第2話 おなごはふたりじゃかしましくないのですか?

-_-/三木奏みきかなで


 突然呼び出されて、怖かったから友達の雫ちゃんに付き添ってもらって、校舎裏に。

 待っていたのは雫ちゃんが「うわ、結構イケメンチックじゃない……?」なんて耳打ちするくらいの男の人。

 見るからにソワソワしているのがわかるくらいのソワソワな人が、わたしを見るなりビクーンと肩を弾かせて、深呼吸をし始めた。


「うーわー……めっちゃ緊張してるでしょあれ……」

「い、言っちゃ悪いよ雫ちゃん」

「ていうか私のこと眼中になくない? カナだけ真っ直ぐ見すぎっていうか……今時一途だねぇ、まぁ私はそっちのが好感持てるけど」

「じゃあ雫ちゃんが行ってよ……!」

「行くワケないでしょバカ。呼ばれたのアンタなんだから」

「で、でもわたしは、ほら……!」

「アンタも一途なのは知ってるけどね。別用件だったらいい恥さらし者よ?」

「あぅっ……」


 手紙。校舎裏。男女。……告白でしょう。

 そう連想できるような状況は揃ってはいるけれど、もし違ったら恥も恥。

 用意していた言葉も恥にしかならないわけで、わたしからなにかを切り出すわけにはいきませぬ。

 うう……今日も放課後に、図書室で、って思ってたのに……! 早く行かないと、彼が帰っちゃうかもなのに……!

 そんなことを考えていたからか、急ぐような気持ちで話を進め……ようとした途端に、いっぱい気持ちがこもった“好きです”をぶつけられた。

 ……え、なんて言葉が喉から出そうになるのを飲み込んで、自分の“一番”を思い出して言葉を返す。

 彼は、まるで脳内にどごーんと爆弾でも落とされたみたいにガビーンとショックを受けたように震えて、言葉を振り絞る。

 ……ここで“隙”を見せたらいけません。見せるなら他人への“好き”です。

 なので、大好きなあの人のことを思い浮かべて、質問に対してこくこくと頷いた。

 それで……決着はついた。

 男の人は泣きながら走っていって、わたしはといえば……え、えー……と、若干呆然。


「ねぇ……アンタあのちょい雰囲気イケメンくんと、なにか交流あったりしたの?」

「え? ううん? 初対面の筈なんだけど……」


 そう、わたしはあの人のことをなんにも知らない。むしろ私の方が“誰だろう”を訊ねたいくらいだ。

 だから───


「ま、今はそれより図書室か。ほらほら急ぐわよカナ。愛しのぽっちゃりさんが、アンタのこと待ってるかもなんだから」

「え、ちょっ……雫ちゃん!? い、愛しのなんてっ……!」

「照れてないで進め進め~♪ 私ゃ珍しくも、太ったメガネ男子と外見地味女子のカナの恋を応援してるんだからっ! いや~、最近の外見ばっかで判断する好いた惚れたじゃない、人間性で勝負にかかるアンタらの恋が、私には眩しすぎる! なのでおかわりください」


 言って、雫ちゃんが茶碗からお箸でご飯を食べるゼスチャーみたいなのをする。


「なんなの、そのご飯食べてるみたいな動作」

「他人の幸福でメシが美味い」

「不幸じゃなくて?」

「友人の一生がかかってるかもしれない恋愛事に対して、面白いから~とかそんな理由で首を突っ込むたわけた知人友人キョーダイ枠など知らん! 私は誰も触れていない粉雪のような純粋な友心トモゴコロで、あんたの“人格に惚れた恋愛”の末を見たいのだよミキソーさん!」

「ミキソー言わないで。三木奏だから。あと首突っ込んでる時点でなんも変わらないと思うよ? 結局楽しんでるんじゃない、雫ちゃん」

「なにをぬかすか小童が。私は“そっちの方が面白いから”でカナの行動を曲げさせたりしないよ? むしろアンタの頑張りこそが彼の心を射止めるべきだって、本気で思ってるってば」

「むう……でも楽しんでるんだよね?」

「それはごめん。成功してほしいって想いはもちろんだけど、“これからどうなるか”を楽しんでいる心はどうしようもなくございます」

「はぁあ……じゃあ、いつか雫ちゃんが誰かのこと好きになったら、その時は存分に楽しませてもらうよぅ……」

「おー、楽しめ楽しめ。私ゃカナと違って、そういう人が出来たら直球で行くつもりだから」

「……雫ちゃん。さすがに好きな人にボールをぶつけるのはよくないと思うの」

「その直球じゃねーわよ」


 呆れながらも図書室に急ぐ。背中を押す親友に苦笑しながら。

 けど……そうして辿り着いた図書室にはお目当ての彼は居なくて。

 帰ったのかな、なんて思っても、次の日も、また次の日も彼が図書室にやってくることはなかった。


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