第2話 夢1

 小学1年生の時、ちょっと不思議な夢を見ました。

 私が記憶している初めての不思議な体験です。


 私が目を覚ました場所は車内でした。


 後部座席には私一人だけ。私は車内から外の様子を窺うと、4歳まで住んでいたシンガポールの街並みが広がっていました。

 懐かしさとうれしさで、車内から街並みを見ていた私は、少し興奮していたと思います。

 私は興奮冷めやらぬ状態で、助手席に座る母と、運転している父に、何かを伝えました。何を伝えたのかは忘れました。ですが、二人は私の声に答えることも、振り返ることもしてくれませんでした。

 そんな二人を不思議に思いながらも、当時住んでいたマンションに着いたとたん、私は我先にと車内から降り、一直線にマンション前に躍り出ました。

 感嘆の声をあげた私は、その思いを後ろにいる両親へと振り返りながら伝えたのですが、車も両親も、私の前から消えていました。


 いなくなった・・・。そう思い、周りを見渡していたのですが、両親や車だけでなく、その世界には私以外誰もいませんでした。

 妙に冷静な気持ちでした。「まあ、いいか」そんな気持ちだったと思います。

 どうしようか・・・。そんな風に考えていた私の後ろから、扉が開く音がしました。


 マンションの壁に突如現れた扉。

 ほんの少し開いている扉・・・。


 もしかしたら、あの中に両親がいるのかもしれない。私はそう思い、その扉へと歩いていくと、そっと扉を開けました。


 扉の向こう側は、赤い壁と赤い絨毯がひかれた床。

 扉分の幅しかない長い通路。

 左右の壁には等間隔で並ぶ絵画。

 その奥には、豪華な椅子に座る母方のおじいちゃん。

 私が生まれる前に亡くなった、写真でしか知らないおじいちゃん。

 私がおじいちゃんを見つめていると、おじいちゃんは二コリと笑い、手招きをしてくれました。私はその手招きに導かれるように一歩、中に入ろうと足を踏み入れました。

 あと少しで絨毯に足が着く。

 と、いうところで目が覚めました。



「おじいちゃんの夢を見た」


「そっか、写真を見てたから出てきたんじゃない?」


 私が夢の話を母にしたら、何ともあっさりとした返事。

 当時はあまり深く考えていなかったので、特にそれ以上は覚えていません。


 ただ、中学生の頃、何気なくこの話を友人にしたところ、


「危なかったね、たぶんそれ、中に入っていたら、連れていかれてたかもよ?」


 なるほど、そういう考え方もあるのか・・・。


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