第5話 帰宅
あれから時間の許す限り僕達は色々な場所を見て回った。
途中僕が響子のテンションについて行けず疲れを見せると、さり気なく休憩を挟んでくれたりとさり気ない優しさを何度も感じることがあった。
喉が渇けば、何か飲む? と聞いてくれたりとよく僕の事を見ている。
そんな感じがした。
まぁ幼馴染だからこそ、ずっと近くで育ってきたからこそ、そう言うさり気ない僕の変化にも気付いてくれるのだろう。そして何より過去恋人関係になった事実があるからこそ、僕達はお互いの弱点を含めてよく知っているとも言える。
そう僕は今日響子の手のひらで遊ばれていたのだ。
いま思い返せばそれも悪くはなかったなと思えるわけだが、どうしても気掛かりな事が一つある。
それは告白予告宣言。
何度考えてもこの言葉の意味がわからない。
僕を本当に振りたいならばわざわざそれを僕に伝える理由が見当たらない。
だって僕に伝えたら告白しない確率の方が普通に考えて増えるからだ。
人間誰しも失敗するとわかっていながら、行動を起こす人間は稀だ。
勿論それは時と場合にもよるだろうが、今回に限っては僕にデメリットしかない。
それくらいちょっと考えれば誰だってわかる。
つまり向こうもそれには気づいているはずと言うわけだ。
「一体なにが目的なんだ……」
ベッドに仰向けになり、白い天井を眺めながら呟いた。
「告白予告宣言……なんか引っかかるんだよな……」
本来であれば今日買ってきた本を読んでいるはずの時間ではあったが、今日の事が気になって今はそれどころではなかった。
そもそもなんで四月なのだろうか。
一か月あれば僕を虜にし落とせるとでも言うのだろうか?
バカバカらしい。
僕はまだ響子の事が好き……いやいや異性としてではなく今はただの幼馴染として好きなんだ。
そうそこに未練はない――たぶん。
「そもそも僕達が別れた理由って、響子が僕に言ったんじゃないか。本より私を優先してくれない和人君は嫌いって……」
そう僕と響子が別れた理由はただのすれ違いである。
高校生になったばかりの僕達はやっぱり一秒でも一緒にいたかった。だけどそれは最初の一か月程度ととても短い期間限定の話しだった。時が経つほど僕が一緒にいて欲しい時は響子が仲の良い友達と話していたり、響子が一緒にいたいと言う時は大概僕がどうしても読みたい本があったりとお互いの優先順位がズレ始めた。僕達はすれ違ったんじゃないか。一言でいうと若気の至りってやつだ。
それから一度すれ違った僕達は自分は悪くないと意固地に相手の意見を全否定し始めた。
そして僕が――。と言ってしまった。
そのまま響子を泣かせて破局と言うのが僕と響子の過去でもある。
今思えばもう少し響子の気持ちにも寄り添ってあげてたらと後悔はしている。
だけど時は戻らない。
破局した僕達はしばらく口を聞かなくなり、家が隣同士でありながら一気に疎遠になってしまった。僕はそれを受け入れた。時の流れがそれでしっかりと進むのならと思ったからだ。
とりあえず次の相手は僕みたいに君――響子を泣かせるような酷い奴じゃなくて相手の気持ちを尊重して一歩身を退いて会話できるそんな人と幸せになって欲しいと心の中でつい先日まで思い遠目に見ていたわけだが、ここ最近気付けば響子が近くにいる気しかしないのはなんでなんだ。
「僕の気遣い気付いてないのかな」
それから僕は一度ため息をついた。
「ん~わからない」
天井に向かって一人呟いているとスマートフォンがバイブレーションした。
僕は一度ベッドから起き上がり、勉強机に置いてあるスマートフォンを取りに行く。そのまま画面を見ながら今度はベッドの端に腰を下ろす。
『ヤッホー! 今日はありがとうね!!!』
LINEで響子からメッセージがきた。
なので僕は返信をする。
『どういたしまして』
するとすぐに返信が返って来た。
『今日最高に楽しかった! 和人君と別れてからの日常で初めてこんなに楽しいって感じたかも!』
『それは良かった』
『知ってると思うけど私寂しがり屋だから四月は約束通り私との時間最優先だからね。 Are you OK?』
なんで急に英語なんだ。
てかオッケーだけ強調してこないで……僕にも一応拒否権頂戴。
そう使う使わないは別の話しとしてまずは選択肢が僕にある事が重要なのだ。
まぁここは日本語で返事をして大丈夫だろう。
『うん』
『It’s just like you to do so!』
急にどうしたんだだろう……。
頭でも打ったのか……。
でも既読付けたから何か返さないといけないしな……。
『ありがとう。それでなんで英語なの?』
『これくらいだったら中学生の英文だからわかると思って!』
『まぁーわかるけど訳するのが面倒なんだけど』
『全くつれないなー。それで今日のデートの感想は?』
『楽しかった。後やっぱり響子は気遣いができる女の子だなと思った』
『そっかぁ! これから私どんどん行くから覚悟しておいてね! ならお休みー』
『お休み』
響子とのLINEが終わると今日は一日あって疲れたので僕も寝る事にした。
部屋の電気を消して、布団の中へと入り深い眠りに入る。
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