第10話 愛してる【骨の髄まで?】

結/みやびな二人の幼馴染な日々


 土日という連休が過ぎて、今日も元気に起床。


「……おはよう」


 すると隣で寝ていた恋人が、肘を立てながらニヒルな声で言ってきた。


「………」

「………」

「……あの。ネタに走ったあと、無言が一番辛いんだけど……」

「いや……寝顔見たかったなぁと」

「ふふん、幼馴染さんの朝は早いのだ。好きな人に見られることも考えなきゃだからね、気合いも入りますとも」

「今は?」

「すっぴんさん。わぷっ」


 すっぴんさんを抱き寄せた。朝っぱらから感触と香りを堪能する。

 一緒に寝ているのは初体験を済ませた~なんて高速レベルアップをしたわけでもない話なものの、まあようするに。


「むふー……おちつくー……」

「けど、レベル高いよな……好きな人と一緒に暮らしつつ、本番はNGって」

「学生だもの、そこの線引きは大事だよ」


 土曜のうちに雅の両親には挨拶した。アイサツは大事。古事記にも載っている。

 なので、仲良くラヴラヴに帰宅した二人に、二人で挨拶しに行ったら……


“おおっ! ようやくか! 進展したぞかーさん!”

“もー! 遅いわよぅみやくん! みゃーこ、ずーっと待ってたんだからー!”

“おかおかあさん!? そういうこと言わなくていいから!”

“もー、この子ったら普段はツンケンしてるくせにみやくんのこととなるともうやかましいのなんの! あ、これ絶対にみやくん以外じゃ結婚とか無理ねーっておかーさん心配で心配で!”

“みやくん以外が相手だとちっとも女の子らしく振る舞わないどころか、近寄るんじゃねぇオーラとかすごいからなぁみゃーこは……!”

“おっとぉ!? なんばいいはらすばい!?”

“……何語だい? みゃーこ”

“まあっ、とにかくっ! ……みやくん? プロポーズはもちろん大歓迎だしおばさんもおじさんも大変嬉しいの。でもひと~つだけ条件があるわ”

“おうそうだな。こんなんでも可愛い娘! 気心知れたみやくんでも条件を出そう!”

“じょっ……条件、とは……!?”

“今まで通り努力を忘れずに、みゃーこを幸せにする努力もすること”

“ああ、そのために用意しておいた提案があるんだ。結婚後に普段のみゃーこを知って愛想を尽かさないように、今のうちに同棲をしてもらおう”

“同棲!? 用意しておいた、って……えぇえ……?”

“そうそう、丁度みやくんも一人暮らし中なんだし、早速今日からでも”

“え、ええっ!? みっ……みみ弥弥弥くんと、二人きり……? 同棲……!?”

“喜んで”

“弥弥弥くん!?”

“あ、ただしみやくん? ……本番はNG。婚前の女の子をキズモノにする行為は、お母さん許しません”

“や、それはもちろん。俺だって責任を取れる立場になってからじゃなきゃ嫌───”

“本番以外は許します”

“お母さん!?”

“神よ───!!”

“弥弥弥くん!?”

“ふふ……かーさん、今日からまた……二人きりだね”

“みゃーこ? 弟か妹が出来るかもだけど、しっかりおねーちゃんになってね?”

“それか!? それが狙いなのか!? 今さらキョーダイって……ていうか生々しい話やめてよぅ!”

“なに言ってるんだ、みやくんの両親だって今頃……なぁ?”

“ええ、うふふ”

“両親って、父さんと母さん? …………ハハッ……エッ!? いやあの……エッ!?”


 ……とまあこんなやりとりがあったわけでして。

 いやー、修二さん大爆笑だったなぁ。……いや、キョーダイ出来ないよね? 今さら弟か妹と義弟か義妹が出来るのは勘弁願いたいというか……。


「よし、じゃあ早速努力のルーティーン始めるか」

「うんうん、最初はなにから?」

「軽いストレッチから、手洗いうがい洗顔のあと、朝食の下ごしらえと朝食。着替えて身嗜みチェックしてGO」

「おはようのキスと行ってきますのチューは?」

「是非入れませう」


 ルーティーンが追加された。

 土曜の夜から両親に許可を出された雅は、“本番なる行動以外、全てを認めます”と言われてしばらくすると、キス魔になった。寝る前のちゅーはもちろん、寝転がってからのちゅー、腕枕しながらのちゅー、ていうかなんで普通に一緒に寝ることになってんだを塞ぐためのちゅー、俺をとことん黙らせるためのちゅー、黙ってくれてありがとうのちゅー、寝ようとしている俺へのちゅー、興奮を紛らわすためのちゅー、抑えきれなかったからちゅー、唇をこじ開けてのべろちゅー、とにかくちゅー。

 ……ええ、はい、俺は一昨日の夜、大賢者様となりました。もちろん本番はいたしません。誓って本当です。

 ただ本番以外なら、と……様々を、その。

 そうなれば日曜という休みの日は乱れた淫れた日になるわけで。

 互いで互いに訊きながら、賢者様へと到る道をゆっくり何度も昇りました。


……。


 朝、しっかりと雅の味噌汁をいただき、準備を済ませて家を出る。

 行ってきます、は忘れずに。鍵をかけてはいOK。

 二人向き合って、手の甲をペチンとノックし合う。学校に向かいましょうの合図……じゃなかったりした。昔っからやってたことなのに、みゃーくんになってた頃は忘れていた。

 これ、子供の頃に俺達二人で決めた、“ずっと一緒に居ましょう”の合図だった。

 忘れてたくせにほぼ毎日やってたんだから、ほんと二人してどんだけ互いが好きだったのか。


「んふふへへー♪ 弥弥弥く~ん♪」

「はいはいなんだい雅」

「晴れてよかったねー」

「だなー。ていうか、土日どっちも大雨とか珍しかったよな。まあ、お陰でいちゃいちゃ出来たけど」

「人生初の恋とイチャイチャは幼馴染にくれてやった……! これからの私にはいったい何が待ち受けるのか……!」

「下着の洗濯についての葛藤じゃないか?」

「考えたくなかったぁ!!」


 同棲、とくればいろいろと乗り越えるべきものがあるわけで。

 これが案外、受け入れてみれば楽しかったり可笑しかったり。

 わからないことはまあ、経験者である修二さんらに訊いて、乗り越えていこうと思っている。

 まだまだ思考がガキだからなぁ、俺達……。

 あ、ちなみに一昨日の夜から昨日の夜までかけて淫れた僕らの洗濯物は、冷静じゃなかった僕らがそのまま俺側の家の洗濯機にシューッ! 超エキサイティン! した。回したまま干すのも忘れる有様ですが。そのまま風呂に入った雅は俺のシャツを着ることになり……はい、襲いました。誓って本番は致しておりません。


「ねーねー弥弥弥くん」

「なんだい雅さん」

「ええっと……将来的には子供は何人欲しいですか?」

「……双子で男女とかいかがでしょう」

「……双子出来るまで、するの?」

「曲解にもほどがある」


 ───幼馴染って居るよな。

 男か女か、歳がちょっと離れていても幼い頃に馴染みがあれば、立派な幼馴染だ。

 ただ、うんと幼い頃にほんのちょっと馴染みがあった、程度で幼馴染と呼べるのかは、俺にはちょっと分からない。

 相手にとってみればとっても印象深い出会いとか瞬間があったとして、けれど俺にはそこまで大した出会いでも瞬間でもなかった~なんてことになっていれば、俺はそれを幼馴染とは呼ばないだろう。

 じゃあどんな過去があれば、幼馴染なんて言葉を当て嵌めやすいのかといえば。


「ま、のんびり幸せになりましょう。喧嘩するにしても仲直り出来るレベルで」

「じゃあ、喧嘩したらまた習慣自己催眠から始めよっか。それが嫌ならお互いに譲り合って与え合って、許し合いましょう」

「……そだな。お前が俺より味噌汁を作るのが上手で、幸せをくれるなら」

「ん。弥弥弥くんが私より美味しい朝食を作れる人で、幸せをくれるなら」


 大人になったら結婚しましょう、なんて約束した過去がある二人、なんじゃないかね。

 律儀にそれを守るため、努力出来る奴が何人居るかは知らんし、同性の幼馴染は結婚の約束はしないだろうけど。ただ、“将来俺達で○○○しような!”、みたいな約束はするだろうから。

 努力もしないで“約束だから”と何もしなけりゃ、どんな奴でも見切りをつける。

 だから、俺達はお互いに努力をし合い、いつかきっと、なんて夢を見ているわけで。


「弥弥弥くん弥弥弥くん!」

「ほいほいなんだい雅さん」

「学校につきましたのキスもしよ? 教室に入りましたのキスと、トイレに行ってきますのキスももちろんだし、トイレからお帰りなさいのキスも───あっ! 家から500歩歩きましたのキスも!」

「どんだけキスしたいのお前!! 学校ではいたしません! 風紀を守りなさい!」

「……私、生徒会長になって校則変えよっかな……」

「あのお願いマジやめて? 動機が不純にもほどがある」

「……したくないの?」

「めっちゃしたい」


 俺達は学生らしくを貫きつつ、今日も今日とて“幼馴染をやっている”。

 恋人らしいこと、を思い浮かべて、もうとっくに幼馴染のままやってきたなと笑ってみるけど、恋人としてそれをやるだけで呆れるほどに頬が緩む。


「そういやさぁ」

「ん? なに?」

「モミアゲだけ長いの、なんでだっけ」

「……昔、誘拐などに注意しましょうって連絡網があった時、どこぞのエロスなクソガキャアが、そこが長ければ誘拐されて裸にされてもそれで隠せるって言ったんだよ」

「マジか。勇者だなそのクソガキ」

「勇者なもんか。とんだおっぱい星人さこのエロスが」

「…………エ?」

「……そのくせ、登下校とか買い物は、俺が絶対一緒に居るからーとか言い出すし」

「…………俺?」

「私にそんなこと言える男、弥弥弥くん以外何処にいるのよ」

「OH……」

「まあ……んふふー♪ んみゃーくんになっても、買い物一緒に行ってくれるってキミで、私はとっても嬉しいよ?」

「へ? ぇ……ぁあっ!? ……~……」


 そんなわけだから、俺達は今日も今日とて恋人として、幼馴染をやっているのだった。自分の言ったことを忘れても、ベタ惚れなままの自分に呆れつつも。



  さて、目標も出来たし頑張らないとだ。努力努力。


  とりあえずはまあ、こいつのことを養えるようにならないと。


  じゃないとこいつ、自分の全部をくれないそうだし。


  それを伝えると真っ赤になって、「ミミミミッソ・スープ、ガンバリマス……!」と言った。


  ……俺が一日を頑張れる理由は、こいつがまだまだ増やしてくれそうだ。

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