第9話 才村 友郁 その1

Side 才村 友郁


私の名前は才村 友郁。


社会人一年生です。


今日も電車での仕事帰りです。


今日も何とか同じ電車に乗れました。え、同じ電車って?


それは私が秘かに思いを寄せている、同じ会社の常山先輩です。


私はその、人より恵まれた容姿をしています。両親に感謝です。だからでしょう、よく男の人に好意を寄せられます。


高校、大学でもよく告白されました。


ですが、勉学第一の私は、すべてお断りをしました。


そして、遂に社会人。


正直うぬぼれと言われるかもしれませんが、この顔です。

就職先では、企業の顔ともいうべき、受付に採用されました。


そして、やはりと言いますか、此処でも男性が色々声をかけられますが、時にはあからさまにセックスしようとか、それセクハラですよね?食事に行こう、お酒をと。

明らかに何かを期待しての、あまりいい感じのではなく。

そう、下心丸出しの下品なのが嫌なんです。


見た目がいいと言うのも善し悪しです。


そして、男運が無いのか、私にそう言った声をかけてくる男性は、残念ながら総じて下心前面に押し出してくる人ばかりです。


私はまだそう言った経験がありません。初めては夜景の見えるホテルで、と考えてます。駄目ですか?


そう言った男性ばかりの中、常山先輩をたまたま見かけました。


電車に乗って、私と同じ時間帯の通勤のようですが、座席に座っていても、お年を召した方を見かけると、率先して席を譲っています。あ、通勤以外でも実は見かけるんです。通勤中はさすがに席を譲る以前の問題で、座れませんから。


そうそう、常山先輩はなかなかわかりにくい妊婦の方にも声をかけ、席を譲っています。


中々できる事ではありませんし、よく男の人なのに気が付きますね?。


そんな先輩にちょっと興味を持ったのですが、たまに受付にやってきます。


そして、軽く挨拶をしてくれます。


特に下心があるようには感じません。


仕事で失敗した時に、その笑顔があると頑張れるとか言ってくれます。


下心のある人の言い方とは、上手く言えませんが違います。


また、たまに取引先で何かを貰ってくるようですが、女性向けのケーキとかを貰うと、たまにお裾分けをしてくれたり。男の人でもケーキは食べるのでしょうが、女性のほうが甘いものは好きな人が多いですから!


もう1人の先輩嬢に聞くと、何時もああですよ、と。


それに、女性だけでなく、男性にも好評のようで、社内の評価は高いです。


そして、先輩嬢も密かに彼を狙っているようですが、私も心惹かれてしまっています。ただ、森江先輩みたいな大人の女性、しかもあんなにきれいな方に好意を寄せられて、断る男性っているのでしょうか?


そんな彼は私や森江先輩の好意に気が付く事なく、毎日頑張って仕事をこなしています。


ですが、あの時がやってきました。


電車の中で、急に気分が悪くなりました。


何とか彼の元へと思いましたが、電車の中の人々はどんどん倒れていきます。


そして、私も意識を失いました。


気が付けば見知らぬ場所。


しばらく様子を窺っていましたが、彼がいました。


私は思わず立ち上がり、向かおうとしましたが、誰かに突き飛ばされてしまいました。


咄嗟に手で身体を支えましたが、左手が燃えるように痛いです。



すると、常山先輩がこちらに気が付き、やってきてくれます。



「大丈夫ですか?」


そう声をかけて下さいました。


「ええ、ええと確か、同じ会社の常山様ですね?」


「覚えていてくれたんですか?」


「ええ、あ、痛い。」


「何処か怪我?」


「手首が痛いです。」


どうやら捻挫をしてしまったようです。



「動かさないで。多分折れてはいないよ。酷い捻挫だけど。じっとしていれば、数日で治るから。僕も似たような経験あるからわかるんだ。」



「ああ、よかった。」


色々確認してもらって、骨は大丈夫と言って下さり、ほっとしました。

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