第2話「館キラキラ安らぎ」1.2
部屋の中心に大きな時計がある。
ボーンボーンボーン.
視線を向けたと瞬間に鳴る。午後2時を指していた。
帰れなかったらどうしよう。
モヤモヤで胸がいっぱいになる。
「待たせたね。」
ケイさんは奥の大きいソファに深々と座る。
まもなく、お手伝いさんがやってきた。
お茶のセットをもってきた。
カップにお茶が注がれる。良い香りが部屋中に広がる。
カップをあったかさが伝わる。
まず一口。口の中が香りでいっぱいになっていく。
次にほんのりと甘さを感じた。
さっきまで不安の気持ちがなくなっていく。
だんだんと心がやすらいでいった。
「美味しい。」
「私が目利きをしている紅茶だよ。」
言葉に自信に満ち溢れていた。
「ホントに美味しいです。ペットボトルの紅茶しか飲んでなかったので。」
聞いた途端、ケイさんが黙り込む。
そして前かがみになり話を切り出す。
「どっから来たんだい。やっぱり蘭国かい」
ランコクはわからなかったけど、詳しく話した。
高校生であること。仕事は決まってること。坂道を転んであそこにいたこと。
「夢物語を聞いているみたいだよ。」
「嘘じゃありません。」
「疑っているわけじゃないさ。知らないことがあることに驚いてるだけなんだよ。」
「ケイさんは何をやっているんですか。」
「商いだね。」
「ビジネスってことですか。」
女性社長なんだ。すごい。お金を稼ぐ方法とか知らないかな。
楽な仕事で儲かるやつ。
「びじねすはわからないけど。
まぁ有名になったんだけどね。私もまだまだだね。」
ケイさんは謙遜しながらいった。
「これから外に用事のついでに連れていきたいところがあるんだ。」
「どこなんですか。」
「見るのがいちばんさ。あいつらにも刺激になるからね。」
この街のことがさっぱりなので、気遣いが嬉しかった。
だけど、誰のことをいっているんだろう。
「ちょいと待ってな。着替えを用意させるから。」
ケイさんが客間をでて、しばらくするとお手伝いさんが現れた。
「こちらの装いに着替えてくださいまし。」
和服が用意されていた。
「では。私はこれで。」
ハッとして声をかける。
「あの、着る方法がわかられないです。」
すろと、お手伝いさんの顔がほころんだ。
「女将さんのおっしゃったとおりですね。」
「変なこといっちゃいましたか。」
「着付けを教えてやってくれといわれておりました。
着付けがわからないはずはないとおっしゃっておりました。」
「先を読んでいる方ですね。」
「えぇ。一商売を1人で立て直したお方ですから。」
やっぱり賢い人なんだ。女性社長のことはある。
頭良くないから。絶対できない。
「あの。お店の漢字って何て呼ぶんですか。」
「油問屋(あぶらどんや)といいます。」
アブラドンヤ。初めて聞く単語。何してるお店なんだろう。
お手伝いさんの手を借りて、和服に着替え、玄関まで案内してもらった。
「門のところでお待ちです。どうぞ、いってらっしゃいませ。
いってらっしゃいか。
お母さんから毎日かけてもらっていたのに。
聞けないかもしれないとさえおもってしまう。
不安を振り払うように門に急ぐ。
「あら。似合うじゃないか。」
「和服を着るのは初めてです。」
「すこし歩くけど良いかい。」
「はい。大丈夫です。」
「どこにいくんですか。」
「変わり者が集まるところさ。」
「この辺の方なんでしょうか。」
「土佐だね。生まれは。場所は亀山にあるからね。賑やかな場所さ。」
話すそぶりがワクワクしていた。
きっとケイさんのお気に入りの場所なんだろう。
「いこうか。暮れの六つまでにはここに戻ってくるから安心しな。」
クレノムツ。またわからない言葉だ。
「そうですね。」
わたしたちはカメヤマに歩き出した。
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