第420話 領地での日常

僕は今二重生活とでもいうべき、そんな生活をしています。


一つ目は常山公爵としての領地運営。

もう一つが転移者を中心とした並行世界で妻となった女性との暮らし。


中心は後者の方で、こちらにはタイミングという制限があるので、並行世界で生まれた子供を妻が希望している以上、どうしてもこちらを中心にしないと、この子供は生まれません。


そしてもう一つの常山公爵としての務め。

これは友郁達との暮らしの合間、実際にはもう必要のない修行の時間を充てています。


並行世界で得た経験、スキルが現実の僕に何故かそのまま受け継がれたせいで、修行をする必要がなくなってしまったんです。


ぶっちゃけ公爵としての活動は苦手なうえにしたくないのが本音ですが、成り行きとはいえ公爵の地位を受け入れてしまった以上、ある程度その務めを果たさないわけにはいきません。


まあほとんどは家臣がやってくれるので、あまり大した事はしていないのですが、妻のうち2人は現国王の姉に当たるので、時々国王に呼ばれるのが面倒と言えば面倒なのですが。


しかしいくら国王とはいえ、絶対に守ってもらわないといけない事柄が一つだけあります。


それは僕の家への来訪。これは絶対にしないこと。

近づいても駄目。無論周囲に音などを立てるのも厳禁。


つまり僕の【家】とその周囲は隔離しているのですが、それを無視し騒がしくしたり、ましてや乱入などは御法度。


もしこれを守らない場合はいくら国王と言えども、全力で反旗を翻すと伝えています。


尤も一日の半分ほどは公爵の館にて過ごすので、あえて危険を冒してまで【家】には来ないでしょうが。


そして今日も公爵の務めを果たし、帰宅します。

帰宅はいつも、並行世界で修業していた時間が終わる時間です。

それと【家】の周囲は友郁達に姿を見られないように注意しながら警備を置いています。

これは侵入者を防ぐためで、相当の手練れしか職務を任せていません。

常山領で守る最優先がこの【家】だからです。



「ただいま。」


僕は普通に家に帰ってきた時のように玄関から入って声を掛けます。


「おかえりなさいませ旦那さま。」


侍女さん達が出迎えてくれます。


侍女さんが家の雑務を行ってくれるのですが、これは転移者の妻も含め、妊娠していない妻に行ってもらっています。


「ああただいま。あ、いい匂いだね。」


「はい。【おみそしる】が出来上がっています。」


友郁や泉は、時間が許す限り日本での調味料を再現しようとしてくれて、現在は味噌、醤油等の大豆由来の製品の再現が成功しつつあり、今日は味噌汁なんです。


「みそ汁の味は慣れたかな?」


「ええ、薄い味付けでしたら何とか。しかし泉様は【だし】が手に入らないとぼやいておりました。」


「ダシか。こればかりはあと数年我慢だね。魚を手に入れ、そこからとるからね、みそ汁のダシは。」


並行世界で手に入れる事の出来なかった食品や調味料は極力使わないようにしています。


万が一があるといけないですからね。



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