ラヴコメ小話劇場
麺男-menman-
イメチェンも 気づかれなけりゃあ 意味がない
第1話 イメチェンした。フツメンだった。
-_-/
恋をする気持ち、というものを教えてくれた人が居た。
ふと気がつけばその人のことばかりを考えて、目が合えば鼓動が高鳴って、早くなって、目を逸らしたくないからじぃっと見つめるんだけど、顔はきっと赤くなっていただろう。
そんな気持ちに気づいていたのかいないのか、彼女もどこか恥ずかしそうに頬を染めて、少し顔を俯かせて。
そんな彼女に告白しよう、と思い至るのにそう時間は必要じゃあなかった。
彼女が恥ずかしくない自分に、とかそんな気持ちは案外二の次だった。自分の容姿に自信があるとかじゃなく、俺が俺を恥ずかしくないように変えたいって思った。
下を向けば、嫌でも目立つ出っ張った腹。
痩せよう痩せようと何度思っても挫折する心。
そんな、努力も食欲にあっさり負けて、気力も運動嫌いにあっさり負ける自分が、決意することが出来た。
恋っていうのはすごいもんだって、そんな眩しいものを活力に、どこまでだって頑張れた。頑張って、努力して、納得出来る自分になって。
そしてついに俺は、彼女へラブレターを……いやラブレターじゃねぇよあれ。
放課後、校舎裏に来てください
うんラブレターじゃない。ラブレターってのはもっと心と気持ちを込めたものだもの。
なので呼び出し状? を彼女の下駄箱に入れて、俺はドキドキする胸に手を当てたまま深呼吸を繰り返した。
繰り返して繰り返して……あの、余計にバクバクいってるんですが?
大丈夫か俺、告白する前に死なないよな? あ、だめ、息苦しい、でも耐える。愛戦士はくじけない! くじけないからこそ、よろよろと校舎裏までやってきて……深呼吸を続けているわけで。
「うううう……ひ、ひと~……!」
人という字を掌に書いて、ごくりと飲むフリをしてみる。効果はない。
だったらと、棒人間を描いて飲んでみる。時間をかけた分、少し紛れた気がした。
……これだ。
ならばと、本当に字が書けるわけでもない右手人差し指を左の掌に走らせて、人っぽいなにかを描いていく。生憎と絵心はない。イメージ的にへのへのもへじよりはマシかも、なんてエアアートが完成すると、それを飲もうとして……
「───!」
じゃり、と足音がして、それが段々と近づいてくるのに気がついた。
振り向いてみれば、どこかおどおどした彼女が俺を見つめながら歩いてくる。
俺を見た途端にぴくりと肩が跳ねていたのを確認。あれ? もしかしてヤバい? かなり警戒されてる?
い、いやいや知らない間柄じゃないし! 結構いい関係築けてきたと思うよ!? さすがに怯えられるほどじゃない筈なんだけどなぁ!
あ、でも告白されるんじゃ、なんて予想は立てられるよな。
じゃあ……? あ、やっぱり告白されたらどうしよう、とか思ってるんじゃ……!?
いやいや男は度胸! もはや退けぬのだ!
「あ、の……」
「こ、こんにちは! 突然呼び出してごめんなさい!」
「い、いえ、あの……それは、構わないんですけど……あの、どういったご用で……」
わあ、事務的っていうか義務的っていうか。
あれ? これ早くも終わっておりませんか?
いやいや相手もただ緊張しているだけって可能性もあるし。
「あのっ……は、はー、はー……すー、はー…………はい。ごよ、ご用、ですよね。はい。あの……」
「………」
テンパリつつも、深呼吸で落ち着いて、彼女を真っ直ぐに見る。
そして、彼女の喉がこくり……と息を飲んだ瞬間、俺は───
「あのっ……ずっと好きでした! 俺と付き合ってください!!」
今、陳腐も陳腐、けれど気持ちをこめるならこれっきゃない告白文句を言い放つ!
さ、さあ! ご返事や如何に「ごめんなさい、好きな人が居るので」ごぉっはぁああああっ!?
す、すきっ!? 好きな人!? お断りテンプレ文句だけど、少し俯きがちに頬を染める彼女を見たら、あ、これマジだ……と理解出来てしまって。
「そほっ……そ、そう、ですか……! あ、あのっ……それは、その、いえ見苦しいのは承知の上なんですけど! もう、その……割り込む隙もないくらい、ベタ惚れって……ことでしょうか」
「~…………!!」
顔を真っ赤に、きゅうっと目を瞑りながら、こくこくこくと頷かれた。
あ、これダメだわ、めっちゃ好きだわその人のこと。俺でもわかるくらい大好きだわー、やばいわー。
「オッ……オホッ……おじ、お時間……取らせて、ゴメンナサイデシタ……! あの、どうか……お幸せにィイイイッ!!」
「え? あっ───」
クールに去ろうと思ったけど無理だった。走り去りながらも涙がちょちょぎれた。
「ななな泣くな、泣くなよ俺っ……メガネデブだった俺だ、顔だって痩せても普通だったじゃないか! 誰だよ陰キャが痩せたりイメチェンすれば成功するって言ったの! 信じる俺も馬鹿だけどさぁ! でもお陰で痩せられました! 振られたけど! ふらっ……う、ぐっ……!」
大好きでした! 本当に、本当に大好きでした! “メガネデブのトドローくん”な俺にやさしく接してくれたあなたが本当に!
だから恨みごとは言いません! どうか幸せになってください!
幸せにするのが俺じゃないのがただただ悲しいけれど、その気持ちは本当です!
だからっ……だか───うわぁああん! 青春のバッキャローマァーン!!
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