第4話 歴戦王イキるカーナ いえ、イキってません
そんなわけで翌日の土曜。
土、日と休みなのはとてもいいことだと思います。就職は週休二日の場所がいいです。
兄や親に曰く、仕事がどれだけ好きでも客と関わる仕事は休み無しじゃ続かない、とのことで。
「あっはははは、ごめーんカナー! 待ったー!?」
「遅いぃっ! 自分で時間決めておいて、これもう“今来たところだよ”って言ったらわたしも盛大に遅刻してるよ!」
「カナって地味に痛いところ突いてくるわよね。まあ、確かにあの言葉はお約束だけどどっかおかしい。待った? って言ってるのに今来たところだよはほぼほぼ遅刻だ」
「にしたって遅い! 一時間も待たせる!? わ、わたし、好きでもない架空の男の子に待ちぼうけくらわされた地味子、みたいに周囲から笑われてたんだから!」
「うわー……うん、それはごめん。でも地味子の部分は謝らない」
「噛み千切るよ?」
「ごめん、それはせめて“殴るよ?”にして。ていうか噛むって何処を?」
「二枚舌」
「素直にごめんなさい。あと軽口ばっかでそれもごめん」
「はぁ……うん、はい、許します」
「わお! カナ大好きー!」
雫ちゃんががばちょって抱き着いてくる。溜め息を吐きつつも受け止めてみれば、「でも遅いとかメールも飛ばさず待っててくれるカナとかもういじらしくて惚れちゃいそう……!」とか言ってくる。
イラッときたので、抱き着いている雫ちゃんの脇腹に、立てた親指をドズゥと「おぐぅ!?」埋めた。効果は抜群だ。
「いたたたたた……! よ、よし、じゃあ気を取り直してまずは服から! 美容院の予約にはもうちょい時間あるから」
「んー……ほんとに買うの? わたしこれで全然いいよ?」
「地味以前の問題だこのばかちん! なんなのそのダルダルでモッサい服! デブい姉のおさがりです♪ って言われたら10人中10人完璧に“あ~”って返すわ!」
「い、言っとくけどすっごい勉強とか捗るんだからね!?」
「今時の女子高生が部屋着のまま外に出るんじゃないの!! もーいいもーわかった! 言っとくけどショップに着いてもあんたに選ばせたりしないからね!?」
「えぇ……!? わたし、前から平常心Tシャツとか気になってたんだけど……」
「却下!」
その後、わたしは肩を怒らせ歩く雫ちゃんに先導されて、ぶ、ぶー……ぶてっく? に。
そこで店員さんに声をかけて、振り向いた店員さんがわたしを見てびくりと停止して、挨拶をしてくれる様をボーゼンと見ていた。
「ほら、絶対店員さんにも“うわモサッ!”って思われたわよ」
「モサってなによぅ……」
「えーと、店員さん。この娘、こういうワケ有りのクソ女子高生なもんでして」
「へ? あ、ちょっ!」
雫ちゃんがわたしの眼鏡をシュパンと取って、ついでに髪までも無断でほどいてしまう。
その上で店員さんに向き直させて、長めの前髪をバッと持ち上げられて……
「あぁ……これはもったいないですね。もしやこのあと?」
「ええ、美容院です。なのでこの娘に合いそうなコーデをお願いしたくて」
「なるほどなるほど、お任せください。男も女も、デビューには一生がかかっているって言えるくらいですから」
「ですよねですよね」
「し、雫ちゃ……っ! 返してぇ~……!」
眼鏡を取り戻そうとするも、わたしの手はきゅっと店員さんに握られて、奥へ奥へと衣服の森へと引きずりこまれてゆく。
その奥で、わたしは軽く髪の毛を整えられて、髪を持ち上げられたまま固定させられてしまった。
視界が明るいと落ち着かないのに……。
「これはなかなかやりがいが……! ん、んんっ! では始めますね?」
「うう……よろしくお願いします……」
お金、足りるかなぁ……。
ちらっと見た服のお値段、目玉飛び出るかと思ったんだけど。
このあとは美容院とか……お金、本当に大丈夫かなぁ。
……。
結局その日、服を買って小物を買って、美容院に行って……なんということでしょう、“しかしイケメンに限る(女性バージョン)”が完成してしまった。
ちなみにあのブティックに、平常心Tシャツはなかった。
「どーよ! やっぱカナは磨けば光るタイプだったわね~♪」
「馬鹿にしてきた陰キャ(笑)系ラノベ主人公たちになんと謝罪すればいいか……! ごめんなさい……ごめんなさい……っ……ごめっ……ごめんなさい……!!」
「なんでガチ泣きしてんの!?」
「モッサくてよかったのに……! こんな事実知らないままでいた方が、能天気でいられたのに……!」
「心配しなくても容姿変えたくらいじゃアンタのモッサい精神は変わりゃしないわよ」
「雫ちゃんの鬼畜辛辣娘!!」
「せめて鬼畜か辛辣かどっちかにしなさい!」
「この魔王様!」
「ならよし」
「いいの!?」
そうはいうけどこれはない。
前髪で顔隠して三つ編み眼鏡でよかったのに。
「んー、ところでカナ? ラノベとかだと女性がこういうことすると、そのあとどうなるの?」
「え? えと……付き合ってた男の子が居る場合、その人が地味だったりすると、クラスの上位カースト男子たちに声をかけられて、調子に乗って彼氏をイジメたりとか……」
「…………カナっておだてても調子に乗ってくれない困ったちゃんだものね」
「わ、わたしだって調子に乗っちゃうことくらいあるよぅ」
「へー……たとえば?」
「え、えっとね? 朗くんに眼鏡と三つ編み似合ってるねって言われてから、朝に一時間以上かけて髪型キメるようになったり、思い出して家で燥いでたらタンスの角に小指ぶつけちゃったりとか……」
「断言するわ。アンタ容姿がいくら変わってもカナだわ」
「なんかわたし自身が蔑称扱いされてない……?」
「いーからいーから。んじゃ、明日とりあえずトドくん呼び出して告白ね」
「なに言ってるの雫ちゃん! 朗くんあんなにカッコよくなっちゃったんだよ!? ただでさえもう日にち経っちゃってるんだから、思い立ったが吉日なんだよ!」
「はい待ちなさい。アンタはその“意識が向けば突如としてやってくる吉日”になにを仕出かす気?」
「もちろん告白!」
「アンタ正気か!? やっ……わかりやすいっちゃわかりやすいかもだけど!」
そう、時間は待ってはくれない。
もしや今日、今この時にでもどこかで告白でもされているかもしれない。
もしくは誰かがそうしようとしているかもしれない。だったら自分から突撃しなくちゃ恋じゃない!
恋とは───同じ人を好きになれば、一人しか幸せになれない恐ろしきものなのだから───! ……両方玉砕もあるけど。
「GO!」
「あ、ちょ、このばかー! 走ったりしたらいろいろ整えたのが台無しになるでしょーがー!」
「ほらー! 邪魔になることばっかだよ雫ちゃん! ありのままの自分で好きになってもらえないなら、そんなのなんの意味もないじゃん!」
「いいからちょっと落ち着きなさいこの馬鹿! ……トドくんの連絡先とか知ってる? なんならもう呼び出すわよ。告白場所はどこがいい?」
「朗くんの家の前!」
「やめろっつーてんでしょーが!」
「雫ちゃん……」
「……あによ」
「恋は───戦いなんだよ!」
「意味わかんないわよちょっ───待ちなさいっつーの! 待ちっ……速ぁああーっ!?」
本ばっかり読んでいると不健康になるわYOと母親に言われたわたしに隙はない。運動しなきゃお小遣い滅ぼすわYOと言われたわたしにも隙はない。
さあ、この勢いのままに、彼の家まで行って───この想いを、断ってしまった恥ずかしさの分だけ思い切り届けよう!
そう……恋は戦いなのだから───!!
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