TRPG由来のスキルを異世界の現地人に与えてみた件

真偽ゆらり

序 遊戯の神は嬉々とダイスを振る

「誰だ、おめぇは?」

「はい? 私は洗礼担当職員のお姉さんですよ?」


「おめぇさでねぇ、さっきから頭ん中でする声に聞いとるだぁ」


 頭ん中に響く声に反応したら、職員のお姉さんに変な目で見られた。オラの出てきた村ではお目にかかれねぇ様なべっぴんなお姉さんにこれ以上変な目で見られたぁなか。


「な、なんでもねぇ。これでオラも冒険者かぁ?」


「ふふふ、はい。もう貴方は冒険者ですよ。もし先の洗礼でスキルを授かっていた場合や既にスキルを所持している場合、スキル情報を提示していただければ支援金を受け取れます」


 お金が貰えるだか!


「【探索者シーオーシー】言うスキル貰っただ!」

「あの、声に出さなくてもステータスを可視表示で見せていただければ結構ですよ? あ、新種スキルの様なのでおまけしときますね」


 言われた通りにしてお金を受け取り、併設されている酒場へ向かうだ。

 注文した料理を食べながらオラは思った。冒険者なりに村を出て良かったと。

 飯は美味いし、職員や給仕のお姉さんもべっぴんな上にオラと話す時は笑ってくれる。


[それ君の訛りがおかしくて笑われてるだけだよ]

「そんな……」


 ショックだべ。


[それより初回特典で技能値を振れるけど?]


「それで訛り治んねぇがな」

[言語技能に振ればたぶん]


「じゃあ、言語技能に全部!」


[え、全部!? 賽子ダイス三回分、全部!?]


「全部!」


「分かったよ。□◇□」


 脳裏に賽子が転がる音が響く。

 ところでさっきから会話しているのは誰だ?


[僕? KPキーパーって呼べばいいよ。正体は秘密さ]


 なんとも怪しいが気にしても仕方ない。腹も膨れた事だし、冒険者として依頼を受けてみるか。


「何かめぼしい依頼でもあれば……」

[目星だね。□◇□ 特に新しい発見は無いね。

 石造りの床に木造の壁、君の正面前方の扉は建物の出入口。左側面の壁には多くの紙が貼られる掲示板が何枚も並び、その反対側には受付のカウンターがある。掲示板隣の扉は先程洗礼を受けた部屋で、受付隣の扉には訓練場と書いてあるよ。後方にはさっきまで食事をしていた……]


「KP、KP」

[なんだいピーエル?]


「言わなくても、見れば分かる。あとピエールな」

[…… □◇□ チッ]


 脳裏に賽子の音がしたが気にせず、依頼を受けるべく受付へ向かう。洗礼の時のお姉さんがいた。


「あら、さっきぶりですね。私、昼からは受付業務なんですよ。あ、ピエールさんは新人でソロなので先輩冒険者に師事して貰います。ちょっと待ってて下さいね」


[幸運 □◇□ あ!]


 お姉さんは受付から離れ、少し時間が経ってから一人の男を連れて来た。


[君より頭一つ分背が高く、厳つい顔の偉丈夫。使い込まれた軽鎧と槍が歴戦の——]

「KP、KP、だから見れば分かる」

[——あ、そう]


「お待たせしました。こちら、ガラルさんです」


 紹介された先輩冒険者ガラルと目が合う。


「随分とまぁ田舎臭いガキじゃねぇか。オノボリ、訓練場に行くぞ」


「な、オラ……俺はピエール! オノボリなんて名前じゃねぇ!」

[(いや、君は御上りでピエールだよ)]


「その声、スキル名を大声で叫んでた馬鹿か」


 いきなり人を馬鹿呼ばわりとは我慢ならん。


「おっさん、決闘だ!」


 背中の武器に手を伸ばす。


「坊主、相手してやるから今武器を抜くな。冒険者でいたいならな」

「暴れたら制圧しますからね? 私が」


 お姉さんから何かゾクっとするモノを感じる。

[これはアイデアかな □◇□ ]

 これはまさか、恋?!


 



 訓練場へ移動し、互いに武器を構える。

[相手は赤味がかった丸盾ラウンドシールドに十字——]

「KP、盾と槍持ってるのは見れば分かる」


 頭の中に響く声を無視して、お姉さんのは合図とともに渾身の攻撃振り回しを繰り出す。


「ガキ、得物が槍たぁ少しは見所が……おい、それ本当に槍か? 返しが付いてないか?」


 このおっさん、ごちゃごちゃ煩いのに攻撃が当たらねぇ。全部盾に弾かれちまう。


「うるさい! とっととこのモ……槍を喰らえ!」

「やっぱり銛じゃねぇか!」


 突きを放った瞬間——顎下から脳天へ突き抜ける衝撃が走る。薄れゆく意識の中、弧を描く相手おっさんの槍の石突刃の無い方を不思議に思いながら気絶したのだった。




「ではお願いしますね」 「おう」


 お姉さんが訓練場を去る音で目を覚ました。

 オラ……俺は負けたのか。

[君が一撃でやられ、小一時間程気絶している間に指導契約が結ばれたよ]


「目ぇ覚めたか坊主。んじゃ、指導料と俺の酒代を稼いでこい。坊主でもやれそうな依頼は見繕ってやったぞ、ほれ」


 紙の束を投げ渡され、腹の上に落ちる。

 投げた方と反対の手には俺の槍が握られていた。


「俺の槍!」

[銛でしょ?]

「銛な。今渡したのは武器がいらん依頼だ。返して欲しけりゃ全部片付けろ」


 体を起こし依頼書を見ていく。

 雑用ばかりで冒険者っぽくない……。


「依頼報酬は全部俺が貰う」

「え……」

「安心しろ、小遣いくらいはやる。宿と飯の手配は既にしてやったが、一日一つは依頼をこなさんと飯抜きだ」


 何かこのおっさんへ嫌がらせになる依頼でもないものか。

[目星 □◇□ 報酬が少ないお手伝いと書かれた依頼があるね]

 よし、この報酬が少ない依頼を受けるか。


「じゃあおっさん、コレ行ってくる」

「次おっさん呼びしたら飯は苦瓜炒めな」

「好物だが……何て呼べばいい?」

「ぬぐぐ……おっさん以外なら構わん」


師匠せんせいとかどう?]


「じゃあそれで。師匠せんせい、行ってくる」

「は? おい——」




 何か言おうとしてたが無視して、依頼書の場所へ向かうと庭付きの屋敷だった。


「やっと来たわね。じゃ、蛇退治を手伝いなさい」


 歳食った美女マダムは好みじゃないな。猫耳も。

 それより依頼内容が割に合わない。


「不服そうね。私が冷気で弱らせたのを駆除するだけだがら安いのよ。私、蛇触れないから頼むわね」

「冷気で弱る?」

「爬虫類とかの変温動物は温度変化に弱いのよ」

[そう言うと依頼人は魔法を放ち、庭の気温をどんどん下げていくね]

「KP、KP」 [なに? 言わなくてわかる?]

「魔法って初めて見た」 [あ、そう……]


 その後は依頼人の指示に従い、冷気で動きの鈍くなった蛇を全て駆除し依頼達成のサインを貰った。


「依頼受けてくれる人が中々来なかったから助かったわ。ありがとうね。じゃ、頑張って」

 

 何か割に合わないと思ってたけど感謝されるのは気分が良い。時間もあるしもう一件行ってみるか。




「お、依頼を受けた冒険者かい? コレを倉庫へ運んどいて」

[STR対抗 □◇□ 一度に運ぶのは無理だね]

「なら小分けして運べばいい」


 積まれた木箱を一個づつ、商人のおっちゃんに言われた倉庫へ運ぶ。思ったより時間がかかったが、日が暮れる前には運び終わった。


「途中から見てたよ。一個づつ丁寧に運んでくれるとはね。報酬に色つけとくよ。ありがとう」



[幸運 □◇□ ]

 達成のサインを貰い、依頼書を眺めながら宿へ向かっていると何かが視界の端で動いた。

[目星 □◇□ 依頼書の迷子猫だね]

「どこ行った?」

[追跡 □◇□ 足跡が残ってるよ]


 毛繕いしている所を捕まえ、宿近くの依頼人の元へ届ける。


「お兄ちゃん、ありがとう!」


 小さな依頼人からサインを貰って宿に入ると師匠がいた。


「どうだ坊主、飯は食えそうか?」

「コレを見ろ師匠」


 サインの入った三枚の依頼書を師匠に見せる。


「おま……依頼完了の報告までやって終わりだぞ。早く報告してこい。戻ってきたら飯だ」

「そうなのか行ってくる。立派な宿だし飯が楽しみだ。こんな宿に泊まれるんか」


「お前が泊まるのは此処の物置だぞ。最後の依頼書を見てみろ」


 慌てて依頼書を確認する。

[物置の見張り番。泥棒避けに物置で寝泊まり。報酬は宿と朝食代免除。と書かれた指名依頼だね]


「宿の手配ってコレかよ!」

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