第4話 二人の時間
服屋での買い物が終わり、次は何処へ行くのだろうと思い付いて来たのはアクセサリーショップだった。これまた女の子らしいなと思いながらも響子の後ろをついて行く。
「いてっ」
ガラスケースの中を見ながら歩いていると響子とぶつかってしまった。
「こら、危ないでしょ」
「ごめん」
「いい? 今度からは私をもっとよく見るんだよ?」
「はい……」
「よし、なら一緒に見よっかぁ」
そう言って響子は僕を連れて一緒にアクセサリーを見ていく。
店内はそこそこ広く色々なアクセサリーがあった。ちゃんとした物から手軽に買えて日常的に使える物や汎用性がある物と幅広く、お店の客層も老若男女問わず色々な人がいる。中でも一番多かったのが僕達と変わらない若い男女のペアだった。
「あっ、これ! 綺麗じゃない?」
ガラスケースとは別に商品棚に並んだネックレスを手に取り、僕に見せてきた。
「たしかに綺麗だ」
すると顔の横にネックレスを持っていく響子。
そのままちょっと上目遣いになって口を開く。
「ちなみに私とネックレスどっちが綺麗かなぁ?」
またベタな質問をしてきたな。
ここでネックレスと答えるのは愚か者の答えだろう。
こういう時の女性心理として正解なのは相手の名前を言ってあげることだが、さてどうしたのものか。あまり調子に乗られても困るから、ここは慎重に決めよう。
僕が心の中で一人悩んでいると、ネックレスに負けないぐらいに黒い瞳をキラキラさせ眩しい光を放ってきた。
その純粋な瞳を見た時、僕は抗うことができなくなってしまった。
「き、きょうこ……かな」
「ホント!?」
「う、うん……」
綺麗と認める=好き、だと脳内で考えてしまった為に僕は照れてしまった。
自分でもわかる。
この異常な火照りと緊張が響子を凝視出来ない理由そのものだと。
ふ、不覚……。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
「ちなみに今ドキッとしたでしょ?」
「し、してない……」
「またまた、素直じゃないなー。まぁ、そうゆうところが私見てて好きなんだけどね~」
僕をからかいながらも次から次へと手に取っては色々と見ていく響子とさっきから一人心臓がドキドキし始めてそれどころではない僕。急に距離を縮めないで欲しい。自分が可愛いとわかっているのか、この小悪魔め。そんなことばかり昔からしてくるから僕が――あっ、ダメダメ、これ以上考えると四月終わりに本気で告白してしまうことになりかねん。これは響子の罠なんだ。だから僕が心を揺らされたらダメなんだ。それになんだよ、告白予告宣言って。そんな事言われたら告白していいのかなとかまた付き合えるのかなとか考えてしまうだろう。僕は響子を諦めないといけないんだ。だって近くにいたらまた傷つけてしまうから。それなら他に好きになった人と幸せになって欲しいだけなんだ、僕は。
「ねぇ、こっち来てー!」
考え事していた為にボッーとしていた。
すぐに声のする方向に足を向ける。
「どうしたの?」
「特に用はないよ?」
「ならなんで呼んだの?」
「近くにいて欲しいからだけど?」
小首を傾げる響子。
これ、僕の感覚が可笑しいのか。
今は普通の幼馴染なんだけどなー。
まぁいいや、と思い僕は一人納得する。
「そっかぁ」
「それよりもこれ見て!」
そう言って大きめの髪留めを実際に付けて見せてきた。
銀色の表面にピカピカと光り輝くガラス細工に僕の目が奪われた。
「どう似合う?」
「うん。よく似合ってる」
「よかったぁー」
楽しそうに微笑む響子につい僕の顔から笑みがこぼれてしまう。
ハッと気づいた時にはもう遅かった。
恥ずかしいからこそ見せたくない相手にバッチリと見られてしまったのだ。
「あっ! いま微笑んだよね!?」
その瞬間を見た響子が僕に近寄る。
そのまま俺の両肩を掴んでくる。
「うん……」
「私との時間は楽しい?」
「まぁ」
「照れてるから素っ気ないってことでオッケー?」
「う、うん」
「なら今日はまだまだ私に付き合ってくれる?」
「わ、わかったから少し離れて」
「わかった!」
ようやく落ち着きを取り戻してくれたのか、僕から少し距離を取る響子。
その顔はやっぱり嬉しそうだった。
なんかズルいな。
だってその場の勢いとは言え、全部響子の思い通りになっている気がするから。
それにしても響子は昔から僕に好意的というかなんというかかまってちゃんな所がある気がする。だから僕との時間を必要以上に共有したがるというか。だからなのか今もこうしてまだ付き合ってと言ってきたのだろうが、小学生並みに元気が良すぎる気がするのは僕の気のせいだろうか。
「一応確認で和人君は今彼女いないよね?」
「うん」
「告白されてたりもしない?」
「うん」
僕は自分で答えておきながら少し悲しくなってしまった。
なにが好きで今は独り身ですと元カノに暴露しないといけないんだ。
「響子はどうなの?」
「わたし? 気になるの?」
「別に。聞かれたから僕も聞いておこうかなぐらいの感覚」
「あーなるほど。なら教えない」
「…………」
「私をそんなに見つめても答えないよ?」
「はい、はい。そうですか」
僕は近くにあったガラス細工を見ながら素っ気ない返事をした。
すると、僕の顔とガラス細工に顔を挟むようにして無理やり僕の顔を覗き込んできた。
「わぁ!?」
「ふふっんー」
「な、なに?」
びっくりしたー。
てかなんでドヤ顔しているの。
僕の心臓が一瞬止まるかと思ったじゃないか。
「私の恋愛事情気になるよね?」
「う……うん」
「なら教えてあげる」
僕がさっき手に取って見つめながら響子が答える。
「この前隣のクラスの前田君に告白されたよ」
「そっかぁ」
なら僕は尚更身を退くべきだと思った。
これで僕は僕で、響子は響子で前に進める。
「でもお断りしたよ。なんでだと思う?」
「もしかしなくてもだけど、告白予告宣言を実行する為とか言わないよね?」
「えーなんでわかったの!?」
驚いた顔で僕の顔を見てくる響子。
「それしか僕に思い当たる理由がなかっただけだけど」
「ちぇー。せっかく質問攻めして和人君を困らせようと思ってたのにー」
唇を尖らせて、ブツブツと文句を言う響子。
そもそも質問攻めって僕を困らせて響子に何の得があるって言うんだ。
むしろ僕にはデメリットしかないわけで、メリットが一切感じられない。
「あーこれ綺麗。決めた、今日はこれ買おうかな。ってことでちょっと待ってて!」
そう言って響子はイヤリングを一つ手に取りレジへと向かって行く。
置いてけぼりをくらった僕は仕方がないので一人響子の帰りを待つことにした。
「やれやれ。相変わらず元気だけはいつもいいな」
会計中の響子の背中をチラッと見て僕は呟いた。
それから戻って来た響子と合流して、お店を出た。
その時に見た響子の顔はやっぱり楽しそうで僕の心がチクッと痛んだ。
だけど僕は響子の幸せの為にも冷たく接して遠ざけないといけない。
だからこそ僕は僕の心に嘘をつく事にした。
――響子とのお出掛けは楽しくないと。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、
「やっぱり和人君といると楽しい。って事で今度はゲームセンターに行こっかぁ」
と言ってきた。
「わかった」
僕は返事をして一緒にゲームセンターへと向かった。
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