第3話 タイプの異性に惚れない方々【自分ランキングでは常に一位です】
承2/恋愛ゲームを始めよう
「というわけで、私としては将来そんなウェーイなノリだけで女をモノにしようとする、面白みの欠片もない男なんてごめんなわけなんだよね」
雅は弁当箱からサンドウィッチを召喚、もふりと食べ始めた。
対する俺はゼリーとクッキーらしいのだが……と、開けてみれば……その先にある黒い物体にヴ、と妙な音が喉から出そうになったけど、ふわりと香るものにアレ? と首を傾げた。
「どジャアァァァ~~~ん! のり弁風のり弁当さ!」
「いやそれのり弁やん。ていうかゼリーのゼの字もないんだが」
黒い物体は海苔であった。その下には……ふりかけごはん。あら大好物。安上がり? 結構じゃないの。
「嘘だからね。で、そのおべんとさんは、お弁当屋さんののり弁に限りなく近い作りをしております。参考にのり弁買ってきたくらいだし。でもそれを渡すのは味気ない。なので1から作りました。ビショージョの手作りヴェントォーだぞぅ? ウ~レスィー?」
……参考に海苔弁を買ってきた、とな。こいつまさか、その所為で修二さんのキュウPゴーア・メタリックシルバーが肉まんになったんじゃあるまいな。
まあ、過ぎたことだし、嬉しいとは感じるわけだから、すいません修二さん。
「…………なるほど、一周回って嬉しいわ。サンキュ」
「おべんと作りって報われないよね。あんな手間暇かけてんのに返事がサンキュだけだよこのトーヘンボク」
「おーいシェフのお任せフルコースー」
「お任せ言ったのは今日の私だ! 昨日仕込んだ私は言ってない! つまりこれは昨日の私の悔しさだ! 甘んじて受け取れ炸裂馬鹿!」
「おう、受け取って、現在進行形で食ってる…………んまいなコレ。ほんとありがとな。明日は俺が作るから、手ぶらで登校よろしくな」
「こ、このエロスが!!」
「手ブラじゃねぇよ」
阿呆なやりとりをしながら食事を続ける。まあ、うん。な? わかるだろ? こいつと恋仲とか……なぁ。でも言いたいネタが一発で分かるくらいには、こいつのことも分かってしまっているわけで。そんな女性とはそうそう会えるとは思えないわけで。
でもなぁ、こいつが自分に惚れるイメージとか沸く? 誰かに惚れたこいつとか、想像出来る? 無理だろ。
惜しいなぁほんと。友人枠ならほんと気も許せるし、ほんと背中も預けられるような奴だし、ほんと傍に居て安心できる相手なのに。ほんとほんと。
「………」
「? どしたの?」
「いや。性格……っていうのかな。自分の意識改革とかがズバっとできれば、お前のこと好きになって、お前にも好きになってもらって、こうして馬鹿やりながら好きでいられたりするんかなーって」
「んー…………おー、あー……んん、いいねそれ。好きになれるかもしれない人、を探し続けるよりよっぽど有意義な気がする」
「どんだけ探したくないんだよ」
「クソ異性はどうやったってカテゴリ分け出来ないでしょ。出来て、クソウェーイ人か、クソナルシス人くらいじゃない? 私には無理だよ、あのテの人種と会話するだけで寒気が走るのさ。基本人の話なんて聞かないし、ノリだけで強引にグイグイ来るし」
「彼女はナンパに遭ったことがございまして、その時の男が大学通いの集団粘着性ミリオンウェイサーだったのでした」
「説明あんがと。ウェイ系サークルってなんだろね。ウェイ言ってりゃ人集まるの? とか思ってたら、頭おかしいくらい部員居て引いたよわたしゃ……というわけでハイ採用。意識改革、やってみよう?」
「具体的には?」
「んー……習慣自己催眠って知ってる? 毎日起きた時と寝る前に、鏡を用意して自分に言い聞かせるんだけど」
「あー……聞いたことあるな。ていうか俺が勉強してる横でお前がWetubeで見てたアレか」
思い出して言ってみれば、雅がこくこく頷く。口には唐揚げ。冷めても美味である。
俺はといえば、海苔の下にふりかけがまぶしてあるご飯をがぼりと口に放り込むと、もぐもぐと味わっている。……んまいなこれ。のり弁の再限度が高い上に美味い。いい仕事。
ところで唐揚げをどこぞで買ったとして、作り置きをパックで渡された時ってショック無い? 俺、二度揚げすると硬くなるとかそんなんいいから、“熱くてカリッとした唐揚げ”が欲しい男です。
「んぐんぐ……ふぉう、ふぉれをふぁ? …………ぷはっ、そう、それをさ? お互いにやってみるのはどうかな。好きになれれば万々歳。お互いに最高に気を許せる恋人が出来るわけさ! 素敵じゃない! まあそんなもんが効くだなんてこれっぽっちも信じてないわけだけど」
「ちったぁ信じる心を養えアホゥ」
「信じてるものくらいあるわよ失礼だなぁ。まずみゃーくんの人間性を信じてる。あとはみゃーくんの将来性とかみゃーくんの凡人性とかみゃーくんの───」
「一言で済むことをわざわざ増すな。恥ずかしいでしょーが……!」
「え? 済む? んー……一言ぉおお………………、…………あ」
「?」
「……みゃーくんは巨乳好きだ」
「信じる心の
まあ、巨乳大好きですが。そして、雅のバストは豊満ヤッター! と、こんなことがございましたからには、ちったぁ努力なさいってことになりまして。
話し合った結果、友人、親友って意識をお互い無くした先に、自分達の理想の男or女が居ると分かれば、躊躇も必要ないわけで。
「じゃ、早速今日からね」
「今日から、って。実際どうやるんだこれ」
さて、こうして俺達の習慣自己催眠? は始まったわけだけど、やり方が少し違っていた。
習慣自己催眠は文字通り、自分で自分に語り掛けるっていう変な行動を習慣化させるものだ。
しかしこれが案外効く。
些細なことでもチリツモでございます。そう、ピュアなる粉雪のように……!
「じゃあみゃーくん」
「なんだいみゃーさん」
「好きだ!」
「声だけ迫力あるのに顔が無表情ってスゲーなおい」
漫画とかなら“どーん!”とかオノマトペ貼られてそう。それもう告白現場の効果音じゃないよね?
「ほらほらみゃーくんも。お互い好きだ好きだ言って、心の底に“実はあいつのこと好きだったんだ”を刻み込むの。ていうかむしろ私に恋を教えて? 恋出来たら私の全部をあなたにあげる」
「だから養え?」
「好きになれたら、全力でサポートするよ? あなたのためなら全力で働いてみせるーとか言える自分を、自分でも想像出来ない私を変えてみたいって思わない? むしろ私はそんな自分を見てみたい。実感したい。人が変わる、って自分がなったらどんな気分なんだろ。気にならない? その先で生涯の伴侶が見つかるとか最高じゃないのさ」
「…………親に存在疑われて追い出されないか?」
「相手がみゃーくんだったら手放しで喜んでくれそうだけど。私の両親、顔がいいだけの友人たちに散々と騙されたらしいからね、中身で勝負! でも自分達は顔がいい。理不尽だよねぇ」
「お前が言うな」
「んー……私綺麗? みゃーくんから見ても?」
照れる様子もなく、軽く腕を挙げて自分の腰回りをキョロキョロ見るような仕草のまま訊ねてくる。まあ、綺麗かどうかと言われれば確実に綺麗なんだが。
「綺麗で胸大きくて安産型で、腰もスラっと。性格なんて傍に居て欲しいランキング常に一位で、俺の理想が全部詰まってんのに、なんでモテないのお前」
「みゃーくんにべったりだからじゃない? ていうかそのランキングもみゃーくん基準でしょ?」
「……外から見るとそうなのか。マジかよ」
「うんうん、……んっ、んんっ! ……すぅ、はぁ───“なんで……なんであんな普通顔の男とっ!”…………なんて言ってくる男子も居たからねー」
「アルティメット級に熱の籠った演技でそれを俺に言う必要」
「馬鹿だよねー、それを相手に言う男子が、言った相手に好きって言ってもらえるって思ってるのかね? 私は人を蹴落として一番を目指す人よりも、努力で悪いところを直せる男性に好感を持つ女だよ? だからみゃーくん、是非私を惚れさせて? ハッキリ言うと、これだけ良い条件揃ってるのに惚れない自分がなんかヤだ。私の理想ランキングだってみゃーくんダントツ一位なんだよ? なんで惚れないかなぁ私」
「だからそれを俺に言う必要性」
告白したわけでもないのに、面と向かってあなたに惚れてませんって言われる男子の身にもなってくれ。
「潜在意識内の私よ……顔か、顔なのか。私みゃーくんの顔大好きなのに。見てて安心する顔ってよくない? 私は良いと思います」
「それ言われた俺はどう反応すりゃいいんだ」
「というわけで、気がついたら告白する、みたいな習慣を作ろう。大丈夫大丈夫、周りにはまた新しい遊びが始まったーくらいにしか思われないだろうし」
「それでお前が男子から告白されまくるようになったら?」
「え? あー……俺も俺も~って? ……みゃーくん、“なったら?”と訊かれても、普通断らない?」
「そりゃそうだ」
訊くまでもなかった。
というわけで、なんか告白型習慣自己催眠が始まるらしいです。
これ、起承転結で言ったら、決着はどこに落着するんだろう。
あ、たぶん今が丁度起承転結の承あたりだと思います。
「ところでみゃーくん。一言で終わる信頼の在り方ってなに?」
「信じることを並べても、俺のことしか出てこないんだったら“俺を信じる”、だけで十分だったろって話」
「うん、私みゃーくんが巨乳好きであることはこっれっぽっちも疑ってないよ?」
「そうじゃねぇよ」
……承か? これ。
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