっかりと止めてくれそうだと思ったからだ。
「わかった」
「うん。響子もこれで納得でいい?」
「そう言うことならいいよー! ちなみに私は和人君と一緒にいて楽しいし幸せだよ」
「そうなの?」
「当たり前じゃん! だって和人君以上に私の事を理解してくれている人いないもん!」
その言葉に僕達三人の会話を盗み聞きしていたと思われる男子達が急に胸に手を当て始めた。それも苦しそうにして、
「ま、マジか……」
「お、おれのはるが……こないだと……」
「む、無念……」
とそれぞれが言いたいことを言って教室を出て行った。
それを見た響子が「あらま~」と言って男子生徒の背中を見送る。
なんとも他人事のような反応に僕の時とは反応が大違いだなと感じた。
「うわぁ~、アイツらまだ響子の事諦めてなかったんだ」
男子生徒の背中を見送った藤原が嫌そうな顔をして呟いた。
「気持ちは嬉しいんだけどね~」
「やっぱり好きな人いるの?」
「気になる?」
「まぁ、親友としてちょっとは」
「えぇ~、クラスの皆いるし恥ずかしいしどうしようかなぁ~」
両手を頬に当て、身体をくねくねする響子。
それからニヤニヤし始めた。
傍から見れば変態にも見えなくもないその表情と態度に僕は牽制を入れておくことにする。これで幼馴染って理由だけで僕まで変態扱いされたら困るからだ。
「恥ずかしいようには見えないけど?」
「えっ!? ひどい!!!」
「いやそれは幼馴染君の言う通りだわ。なぜか響子嬉しそうだったし……」
「優子まで!?」
「それで好きな人いるの?」
「いるよ」
頬を赤く染めながらも、好きな人がいる宣言をする響子に僕だけでなく藤原も言葉を失ってしまった。僕はただ好きな人がいるのに僕に告白しろと言ってきたのかというただの驚きなだけであって別に響子に好きな人がいたからショックを受けたとかではない。むしろ早く幸せになれぐらいの感覚で僕は既に身構えていたのでダメージは限りなくゼロだったのだが、それだと告白予告宣言は響子にとってマイナスでしかないようにしか見えなくなる。それとも好きな人を振り向かせるために僕に撒き餌になれと言う意味なのだろうか。やっぱり僕には女心がいまいち理解できない。
「だ、だれ?」
「秘密。それはトップシークレットだから!」
「そりゃ、そうよね」
「まぁね!」
対して藤原は響子の好きな人に興味津々なご様子だ。
確かに女子高生にとっての学校生活の充実度は友達関係や先輩後輩と人付き合いから始まり、勉学に励み、汗水を垂らして青春を送るだけでは物足りないのかもしれない。思春期ということもあり異性に興味をもつ年頃なだけあってそこに恋があっての学校生活なのかもしれない。そして若い女の子はイケメンに弱いと本にも書いてあった。例えば野球部でエースのイケメンとかサッカー部キャプテンと比較的に目立つポジションにいて容姿がそこそこにいいとハーレム生活を送れるとも。それを読んだ時に僕は確信した。僕には無縁の痛々しい事実だなと。まぁ、容姿は平凡、学力はそこそこ、運動神経普通の僕にはそれがお似合いなのかもしれない。背伸びをしても後から疲れてメッキが剝がれるだけだし。
「あっ、わかった! 演劇部イケメン部長の和田先輩でしょ!」
「ぶっ、ぶっー!」
「えっ、違うの?」
「違うよ。それに私イケメンに興味ないから」
「どうして?」
「だってイケメンって浮気しやすいじゃん。自分が容姿いいの知っているからさ。だから私は平凡な人と幸せになれればいいなって昔から思ってるの」
「平凡……」
そして向けられた二つの視線に僕は苦笑いをする。
「……なんで二人して僕を見てくるの?」
「「…………平凡だから?」」
大変失礼な幼馴染と友達候補の女の子達である。
平凡だと自分で自覚していてもそれを自分で言うのと誰かに言われるでは全然違う。
前者は自分のメンタルをコントロールする時などに使えるが、後者はメンタルを乱すもしくは破壊にしか使われない。すなわち僕の心は今何気ない言葉と視線にボロボロにされたというわけだ。
僕は大きなため息を一度ついた。
「まぁまぁそんなに落ち込まないでよ! 平凡だけどこんなに可愛いくて男子に人気のある私と一時的にとは言え付き合えたんだし誇っていいと思うよ!」
自分の胸に手を当て自信満々に言ってくる響子に僕は冷たい視線を送る。
「そうだったね。ちなみにそれフォローにはなってないから」
「あれ?」
戸惑う響子。
天然が入っているのかなと時折思う事があるわけだが、これが天然なのかバカなのかが僕には分からない。出来れば後者であってほしい。前者は生まれつきで改善は見込めないが、後者なら後天的な可能性や知識不足の可能性が高く改善が見込めるからだ。
「響子が自分で言っちゃうとそうなると思うよ?」
「そうなの?」
「うん。でも響子は可愛いから私は許す!」
「ありがとう!」
僕の代わりになぜか藤原が響子を許すというなんとも言えない状況に僕は友人に恵まれたんだなと心の中で密かに思った。
「あっ、もうすぐHR(ホームルーム)の時間だからまた後でね」
「わかった! ばいばいー!」
「ばいばい、響子」
それから藤原が席に戻ったタイミングで響子から土曜日の予定を直接聞いた。
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