6 // 麻比奈レイカ:正義の味方
……一体私はどこで間違えたんだろうか?
麻比奈レイカはそう、首を傾げる。
テロに加担したから?
“妖精”を逃がしたから?
それとも、その前。
この社会と折り合いをつけ、“月観”に入って、OLとして、第2支社に勤務して――ある日そこを襲ったテロリスト集団をヒールを履いたままボコボコにしたのが間違いだったのだろうか?そのせいでピエロに目を掛けられたのは間違いない。
それとも、学生時代。色々格闘技を極めてしまって“新東京の鬼”とか大会荒らしとか呼ばれた時期が間違っていたのだろうか。恋人は出来なかったのにやたら舎弟と好敵手が増えたあの日々、アレが良くなかったのか。
それとも、……父が囚われた直後、少女の夢がパパのような弁護士になる、からパパを助ける、になったのが間違いだったのか。
幼心には悪い奴に嵌められてパパがピンチ、と言う認識しかなかった。だから悪い奴をやっつけてやる、と思った。ママは、多分、悲しい事の中で少しでも前を向けるなら、と思っていたのだろう。喜んでお月謝を払ってくれたし、それで訪れた空手の道場で、初見でキャッキャ言いながら師範代を伸してしまって、青ざめて汗だくの歴戦感漂うおっさんに、『時代さえ、違ければ……戦国時代ならば………』と悔しそうに言っていた辺りからもうなんか変だったかもしれない。
要はスタートからレイカはなんか変だったのだ。
正義の味方になる為に強くなろう!と言う事を本気で考える少女だったのだ。半分くらいその頃の女児向けアニメに影響されてた気はするが。
そして志したらそうなれそうなレベルになってしまう辺りもおかしいのかもしれない。空手から始まり数多の格闘技を極め運動部の助っ人で男子から声がかかるレベルの怪物になり、その上ピエロに引っ張られて軍事関連の技能も恐ろしい速度で習熟してしまった。
だが、まあ、そうやって回り回って人間やめて、その結果が今。
結果的にテロとはいえお父さんを助ける為の活動をしているし。
結果的に……。
『そこの20メートル先、直下ですね。6体です。神崎サヤがピンチです』
「はいッ!」
と、なんか復活した上司からの通信に導かれ、レイカは廊下を走っていた。走りながら手榴弾のピンを外し、投げる――一瞬だけ物陰に隠れ、爆発――と同時にその中へと飛び込む。床に開いた穴、煙の最中迷いなくそこへと飛び降りて――。
――レイカは、その場に着地した。
唇を引き結び、俯き立っている少女。その周囲を囲う、骸骨みたいな
………あれ?1体少ない、と首を傾げたレイカは、気付いた。
自分の足元の下。そこに、最後の一体がいる事に。どうやら、飛び込んだすぐ下にドローンが居たらしい。
レイカに足蹴にされたドローンは、半ば体を折り曲げるようにしながらそこに立ち続け、変な方向に曲がった顔がレイカを見ていた。
「……優秀なバランサーだな!」
超不安定なはずのドローンの上に平然と立ちながら、レイカは言って、同時に手に持っていた散弾銃をドローンの顔面へと向け、トリガーを引く。
ガン――と言う硬質な音を鳴らして、足の下のドローン、その顔面がはじけ飛び、崩れ落ちる。――崩れ落ちる最中でも未だバランスを保ち続けながら、レイカは散弾銃を他のドローンに向け、トリガーを引く。
1体目が倒れ切る前に2体目を始末し、そこで、
「え?」
と、漸く状況を理解したのだろうサヤが呆然と呟いて、その周囲のドローン、残り4体が、その銃口をレイカに向けた。
躊躇のない射撃が、レイカを襲う――寸前、レイカの姿が視界から消えた。
ただ見ているだけだったサヤにはそう見えた、と言う話だ。
どこに行った、と探す前に、3体目のドローンがスラッグ弾に沈み、レイカの背中がサヤの視界に踏み込んでくる。
(……今、壁蹴って3角跳びした?)
としか思えないサヤの前で、また一体、ドローンがスラッグ弾に崩れる――前に、レイカがその崩れるドローンの首を掴み、
「タァッ!」
と言う掛け声とともにそのドローンを振り回して、別のドローンへと投げつけた。
フレームだけとはいえ、ドローンの重量はゆうに50キロ近くあるはずだ。それを片手で――高度に全身の筋肉を使っているが、そんな事サヤに知る由もなく――振り回し、投げ飛ばし、別のドローンへとぶつける。
一体は残骸。一体はまだ稼働状態――折り重なって倒れたそんなドローンをスラッグ弾でまとめて貫き、まとめてただの残骸に変え――残るドローンは1体。
それへと、レイカは散弾を向け、トリガーを引き――、だが、弾丸が放たれない。ただ、回転式のマガジンがカチッと鳴るだけ。
「……アレ?ああ、弾切れか……」
と、呟いたレイカへと、最後のドローンは銃口を向け。
「危ないッ!」
と、サヤが声を上げると同時に、ドローンの銃口が火を吹いた。
――蹴り上げられて、真上を向いた銃口が天井を打ち抜く。
全身の力を余す事なく使ってドローンを蹴り上げ、その拍子に片手で逆立ちし、その状態で静止した、と、思えば、レイカはそのまま横に回転する。
カポエラだろうか。ブレイクダンスだろうか?そんなどう考えても人間業とは思えない動きで、レイカは目の前にいるドローンの足を払い、倒れたドローン、その銃のついた手を踏んで、散弾を逆手に、グリップを下に両手で握り、
「よいしょ!」
と言うどこか抜けた掛け声と共に、全力で銃底をドローンの胸に突き立てた。
ドローンの胸部がひび割れ、銃底が食い込み、その奥の動力を砕いたのだろう。
火花を散らし、びくんと蠢いた末、そのドローンもまた動きを止めた。
「……フゥ、」
そう息を漏らして、レイカは散弾のマガジンを開け、空にしたそこに、また新たに、弾丸を詰めて行く……。
それを、サヤは呆気にとられたように眺めていた。
「強、かったん、ですね」
漸く呟いたサヤを前に、レイカは弾を詰め終えたマガジンを仕舞い、言った。
「まあ、それなりにな」
(どう考えてもそれなり、じゃ済まない……)
そう、助かったと言うよりも呆れ始めたサヤの前で、レイカは言った。
「さあ、サヤちゃん。逃げよう。私が護衛する!私の役割、完全におとりだけだったらしいしな……」
カッコ良かったはずなのにもう遠い目をしているレイカ。それを前に、サヤは暫し、考えて……やがて、言った。
「そう、ですね。行きましょう」
そして、サヤは歩き始める。出口、とは逆の方向へ。
「サヤちゃん?出口はそっちじゃ――」
「ユウの身柄を取り返す。それから、“ハンド・メイド・エデン”を壊す。私の護衛、するんですよね。じゃあ、お願いします」
そう、一応礼儀正しく頭を下げたかと思えば、サヤはつかつかと歩んでいく。
それを、レイカは唖然と眺めて……それから肩を落とした。
(結局私は振り回されるのか……やめろ、って言って、聞いてくれないだろうな)
遠い目が癖になってきたレイカ。その耳に、サヤの声が届いた。
「あ、レイカさん!前にドローンが!」
「く……」
と、言いながら、立場や扱いはまだしも、強さだけは紛れもなく
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