Ep4 反感のワンダーランド // カーテンコール

0 // sunny boy : miss shot

 両親を失った少年。両親を殺されたと理解した少年。

 彼には、不思議な力があった。他人の認知を意図的に歪める事が出来る手品のような力。

 技能があった。父から教わり、あるいは時たま父の手伝いまでするような技術。誰よりも早く、誰よりも深く、0と1の世界デジタルを読み解ける技能。アナログなコンソール物理的なキーボードを好む父を真似て、それを叩いていた細腕に、その日、黒くなまめかしく輝く拳銃を握っていた。

 知性があった。女優であった母から、そこから転身してやすやす博士号まで取得できてしまう才媛から受け継いだ知性、美麗さと鋭敏さを兼ね備えたその瞳を、その時、仇敵を前に、少年は歪めていた。

 新東京第0階層。正真正銘の地下シェルターにして、“アマテラス”そのものがあるその薄暗く輝く灰色の箱の中。

 力は少年を隠し。技能は少年をその位置まで導き。歪む瞳は、そこに映る仇敵へと、確かに、引き金トリガーを引いた。

 放たれた弾丸は、確かに仇敵を打ち抜いた。その、心臓を。

 そのはずだと言うのに――。

『――なんだ。神崎のガキか、』

 少年は世界の全てを舐めていた。世界の全てを見下して、その上で見下している事に気付かれないよう振舞えるくらいには、少年は才能に溢れていた。

 だからその日。少年は、おそらく初めて知ったのだ。


 ……失敗ミスを。

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