破 ダイスは斯く転がりて、微笑むは祝か禍か

 宿の物置に泊めてもらいながら依頼をこなす。


 例えば、どぶ掃除。

 掃除道具を渡され独り泥の中へ。


[CON対抗 □◇□ あー]


 何かに躓き、溝の中へ倒れ込み泥まみれ……。


[POW対抗 □◇□ お、それなら——]


 いや、ここで依頼を投げ出したら草臥くたびれ損じゃあ済まねえ。依頼を途中で投げ出したら受付や給仕のお姉さんからの評判を下げるって師匠せんせいに言われた。

 それだけは避けねば! 


[——幸運っと □◇□ ]


 そういや俺は何に躓いたんだ?

 泥に手を突っ込んで拾い上げ、水で洗う。

 こ、これは!


 ……なんだ?

 何かで見たような気がする。


[……依頼書]

「ぇ? あ、そうだ! 失せ物探しの依頼!」


 掃除を終わらせて、届けて依頼二つ達成だ。



 他だと、息子の素行調査。

 家からガラクタを持って何処かへ出かける子供の跡を追う。


[追跡と隠密 □◇□ あらら]


 なんとか目的地まで気付かれずに……腰辺りに何か硬い物を突きつけられた。


「俺達の秘密基地に何のようだ」


 しまった仲間がいたのか。

 追っていた茶髪の子供も振り返り木製の短剣を構える。


「足音でバレバレだぜ!」

「手を上げたまま追てこい」


 言われた通りにして空き地に作られた茶髪と金髪の子供達の秘密基地の中へ。

[子供相手に情けなくない?]「うるさい、KP」

 中にはもう一人仲間がいた。


「あ、冒険者のお兄ちゃん!」

「こないだの?」

「うん、猫見つけてきてくれた人」


 迷子猫の依頼人の童女だ。

[APP対抗 □◇□ 男の子達は少女の言葉と君の垢抜けない顔に彼女を盗られる心配が無いと警戒を解いたみたい]

 田舎臭くて悪かったな。


「じゃあ兄ちゃんにもイイもん見してやるよ」


 茶髪の方が赤味がかった石を渡してくる。

 

「ちょうどいいや。兄ちゃん俺達より力ありそうだし、その石地面に叩きつけて」


 石の地面に叩きつけると、石は割れる事も跳ねる事もなく赤くなった。手を近づけると温かい。


「父ちゃんから余った端材を貰ったんだ」

「剣には使えないね」「わ! 温かい!」


 その後は秘密基地のは明かさないと約束して依頼人へ報告。

 依頼人も子供の頃は俺もそうやって遊んでた、と安心してくれた。



 他にも色々依頼があったけど無事に渡された依頼書束は全部終わった。一ヶ月くらいで。

 

「よし、じゃあこの依頼な」

「寝る前以外にも槍の稽古つけてくれる筈じゃ」

[それ、君が思ってただけだよ]

「いや、そんな約束いつしたよ……それよりこの依頼は俺も同行する。ほれ、行くぞ」



 そしてやって来ました都の外。武器は持たせてもらえず道中の魔物は全部師匠が片付けて、やったのは解体の手伝いだけ。


「ほれ、不貞腐れんな。護衛は俺の依頼で、お前は釣りの手伝いだ。さっさと乗れ、船長待ってるぞ」


 船長て、小舟じゃん。少し大きいけど。

 まぁでも釣りならさっきの骨とかで、と。

[制作(小道具) □◇□ 慣れた手つきだね]

 

「坊主、何作ってんだ?」

「お? こりゃ疑似餌か。わっぱ、わしの餌釣りと勝負じゃな」


[DEX対抗かな □◇□ ]


 船で川を進みながら釣りをするが全然釣れない。

 船長はバンバン釣ってるのに。

 沈みもしない浮きから視線を外し、船を見渡すとある物が目に留まる。

 師匠、俺の槍持ってきてくれてたのか。


「て、これだ!」

「お、おい坊主。護衛は俺がやるからお前は釣りをし……」

「なんじゃと!」


[ん、あれ? 自動成功? なんで!?]


 ボートに立ち、次々と槍で魚を突いていく。

 いつものやり方だと大漁だな。村の近くの川より流れも緩くて楽勝楽勝。


「道理で突きだけ上手い訳だ」

「こりゃたまげた。なんで初めからを使わん」



 今回の依頼は追加報酬が出た。全部師匠に持ってかれたけど。

 [そういう契約だから仕方ないね]

 でも、この依頼以来寝る前以外にも稽古をつけてくれるようになった。

 稽古と渡される依頼をこなす日々を送っていると師匠から変わった依頼を渡される。


「鼓笛隊の旗持ち?」

「おう、人が足んねえんだと。坊主も此処を拠点に冒険者やるなら受けて損はねぇぞ」

「え、でも子供に混じってとか……」

「旗持ちはモテるぞ? あと教えてるのは受付嬢の姉ちゃんだ」

「やります! やらせて下さい!」



 受付のお姉さんと合流して練習場所へ向かうと。


「「あ、冒険者の兄ちゃん」」「お兄ちゃん」


 秘密基地の子供達と再開した。

 そのお陰か鼓笛隊の子達と早く打ち解けることができ、練習が進んだ。

 この依頼の間、師匠はやる事があると稽古が無く槍より旗持ちの方が上手くなったかもしれない。

 帽子を旗で飛ばして頭でキャッチする技も身に付けた。鼓笛では使わないけど、思った所に飛ばせるから子供達に受けが良い。



 鼓笛隊の練度も仕上がり、発表会まで後一ヶ月となったある日。師匠に呼び出された。


「坊主、お前に渡してぇもんがある」

「それより師匠、発表会見に来てくれよ!」

「……それ来月だろ。お前、冒険者になりに来たんじゃなかったのか?」

「……?」[え!?]「おい」

「じょ、冗談だ。俺は冒険者ピエール」


 少し呆れた顔をした師匠について行くと見覚えのある建物に着いた。素行調査の依頼人宅だ。

 あの時は裏手で気付かなかったけど隣の家と一緒に武器防具の店をやっている。

 中で出迎えていたのは。


「「あ、ピエの兄ちゃん」」「お兄ちゃん」


 秘密基地の子達だった。


「これ兄ちゃんの盾だったんだな」

「槍より剣の方が良くない?」

「皮鎧、おまじない掛けといたよ」


「なんだ坊主、大人気じゃねぇか」


 赤味がかった丸盾に刃先や石突が鋼で補強された俺のと使用感のある皮鎧を受け取る。


「これ……貰ってもいいのか」

「違ぇよ。これは坊主の金で揃えたんだ。だいぶ盾に使ったから皮鎧は俺のお下がりだがな」

 

 酒代に使ったんじゃ……。

[宿の手配と同時に制作の依頼をしていたよ。彼は君の依頼報酬を自分の懐に一切入れず、君の装備を整える事を優先したのさ]


「ふぐ……師匠せんせぇ」

「おま、泣くなよ。それに慣れたら討伐依頼だぞ」


 子供達に笑われながらも店を出て、宿の庭で稽古を受ける。


「そうだ! その盾は俺のと同じで衝撃を熱に変換する。確実に受け止めて、槍で突け!」

「はい!」


 盾で弾くのは扱いに慣れてからだと、盾の受け方を重点的に稽古し討伐依頼を受ける日になった。



「お姉さん、討伐依頼ありますか?」

「あるわよ。でも、初めてなんだから師匠ガラクの指示にちゃんと従うのよ?」

「急ぎ過ぎだ坊主。討伐依頼をこなせば晴れて新人は卒業だが、一人前じゃねぇぞ。一人前になるまでキッチリ教えてやるから勝手はすんなよ」

「ふふ、すっかり師匠ねガラク」

「うっさい。で、依頼は?」

「これなんてどう? 小鬼ゴブリン退治よ」

「鉱山村近くの洞窟に住み着いた小鬼か」


[幸運 □◇□ ……]


「こいつは急がねぇとだな。行くぞ坊主」

「分かった!」


 これが俺の新人冒険者生活最後の依頼。



[(致命的失敗ファンブルか……)]

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