実話怪談記録帳

畑 実留

第1話 正座

 初めて「怖い」と、感じた体験です。

 小学3年生の頃、深夜にフッと目を覚ました時でした。


 高校生になるまで、自分の部屋を持たせてもらえなかった私は、1階の和室で母と弟と私の3人で川の字になって寝ていました。

 その日も、3人で川の字になって寝ている時でした。

 私はブルっと、寒気で目が覚めました。


『寒い・・・』


 そう思いながら体を起こした私は、なぜ寒いの分かりました。

 掛布団を被っていなかったからです。


『布団被り忘れた』


 どうりで寒いわけだ。と、納得した私は、掛布団を掴み再び眠ろうとした時でした。


『誰かが私を見ている』


 掛布団に手を掛けたまま止まる私を、誰かがジッと見ている。

 その視線の先へと私は目を向けました。

 風通しをよくするために、リビングと和室を隔ている襖をほっそりと開けている空間に、黒い人影が正座をしていました。


 顔も、性別も、表情も、まったくわからない存在が、隙間から私を見ていました。

 急な存在に、しばらくその黒い影を見ていた私。

 一瞬泥棒かと思ったのですが、違う、と思いました。

 何故なら、その雰囲気が父と似ていたからです。背格好もどことなく父を思わせる存在でした。


『お父さん?』


 そう声を掛けようと口を開きかけたのですが、体の奥から恐怖心が湧いてきました。


『違う・・・お父さんじゃない』


 私は、私を見ている存在から、そっと目を逸らしました。2階から、父の大きないびきが聞こえる。父は2階で寝ている。なら、私を見ている存在は?

 怖くて掛布団を離した私は、そのまま横になったのですが、何も体に掛けていないからか、寒気が収まらない。無視して寝たかったのですが、眠れないほど寒い。


『せーのっ!』


 と、心の中で勢いをつけると、掛布団をサッと掴み、体を丸めて意識しないように眠りにつきました。

 朝になり、母に話したのですが「本当にお父さんなんじゃない?」と、信じてくれませんでした。友人や担任の先生にも話したのですが、茶化されて終わってしまいました。


 あれ以来、その影は現れていません。


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