第190話 Side 森江泉  その2

「あ、申し訳ございません、営業2課の常山と申します。その、大変失礼かと思いますが、私の顧客である、とある店なのですが、そのお店の試作品を試食して頂けないでしょうか?」


そう言って持ってきたのは、私達は受付業務を4人で行っていますが、4人分の小箱に入ったケーキです。

しかもあれは!若い女性に大人気のお店のケーキ!


今はたまたま業務の引継ぎで4人全員同席していましたので、皆で色めき立ちます。


つたまらず私がつい声をかけてしまいます。

「あ、その箱は、あの人気のあるお店のではありませんか?」


「そうなんです。実はこのお店は私のお客様のうちの一軒なのですが、契約する代わりに、新商品の試食の感想を聞かせてほしいと言われまして。それで、大変申し訳ないのです、会社で私は女性と接する機会が殆ど無いもので。できればその、皆さんにご協力願いたいと思いまして。」


私もたまに買いに行きますが、常に人が多く、なかなかお目当てのケーキを買えない店なのです。


皆喜んで受け取ります。


そして、4人分のアンケート用紙を。

見ると、それぞれの味の好みを把握したいのでしょう、甘いのが好みとか、甘目控えめがいいのか、そういった項目が幾つかあります。

それによって感想が大きく違うので、そう言った項目がいくつか、なるほど、よくできたアンケートです。

「あの、このアンケート用紙は誰が?」

「あ、何か不備がありましたか?私が考えたので、その、この店のお客様は女性が殆どですので、そう言った配慮が足りませんでしたか?」


いえとんでもない!

見た目の項目、味の項目、そして総合的な意見、要望等・よくもまあ気が付くなと思う事が幾項目もあり驚くます。


そしてそう言った案件をいくつか、どうやら私達だけではなく、男性にもそう言ったおすそ分け?を兼ねたアンケートをしているらしく、その男性が入社して1年が過ぎる頃には、馬鹿にしていた他の営業マンからも好評で、社の評価も相当高い様子。


彼は人柄がよく、誰に接するにも嫌味が無く、また、下心が私達受付にもない感じで好感が持てます。

大抵の男性は、下心を隠しもせず、食事に誘ってきたりしていますが。全く男ってこれだから嫌なのですわ。


そんなある日、休日に街で彼を見かけました。


毎週ジムに通う私。

ジムに向かう途中、その、常山さんを見かけました。何故か胸がドキッとします。

どうやらアウトドアショップに入って行ったようです。たまたま?私の通うジムは、その真向かいで、だから見かけたのでしょう。


また、その、ジムの行き帰りに常山さんを電車で見かけた事があります。

彼はお年を召した方や、私でも気が付かないような妊婦に率先して席を譲っていました。


特にまだお腹のふくらみの目立っていない妊婦をどうやって見分けていたのか分かりませんが、よくわかりますね。

姉に聞きますと、お腹の膨らんでいない時の方が、電車では辛いのだそうです。

お腹が膨らんでいれば、誰でも気が付いてくれるけれど、妊娠6カ月ぐらいまでは、人によっては全く膨らみがわからない事も多いそうで。

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